ルカ傳福音書

第一章

1(われ)らの(うち)()りし(こと)物語(ものがたり)につき、(はじめ)よりの目撃者(もくげきしゃ)にして、 2御言(みことば)役者(えきしゃ)となりたる人々(ひとびと)の、(われ)らに(つた)へし()のままを()(つら)ねんと、()()けし(もの)あまたある(ゆゑ)に、 3(われ)(すべ)ての(こと)最初(さいしょ)より詳細(つまびらか)()(たづ)ねたれば、 4テオピロ閣下(かくか)よ、(なんぢ)(をし)へられたる(こと)(たしか)なるを(さと)らせん(ため)に、これが(ついで)(ただ)して()(おく)るは()(こと)(おも)はるるなり。
5ユダヤの(わう)ヘロデの(とき)、アビヤの(くみ)祭司(さいし)に、ザカリヤという(ひと)あり。その(つま)はアロンの(すゑ)にて、()をエリサベツといふ。 6二人(ふたり)ながら(かみ)(まへ)(ただ)しくして、(しゅ)誡命(いましめ)定規(さだめ)とを、みな(かけ)なく(おこな)へり。 7エリサベツ石女(うまずめ)なれば、(かれ)らに()なし、また二人(ふたり)とも(とし)(すす)みぬ。
8さてザカリヤその(くみ)順番(まはり)(あた)りて、(かみ)(まへ)祭司(さいし)(つとめ)(おこな)ふとき、 9祭司(さいし)慣例(ならはし)にしたがひて、(くじ)をひき(しゅ)聖所(せいじょ)()りて、(かう)()くこととなりぬ。 10(かう)()くとき、(たみ)(むれ)みな(そと)にありて(いの)りゐたり。 11(とき)(しゅ)使(つかひ)あらはれて、香壇(かうだん)(みぎ)()ちたれば、 12ザカリヤ(これ)()て、(こころ)さわぎ(おそれ)(しゃう)ず。 13御使(みつかひ)いふ『ザカリヤよ、(おそ)るな、(なんぢ)(ねがひ)()かれたり。(なんぢ)(つま)エリサベツ男子(なんし)()まん、(なんぢ)その()をヨハネと()づくべし。 14なんぢに喜悦(よろこび)歡樂(たのしみ)とあらん、(また)おほくの(ひと)もその(うま)るるを(よろこ)ぶべし。 15この()(しゅ)(まへ)(おほい)ならん、また葡萄酒(ぶだうしゅ)()(さけ)とを()まず、(はは)(たい)()づるや(せい)(れい)にて滿(みた)されん。 16また(おほ)くのイスラエルの()らを、(しゅ)なる(かれ)らの(かみ)(かへ)らしめ、 17(かつ)エリヤの(れい)能力(ちから)とをもて、(しゅ)(まへ)()かん。これ(ちち)(こころ)()に、(もど)れる(もの)義人(ぎじん)聰明(さとき)(かへ)らせて、(ととの)へたる(たみ)(しゅ)のために(そな)へんとてなり』 18ザカリヤ御使(みつかひ)にいふ『(なに)()りてか()(こと)あるを()らん。(われ)老人(としより)にて、(つま)もまた(とし)(すす)みたり』 19御使(みつかひ)こたへて()ふ『われは(かみ)御前(みまへ)()つガブリエルなり、(なんぢ)(かた)りてこの()音信(おとづれ)()げん(ため)(つかは)さる。 20()よ、(とき)いたらば(かなら)成就(じゃうじゅ)すべき()(ことば)(しん)ぜぬに()り、なんぢ(もの)()へずなりて、(これ)らの(こと)()()までは(かた)ること(あた)はじ』 21(たみ)はザカリヤを()ちゐて、()聖所(せいじょ)(うち)(ひさ)しく(とどま)るを(あや)しむ。 22(つひ)()(きた)りたれど(かた)ること(あた)はねば、(かれ)らその聖所(せいじょ)(うち)にて異象(いしやう)()たることを(さと)る。ザカリヤは、ただ(くび)にて(しめ)すのみ、なほ(おふし)なりき。 23かくて(つとめ)()滿()ちたれば、(いへ)(かへ)りぬ。
24()(のち)その(つま)エリサベツ(みごも)りて、五月(いつつき)ほど(かく)れをりて()ふ、 25(しゅ)わが(はぢ)(ひと)(なか)(すす)がせんとて、(われ)(かへり)(たま)ふときは、()()(たま)ふなり』
26その六月(むつき)めに、御使(みつかひ)ガブリエル、ナザレといふガリラヤの(まち)にをる處女(をとめ)のもとに、(かみ)より(つかは)さる。 27この處女(をとめ)はダビデの(いへ)のヨセフといふ(ひと)許嫁(いひなづけ)せし(もの)にて、()()をマリヤと()ふ。 28御使(みつかひ)處女(をとめ)(もと)にきたりて()ふ『めでたし、(めぐ)まるる(もの)よ、(しゅ)なんぢと(とも)(いま)せり』 29マリヤこの(ことば)によりて(こころ)いたく(さわ)ぎ、()かる挨拶(あいさつ)如何(いか)なる(こと)ぞと(おも)(めぐ)らしたるに、 30御使(みつかひ)いふ『マリヤよ、(おそ)るな、(なんぢ)(かみ)御前(みまへ)(めぐみ)()たり。 31()よ、なんぢ(みごも)りて男子(なんし)()まん、()()をイエスと()づくべし。 32(かれ)(おほい)ならん、至高者(いとたかきもの)()(とな)へられん。また(しゅ)たる(かみ)、これに()(ちち)ダビデの座位(くらゐ)をあたへ(たま)へば、 33ヤコブの(いへ)永遠(とこしへ)(をさ)めん。その(くに)(をは)ることなかるべし』 34マリヤ御使(みつかひ)()ふ『われ(いま)(ひと)()らぬに、如何(いか)にして()(こと)のあるべき』 35御使(みつかひ)こたへて()ふ『(せい)(れい)なんぢに(のぞ)み、至高者(いとたかきもの)能力(ちから)なんぢを(おほ)はん。()(ゆゑ)(なんぢ)()むところの(せい)なる(もの)は、(かみ)()(とな)へらるべし。 36()よ、なんぢの親族(しんぞく)エリサベツも、(とし)()いたれど、男子(なんし)(はら)めり。石女(うまずめ)といはれたる(もの)なるに、(いま)(みごも)りてはや六月(むつき)になりぬ。 37それ(かみ)(ことば)には(あた)はぬ(ところ)なし』 38マリヤ()ふ『()よ、われは(しゅ)婢女(はしため)なり。(なんぢ)(ことば)のごとく、(われ)()れかし』つひに御使(みつかひ)はなれ()りぬ。
39その(ころ)マリヤ()ちて山里(やまざと)(いそ)()き、ユダの(まち)にいたり、 40ザカリヤの(いへ)()りてエリサベツに挨拶(あいさつ)せしに、 41エリサベツその挨拶(あいさつ)()くや、()胎内(たいない)にて(をど)れり。エリサベツ(せい)(れい)にて滿(みた)され、 42(こゑ)(たか)らかに(よば)はりて()ふ『をんなの(うち)にて(なんぢ)祝福(しくふく)せられ、その(たい)()もまた祝福(しくふく)せられたり。 43わが(しゅ)(はは)われに(きた)る、われ(なに)によりてか(これ)()し。 44()よ、なんぢの挨拶(あいさつ)(こゑ)、わが(みみ)()るや、()()胎内(たいない)にて(よろこ)びをどれり。 45(しん)ぜし(もの)幸福(さいはひ)なるかな、(しゅ)(かた)(たま)ふことは(かなら)成就(じゃうじゅ)すべければなり』 46マリヤ()ふ、
『わがこころ(しゅ)をあがめ、
47わが(れい)はわが救主(すくひぬし)なる(かみ)(よろこ)びまつる。
48その婢女(はしため)(いや)しきをも(かへり)(たま)へばなり。
()よ、(いま)よりのち(よろづ)()(ひと)われを幸福(さいはひ)とせん。
49全能者(ぜんのうしゃ)われに(おほい)なる(こと)()したまへばなり。
その御名(みな)(せい)なり、
50そのあはれみは代々(よよ)
かしこみ(おそ)るる(もの)(のぞ)むなり。
51(かみ)御腕(みうで)にて權力(ちから)をあらはし、
(こころ)(おもひ)(たか)ぶる(もの)(ちら)し、
52權勢(いきほひ)ある(もの)座位(くらゐ)より(おろ)し、
いやしき(もの)(たか)うし、
53()ゑたる(もの)()(もの)()かせ、
()める(もの)(むな)しく()らせ(たま)ふ。
54また(われ)らの先祖(せんぞ)()(たま)ひし(ごと)く、
55アブラハムとその(すゑ)とに(たい)する
あはれみを永遠(とこしへ)(わす)れじとて、
(しもべ)イスラエルを(たす)けたまへり』
56かくてマリヤは、三月(みつき)ばかりエルザベツと(とも)()りて、(おの)(いへ)(かへ)れり。
57さてエリサベツ()(とき)みちて男子(なんし)()みたれば、 58その最寄(もより)のもの親族(しんぞく)(もの)ども、(しゅ)(おほい)なる憐憫(あはれみ)をエリサベツに()(たま)ひしことを()きて、(かれ)とともに(よろこ)ぶ。 59八日(やうか)めになりて、()()割禮(かつれい)(おこな)はんとて人々(ひとびと)きたり、(ちち)()(ちな)みてザカリヤと()づけんとせしに、 60(はは)こたへて()ふ『(いな)、ヨハネと()づくべし』 61かれら()ふ『なんぢの親族(しんぞく)(うち)には()()をつけたる(もの)なし』 62(しか)して(ちち)(かうべ)にて(しめ)し、いかに()づけんと(おも)ふか、()ひたるに、 63ザカリヤ書板(かきいた)(もと)めて『その()はヨハネなり』と()きしかば、みな(あや)しむ。
64ザカリヤの(くち)たちどころに(ひら)け、(した)ゆるみ、(もの)いひて(かみ)()めたり。 65最寄(もより)()(もの)みな(おそれ)をいだき、(また)すべて(これ)()のこと(あまね)くユダヤの山里(やまざと)()(はや)されたれば、 66()(もの)みな(これ)(こころ)にとめて()ふ『この()如何(いか)なる(もの)にか()らん』(しゅ)()かれと(とも)()りしなり。 67かくて(ちち)ザカリヤ(せい)(れい)にて滿(みた)され預言(よげん)して()ふ、
68()むべきかな、(しゅ)イスラエルの(かみ)
その(たみ)をかへりみて贖罪(あがなひ)をなし、
69(われ)らのために(すくひ)(つの)を、
その(しもべ)ダビデの(いへ)()(たま)へり。
70これぞ(いにし)へより(せい)預言者(よげんしゃ)(くち)をもて()(たま)ひし(ごと)く、
71(われ)らを(あた)より、(すべ)(われ)らを(にく)(もの)()より、()(いだ)したまふ(すくひ)なる。
72(われ)らの先祖(せんぞ)憐憫(あはれみ)()れ、その(せい)なる契約(けいやく)(おぼ)し、
73(われ)らの先祖(せんぞ)アブラハムに()(たま)ひし御誓(みちかひ)(わす)れずして、
74(われ)らを(あた)()より(すく)ひ、
生涯(しゃうがい)(しゅ)御前(みまへ)に、
75(せい)()とをもて(おそれ)なく(つか)へしめたまふなり。
76幼兒(をさなご)よ、なんぢは至高者(いとたかきもの)預言者(よげんしゃ)(とな)へられん。
これ(しゅ)御前(みまへ)(さき)だちゆきて、()(みち)(そな)へ、
77(しゅ)(たみ)(つみ)(ゆるし)による
(すくひ)()らしむればなり。
78これ(われ)らの(かみ)(ふか)憐憫(あはれみ)によるなり。
この憐憫(あはれみ)によりて(あさ)のひかり、(うへ)より(のぞ)み、
79暗黒(くらき)()(かげ)とに()する(もの)をてらし、
(われ)らの(あし)平和(へいわ)(みち)にみちびかん』
80かくて幼兒(をさなご)(やや)成長(せいちゃう)し、その(れい)(つよ)くなり、イスラエルに(あらは)るる()まで荒野(あらの)にゐたり。

第二章

1その(ころ)天下(てんか)(ひと)戸籍(こせき)()かすべき詔令(みことのり)、カイザル・アウグストより()づ。 2この戸籍(こせき)登録(とうろく)は、クレニオ、シリヤの總督(そうとく)たりし(とき)(おこな)はれし(はじめ)のものなり。 3さて(ひと)みな戸籍(こせき)()かんとて、各自(おのおの)その故郷(ふるさと)(かへ)る。 4 2:5ヨセフもダビデの家系(いへすぢ)また血統(ちすぢ)なれば、(すで)(はら)める許嫁(いひなづけ)(つま)マリヤとともに、戸籍(こせき)()かんとて、ガリラヤの(まち)ナザレを()でてユダヤに(のぼ)り、ダビデの(まち)ベツレヘムといふ(ところ)(いた)りぬ。 6此處(ここ)()るほどに、マリヤ(つき)滿()ちて、 7初子(うひご)をうみ、(これ)(ぬの)(つつ)みて馬槽(うまぶね)()させたり。旅舍(はたごや)にをる(ところ)なかりし(ゆゑ)なり。
8この()野宿(のじゅく)して、(よる)(むれ)(まも)りをる牧者(ひつじかい)ありしが、 9(しゅ)使(つかひ)その(かたは)らに()ち、(しゅ)榮光(えいくわう)その周圍(まはり)(てら)したれば、(いた)(おそ)る。 10御使(みつかひ)かれらに()ふ『(おそ)るな、()よ、この(たみ)一般(いっぱん)(およ)ぶべき、(おほい)なる歡喜(よろこび)音信(おとづれ)(われ)なんぢらに()ぐ。 11今日(けふ)ダビデの(まち)にて(なんぢ)らの(ため)救主(すくひぬし)うまれ(たま)へり、これ(しゅ)キリストなり。 12なんぢら(ぬの)にて(つつ)まれ、馬槽(うまぶね)()しをる嬰兒(みどりご)()ん、(これ)その(しるし)なり』 13(たちま)ちあまたの(てん)軍勢(ぐんぜい)御使(みつかひ)(くは)はり、(かみ)讃美(さんび)して()ふ、
14『いと(たか)(ところ)には榮光(えいくわう)(かみ)にあれ。
()には平和(へいわ)(しゅ)(よろこ)(たま)(ひと)にあれ』
15御使(みつかひ)(たち)さりて(てん)()きしとき、牧者(ひつじかい)たがひに(かた)る『いざ、ベツレヘムにいたり、(しゅ)(しめ)(たま)ひし(おこ)れる(こと)()ん』 16(すなは)(いそ)()きて、マリヤとヨセフと、馬槽(うまぶね)()したる嬰兒(みどりご)とに(たづ)ねあふ。 17(すで)()て、この()につき御使(みつかひ)(かた)りしことを()げたれば、 18()(もの)はみな牧者(ひつじかい)(かた)りしことを(あや)しみたり。 19(しか)してマリヤは(すべ)(これ)()のことを(こころ)(とど)めて(おも)(まは)せり。 20牧者(ひつじかい)御使(みつかひ)(かた)りしごとく(すべ)ての(こと)()(きき)せしによりて、(かみ)(あが)めかつ讃美(さんび)しつつ(かへ)れり。
21八日(やうか)みちて幼兒(をさなご)割禮(かつれい)(ほどこ)すべき()となりたれば、(いま)胎内(たいない)宿(やど)らぬ(さき)御使(みつかひ)()づけし(ごと)く、その()をイエスと()づけたり。
22モーセの律法(おきて)(さだ)めたる(きよめ)()滿()ちたれば、(かれ)幼兒(をさなご)(たづさ)へてエルサレムに(のぼ)る。 23これは(しゅ)律法(おきて)に『すべて初子(うひご)(うま)るる男子(なんし)は、(しゅ)につける(せい)なる(もの)(とな)へらるべし』と(しる)されたる(ごと)く、幼兒(をさなご)(しゅ)(ささ)げ、 24また(しゅ)律法(おきて)に『山鳩(やまばと)(ひと)つがひ(あるひ)(いへ)鴿(ばと)(ひな)()()』と()ひたるに(したが)ひて、犧牲(いけにへ)(そな)へん(ため)なり。 25()よ、エルサレムにシメオンといふ(ひと)あり。この(ひと)()かつ敬虔(けいけん)にして、イスラエルの(なぐさ)められんことを()(のぞ)む。(せい)(れい)その(うへ)(いま)す。 26また(せい)(れい)に、(しゅ)のキリストを()ぬうちは()()ずと(しめ)されたれしが、 27(この)とき御靈(みたま)(かん)じて(みや)()る。兩親(ふたおや)その()イエスを(たづさ)へ、この()のために律法(おきて)慣例(ならはし)(したが)ひて(おこな)はんとて(きた)りたれば、 28シメオン、イエスを()りいだき、(かみ)()めて()ふ、
29(しゅ)よ、(いま)こそ御言(みことば)(したが)ひて、
(しもべ)(やす)らかに()かしめ(たま)ふなれ。
30わが()は、はや(しゅ)(すくひ)()たり。
31(これ)もろもろの(たみ)(まへ)(そな)(たま)ひし(もの)
32異邦人(いはうじん)をてらす(ひかり)
御民(みたみ)イスラエルの榮光(えいくわう)なり』
33かく幼兒(をさなご)()きて(かた)ることを、()(ちち)(はは)あやしみ()たれば、 34シメオン(かれ)らを(しく)して(はは)マリヤに()ふ『()よ、この幼兒(をさなご)は、イスラエルの(おほ)くの(ひと)(あるひ)(たふ)れ、(あるひ)()たん(ため)に、また()(さから)ひを()くる(しるし)のために()かる。 35――(つるぎ)なんぢの(こころ)をも()(つらぬ)くべし――これは(おほ)くの(ひと)(こころ)(おもひ)(あらは)れん(ため)なり』
36ここにアセルの(やから)パヌエルの(むすめ)に、アンナといふ預言者(よげんしゃ)あり、(とし)いたく()ゆ。處女(をとめ)のとき、(をっと)()きて(しち)(ねん)ともに()り、 37(はち)十四年(じふよねん)寡婦(やもめ)たり。(みや)(はな)れず、(よる)(ひる)斷食(だんじき)祈祷(きたう)とを()して(かみ)(つか)ふ。 38この(とき)すすみ()りて(かみ)感謝(かんしゃ)し、また(すべ)てエルサレムの拯贖(あがなひ)()ちのぞむ(ひと)に、幼兒(をさなご)のことを(かた)れり。
39さて(しゅ)律法(おきて)(したが)ひて、(すべ)ての(こと)(はた)したれば、ガリラヤに(かへ)り、(おの)(まち)ナザレに(いた)れり。
40幼兒(をさなご)(やや)成長(せいちゃう)して(すこや)かになり、智慧(ちゑ)みち、かつ(かみ)(めぐみ)その(うへ)にありき。
41かくてその兩親(ふたおや)過越(すぎこし)(まつり)には年毎(としごと)にエルサレムに()きぬ。 42イエスの十二(じふに)(さい)のとき、(まつり)慣例(ならはし)(したが)ひて(のぼ)りゆき、 43(まつり)()(をは)りて(かへ)(とき)、その()イエスはエルサレムに(とどま)りたまふ。兩親(ふたおや)(これ)()らずして、 44道伴(みちづれ)のうちに()るならんと(おも)ひ、一日(いちにち)()ゆきて、親族(しんぞく)知邊(しるべ)のうちを(たづ)ぬれど、 45()はぬに()りて(また)たづねつつエルサレムに(かへ)り、 46三日(みっか)ののち、(みや)にて教師(けうし)のなかに()し、かつ()き、かつ()ひゐ(たま)ふに()ふ。 47()(もの)(みな)その(さとき)(こたへ)とを(あや)しむ。 48兩親(ふたおや)イエスを()て、いたく(をどろ)き、(はは)()ふ『()よ、(なに)(ゆゑ)かかる(こと)(われ)らに()しぞ、()よ、(なんぢ)(ちち)(われ)(うれ)ひて(たづ)ねたり』 49イエス()ひたまふ『(なに)(ゆゑ)われを(たづ)ねたるか、(われ)はわが(ちち)(いへ)()るべきを()らぬか』 50兩親(ふたおや)はその(かた)りたまふ(こと)(さと)らず。 51かくてイエス(かれ)()とともに(くだ)り、ナザレに()きて(したが)(つか)へたまふ。()(はは)これらの(こと)をことごとく(こころ)(をさ)む。
52イエス智慧(ちゑ)()のたけも(いや)まさり、(かみ)(ひと)とにますます(あい)せられ(たま)ふ。

第三章

1テベリオ・カイザル在位(ざいゐ)(じふ)()(ねん)、ポンテオ・ピラトはユダヤの總督(そうとく)、ヘロデはガリラヤ分封(ぶんばう)國守(こくしゅ)、その兄弟(きゃうだい)ピリポはイツリヤ(およ)びテラコニテの()分封(ぶんばう)國守(こくしゅ)、ルサニヤはアビレネ分封(ぶんばう)國守(こくしゅ)たり、 2アンナスとカヤパとは(だい)祭司(さいし)たりしとき、(かみ)(ことば)荒野(あらの)にてザカリヤの()ヨハネに(のぞ)む。 3かくてヨルダン(がは)(ほとり)なる四方(しはう)()にゆき、(つみ)(ゆるし)()さする悔改(くいあらため)のバプテスマを宣傳(のべつた)ふ。 4預言者(よげんしゃ)イザヤの(ことば)(ふみ)
荒野(あらの)(よば)はる(もの)(こゑ)す。
(しゅ)(みち)(そな)へ、その(みち)すじを(なほ)くせよ。
5(もろもろ)(たに)(うづ)められ、(もろもろ)(やま)(をか)とは(たひら)げられ、
(まが)りたるは(なほ)く、(けは)しきは(たひら)かなる(みち)となり、
6(ひと)みな(かみ)(すくひ)()ん」』
(しる)されたるが(ごと)し。 7さてヨハネ、バプテスマを()けんとて()できたる群衆(ぐんじゅう)にいふ『(まむし)(すゑ)よ、()(なんぢ)らに、(きた)らんとする御怒(みいかり)()くべき(こと)(しめ)したるぞ。 8さらば悔改(くいあらため)相應(ふさは)しき()(むす)べ。なんぢら「(われ)らの(ちち)にアブラハムあり」と(こころ)のうちに()(はじ)むな。(われ)なんぢらに()ぐ、(かみ)はよく(これ)らの(いし)よりアブラハムの()()(おこ)得給(えたま)ふなり。 9(をの)ははや()()()かる。されば(すべ)()()(むす)ばぬ()は、()られて()()()れらるべし』 10群衆(ぐんじゅう)ヨハネに()ひて()ふ『さらば(われ)(なに)()すべきか』 11(こた)へて()ふ『(ふた)つの下衣(したぎ)をもつ(もの)は、()たぬ(もの)()(あた)へよ。食物(しょくもつ)()(もの)もまた(しか)せよ』 12取税人(しゅぜいにん)もバプテスマを()けんとて(きた)りて()ふ『()よ、(われ)(なに)()すべきか』 13(こた)へて()ふ『(さだま)りたるものの(ほか)、なにをも(はた)るな』 14兵卒(へいそつ)もまた()ひて()ふ『(われ)らは(なに)()すべきか』(こた)へて()ふ『(ひと)(おびや)かし、また()(うった)ふな、(おの)給料(きふれう)をもて()れりとせよ』
15(たみ)()(のぞ)みゐたれば、みな(こころ)(うち)にヨハネをキリストならんかと(ろん)ぜしに、 16ヨハネ(すべ)ての(ひと)(こた)へて()ふ『(われ)(みづ)にて(なんぢ)らにバプテスマを(ほどこ)す、されど(われ)よりも能力(ちから)ある(もの)きたらん、(われ)はその(くつ)(ひも)()くにも()らず。(かれ)(せい)(れい)()とにて(なんぢ)らにバプテスマを(ほどこ)さん。 17()には()()ちたまふ。禾場(うちば)をきよめ、(むぎ)(くら)(をさ)めんとてなり。(しか)して(から)()えぬ()にて()きつくさん』
18ヨハネこの(ほか)なほ、さまざまの(すすめ)をなして、(たみ)福音(ふくいん)宣傳(のべつた)ふ。 19(しか)るに國守(こくしゅ)ヘロデ、その兄弟(きゃうだい)(つま)ヘロデヤの(こと)につき、(また)その(おこな)ひたる(すべ)ての()しき(こと)につきて、ヨハネに()められたれば、 20(さら)(また)(ひと)つの()しき(こと)(くは)へて、ヨハネを(ひとや)()ぢこめたり。
21(たみ)みなバプテスマを()けし(とき)、イエスもバプテスマを()けて(いの)りゐ(たま)へば、(てん)ひらけ、 22(せい)(れい)(かたち)をなして鴿(はと)のごとく()(うへ)(くだ)り、かつ(てん)より(こゑ)あり、(いは)く『なんぢは()(いつく)しむ()なり、(われ)なんぢを(よろこ)ぶ』 23イエスの、(をしへ)()(はじ)(たま)ひしは、(とし)おほよそ三十(さんじふ)(とき)なりき。(ひと)にはヨセフの()(おも)はれ(たま)へり。ヨセフの(ちち)はヘリ、 24その(さき)はマタテ、レビ、メルキ、ヤンナイ、ヨセフ、 25マタテヤ、アモス、ナホム、エスリ、ナンガイ、 26マハテ、マタテヤ、シメイ、ヨセク、ヨダ、 27ヨハナン、レサ、ゾロバベル、サラテル、ネリ、 28メルキ、アデイ、コサム、エルマダム、エル、 29ヨセ、エリエゼル、ヨリム、マタテ、レビ、 30シメオン、ユダ、ヨセフ、ヨナム、エリヤキム、 31メレヤ、メナ、マタタ、ナタン、ダビデ、 32エツサイ、オベデ、ボアズ、サラ、ナアソン、 33アミナダブ、アデミン、アルニ、エスロン、パレス、ユダ、 34ヤコブ、イサク、アブラハム、テラ、ナホル、 35セルグ、レウ、ペレグ、エベル、サラ、 36カイナン、アルパクサデ、セム、ノア、ラメク、 37メトセラ、エノク、ヤレデ、マハラレル、カイナン、 38エノス、セツ、アダムに(いた)る。アダムは(かみ)()なり。

第四章

1さてイエス(せい)(れい)にて滿()ち、ヨルダン(がは)より(かへ)り、荒野(あらの)にて四十(しじふ)(にち)のあひだ御靈(みたま)(みちび)かれ、 2惡魔(あくま)(こころ)みられ(たま)ふ。この(あひだ)なにをも(くら)はず、()(かず)滿()ちてのち()(たま)ひたれば、 3惡魔(あくま)いふ『なんぢ()(かみ)()ならば、()(いし)(めい)じてパンと()らしめよ』 4イエス(こた)へたまふ『「(ひと)()くるはパンのみに()るにあらず」と(しる)されたり』 5惡魔(あくま)またイエスを(たづさ)へのぼりて、瞬間(またたくま)天下(てんか)のもろもろの(くに)(しめ)して()ふ、 6『この(すべ)ての權威(けんゐ)國々(くにぐに)榮華(えいぐわ)とを(なんぢ)(あた)へん。(われ)これを(ゆだ)ねられたれば、()(ほっ)する(もの)(あた)ふるなり。 7この(ゆゑ)にもし()(まへ)(はい)せば、ことごとく(なんぢ)(もの)となるべし』 8イエス(こた)へて()ひたまふ『「(しゅ)なる(なんぢ)(かみ)(はい)し、ただ(これ)にのみ(つか)ふべし」と(しる)されたり』 9惡魔(あくま)またイエスをエルサレムに()れゆき、(みや)頂上(いただき)()たせて()ふ『なんぢ()(かみ)()ならば、此處(ここ)より(おの)()(した)()げよ。 10それは
「なんぢの(ため)御使(みつかひ)たちに(めい)じて(まも)らしめ(たま)はん」
11「かれら()にて(なんぢ)をささへ、
その(あし)(いし)打當(うちあ)つる(こと)なからしめん」
(しる)されたるなり』 12イエス(こた)へて()ひたまふ『「(しゅ)なる(なんぢ)(かみ)(こころ)むべからず」と()ひてあり』
13惡魔(あくま)あらゆる嘗試(こころみ)(つく)してのち、(しばら)くイエスを(はな)れたり。
14イエス御靈(みたま)能力(ちから)をもてガリラヤに(かへ)(たま)へば、その聲聞(きこえ)あまねく四方(しはう)()(ひろま)る。 15かくて(しょ)會堂(くわいだう)にて(をしへ)をなし、(すべ)ての(ひと)(あが)められ(たま)ふ。
16(さて)その(そだ)てられ(たま)ひし(ところ)のナザレに(いた)り、(れい)のごとく安息(あんそく)(にち)會堂(くわいだう)()りて、聖書(せいしょ)()まんとて()(たま)ひしに、 17預言者(よげんしゃ)イザヤの(ふみ)(あた)へたれば、()(ふみ)(ひもと)きて、かく(しる)されたる(ところ)見出(みいだ)(たま)ふ。
18(しゅ)御靈(みたま)われに(いま)す。
これ(われ)(あぶら)(そそ)ぎて(まづ)しき(もの)福音(ふくいん)()べしめ、
(われ)をつかはして囚人(めしうど)(ゆるし)()ることと、
盲人(めしひ)()ゆることとを()げしめ、
(おさ)へらるる(もの)(はな)ちて自由(じいう)(あた)へしめ、
19(しゅ)(よろこ)ばしき(とし)宣傳(のべつた)へしめ(たま)ふなり』
20イエス(ふみ)()き、(かかり)(もの)(かへ)して()(たま)へば、會堂(くわいだう)()(もの)みな(これ)()(そそ)ぐ。 21イエス()()でたまふ『この聖書(せいしょ)今日(けふ)なんぢらの(みみ)成就(じゃうじゅ)したり』 22人々(ひとびと)みなイエスを()め、(また)その(くち)より()づる(めぐみ)(ことば)(あや)しみて()ふ『これヨセフの()ならずや』 23イエス()(たま)ふ『なんぢら(かなら)(われ)俚諺(ことわざ)()きて「醫者(いしゃ)よ、みづから(おのれ)(いや)せ、カペナウムにて()りしといふ(われ)らが()ける(こと)どもを、(おの)(さと)なる()()にても()せ」と()はん』 24また()(たま)ふ『われ(まこと)(なんぢ)らに()ぐ、預言者(よげんしゃ)(おの)(さと)にて(よろこ)ばるることなし。 25われ(まこと)をもて(なんぢ)らに()ぐ、エリヤのとき三年(さんねん)六个月(ろくかげつ)(てん)とぢて、全地(ぜんち)(おほい)なる饑饉(ききん)なりしが、イスラエルの(うち)(おほ)くの寡婦(やもめ)ありたれど、 26エリヤは()一人(ひとり)にすら(つかは)されず、(ただ)シドンなるサレプタの一人(ひとり)寡婦(やもめ)にのみ(つかは)されたり。 27また預言者(よげんしゃ)エリシヤの(とき)、イスラエルの(うち)(おほ)くの癩病人(らいびゃうにん)ありしが、()一人(ひとり)だに(きよ)められず、(ただ)シリヤのナアマンのみ(きよ)められたり』 28會堂(くわいだう)にをる(もの)みな(これ)()きて憤恚(いきどほり)滿()ち、 29()ちてイエスを(まち)より()(いだ)し、その(まち)()ちたる(やま)(がけ)()()きて、()(おと)さんとせしに、 30イエスその(なか)(とほ)りて()(たま)ふ。
31かくてガリラヤの(まち)カペナウムに(くだ)りて、安息(あんそく)(にち)ごとに(ひと)(をし)(たま)へば、 32人々(ひとびと)その(をしへ)(をどろ)きあへり。その(ことば)權威(けんゐ)ありたるに()る。 33會堂(くわいだう)(けが)れし惡鬼(あくき)(れい)()かれたる(ひと)あり、大聲(おほごゑ)(さけ)びて()ふ、 34『ああ、ナザレのイエスよ、(われ)らは(なんぢ)となにの關係(かかはり)あらんや。(われ)らを(ほろぼ)さんとて來給(きたま)ふか。(われ)はなんぢの(たれ)なるを()る、(かみ)聖者(しゃうじゃ)なり』 35イエス(これ)(いまし)めて()(たま)ふ『(もだ)せ、その(ひと)より()でよ』惡鬼(あくき)その(ひと)人々(ひとびと)(なか)(たふ)し、(きず)つけずして()づ。 36みな(をどろ)(かた)()ひて()ふ『これ如何(いか)なる(ことば)ぞ、權威(けんゐ)能力(ちから)とをもて(めい)ずれば、(けが)れし惡鬼(あくき)すら()()る』 37ここにイエスの(うはさ)あまねく四方(しはう)()(ひろま)りたり。
38イエス會堂(くわいだう)()()でて、シモンの(いへ)()(たま)ふ。シモンの外姑(しうとめ)おもき(ねつ)(わづら)()たれば、人々(ひとびと)これが(ため)にイエスに(ねが)ふ。 39その(かたは)らに()ちて(ねつ)()めたまへば、(ねつ)()りて(をんな)たちどころに()きて(かれ)らに(つか)ふ。
40()のいる(とき)、さまざまの(やまひ)(わづら)(もの)をもつ(ひと)、みな(これ)をイエスに()(きた)れば、一々(いちいち)その(うへ)()()きて(いや)(たま)ふ。 41惡鬼(あくき)もまた(おほ)くの(ひと)より()でて(さけ)びつつ()ふ『なんぢは(かみ)()なり』(これ)()めて(もの)()ふことを(ゆる)(たま)はず、惡鬼(あくき)そのキリストなるを()るに()りてなり。
42()くる(あさ)イエス()でて(さび)しき(ところ)にゆき(たま)ひしが、群衆(ぐんじゅう)たづねて御許(みもと)(いた)り、その()()くことを()めんとせしに、 43イエス()(たま)ふ『われ(また)ほかの町々(まちまち)にも(かみ)(くに)福音(ふくいん)宣傳(のべつた)へざるを()ず、わが(つかは)されしは(これ)(ため)なり』 44かくてユダヤの(しょ)會堂(くわいだう)にて(をしへ)()べたまふ。

第五章

1群衆(ぐんじゅう)おし(せま)りて(かみ)(ことば)()きをる(とき)、イエス、ゲネサレの(みづうみ)のほとりに()ちて、 2(なぎさ)()(さう)(ふね)()せあるを()たまふ、漁人(すなどりびと)(ふね)をいでて(あみ)(あら)()たり。 3イエスその一艘(いっさう)なるシモンの(ふね)()り、(かれ)()ひて(をか)より()しく()(いだ)さしめ、()して(ふね)(うち)より群衆(ぐんじゅう)(をし)へたまふ。 4(かた)()へてシモンに()ひたまふ『深處(ふかみ)()りいだし、(あみ)(おろ)して(すなど)れ』 5シモン(こた)へて()ふ『(きみ)よ、われら終夜(よもすがら)(らう)したるに、(なに)をも()ざりき、されど御言(みことば)(したが)ひて(あみ)(おろ)さん』 6かくて(しか)せしに、(うを)夥多(おびただ)しき(むれ)(かこ)みて、(あみ)()けかかりたれば、 7(ほか)一艘(いっさう)(ふね)にをる(くみ)(もの)差招(さしまね)きて(きた)(たす)けしむ。(きた)りて(うを)()(さう)(ふね)滿(みた)したれば、(ふね)(しづ)まんばかりになりぬ。 8シモン・ペテロ(これ)()て、イエスの(ひざ)(した)平伏(ひれふ)して()ふ『(しゅ)よ、(われ)()りたまへ。(われ)(つみ)ある(もの)なり』 9これはシモンも(とも)()(もの)もみな、(すなど)りし(うを)夥多(おびただ)しきに(をどろ)きたるなり。 10ゼベダイの()にしてシモンの(とも)なるヤコブもヨハネも(おな)じく(をどろ)けり。イエス、シモンに()ひたまふ『(おそ)るな、なんぢ(いま)よりのち(ひと)(すなど)らん』 11かれら(ふね)(をか)につけ、一切(いっさい)()ててイエスに(したが)へり。
12イエス(ある)(まち)居給(ゐたま)ふとき、()よ、全身(ぜんしん)癩病(らいびゃう)をわづらふ(もの)あり。イエスを()平伏(ひれふ)し、(ねが)ひて()ふ『(しゅ)よ、御意(みこころ)ならば、(われ)(きよ)くなし(たま)ふを()ん』 13イエス()をのべ(かれ)につけて『わが(こころ)なり、(きよ)くなれ』と()(たま)へば、(ただ)ちに癩病(らいびゃう)されり。 14イエス(これ)(たれ)にも(かた)らぬやうに(めい)じ、かつ()(たま)ふ『ただ()きて(おのれ)祭司(さいし)()せ、モーセが(めい)じたるごとく(なんぢ)(きよめ)のために献物(ささげもの)して、人々(ひとびと)(あかし)せよ』 15されど(いや)増々(ますます)イエスの(こと)ひろまりて、(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)、あるひは(をしへ)()かんとし、(あるひ)(やまひ)(いや)されんとして(あつま)(きた)りしが、 16イエス(さび)しき(ところ)退(しりぞ)きて(いの)(たま)ふ。
17(ある)()イエス(をしへ)をなし(たま)ふとき、ガリラヤの村々(むらむら)、ユダヤ(およ)びエルサレムより(きた)りしパリサイ(びと)教法(けうほふ)學者(がくしゃ)ら、そこに()しゐたり。(やまひ)(いや)すべき(しゅ)能力(ちから)イエスと(とも)にありき。 18()よ、人々(ひとびと)中風(ちゅうぶ)()める(もの)を、(とこ)にのせて(にな)ひきたり、(これ)(いへ)()れて、イエスの(まへ)()かんとすれど、 19群衆(ぐんじゅう)によりて(にな)()るべき(みち)()ざれば、屋根(やね)にのぼり、(かはら)()()けて、(とこ)のまま人々(ひとびと)(なか)に、イエスの(まへ)につり()(おろ)せり。 20イエス(かれ)らの信仰(しんかう)()()ひたまふ『(ひと)よ、(なんぢ)(つみ)ゆるされたり』 21ここに學者(がくしゃ)・パリサイ(びと)(ろん)()でて()ふ『瀆言(けがしごと)をいふ()(ひと)(たれ)ぞ、(かみ)より(ほか)(たれ)(つみ)(ゆる)すことを()べき』 22イエス(かれ)らの(ろん)ずる(こと)をさとり、(こた)へて()(たま)ふ『なにを(こころ)のうちに(ろん)ずるか。 23「なんぢの(つみ)ゆるされたり」と()ふと「()きて(あゆ)め」と()ふと(いづれ)(やす)き、 24(ひと)()()にて(つみ)をゆるす權威(けんゐ)あることを(なんぢ)らに()らせん(ため)に』――中風(ちゅうぶ)()める(もの)()(たま)ふ――『なんぢに()ぐ、()きよ、(とこ)をとりて(いへ)()け』 25かれ立刻(たちどころ)人々(ひとびと)(まへ)にて()きあがり、()しゐたる(とこ)をとりあげ、(かみ)(あが)めつつ(おの)(いへ)(かへ)りたり。 26人々(ひとびと)みな(いた)(をどろ)きて(かみ)をあがめ(おそれ)滿()ちて()ふ『今日(けふ)われら(めづら)しき(こと)()たり』
27この(こと)(のち)イエス()でて、レビといふ取税人(しゅぜいにん)收税所(しうぜいしょ)()しをるを()て『われに(したが)へ』と()(たま)へば、 28一切(いっさい)()ておき、()ちて(したが)へり。 29レビ(おの)(いへ)にて、イエスの(ため)(おほい)なる饗宴(ふるまひ)(まう)けしに、取税人(しゅぜいにん)および(ほか)人々(ひとびと)(おほ)食事(しょくじ)(せき)(つらな)りゐたれば、 30パリサイ(びと)および()曹輩(ともがら)學者(がくしゃ)ら、イエスの弟子(でし)たちに(むか)ひ、(つぶや)きて()ふ『なにゆゑ(なんぢ)らは取税人(しゅぜいにん)罪人(つみびと)らと(とも)飮食(のみくひ)するか』 31イエス(こた)へて()ひたまふ『健康(けんかう)なる(もの)醫者(いしゃ)(えう)せず、ただ(やまひ)ある(もの)これを(えう)す。 32(われ)(ただ)しき(もの)(まね)かんとにあらで、罪人(つみびと)(まね)きて悔改(くいあらた)めさせんとて(きた)れり』 33(かれ)らイエスに()ふ『ヨハネの弟子(でし)たちは、しばしば斷食(だんじき)祈祷(きたう)し、パリサイ(びと)弟子(でし)たちも(また)(しか)するに、(なんぢ)弟子(でし)たちは飮食(のみくひ)するなり』 34イエス()ひたまふ『新郎(はなむこ)(とも)だち新郎(はなむこ)(とも)にをるうちは、(かれ)らに斷食(だんじき)せしめ()んや。 35されど()(きた)りて新郎(はなむこ)をとられん、その()には斷食(だんじき)せん』 36イエスまた(たとへ)()(たま)ふ『たれも(あたら)しき(ころも)()()りて、(ふる)(ころも)(つくろ)(もの)はあらじ。もし(しか)せば、(あたら)しきものも(やぶ)れ、かつ(あたら)しきものより()りたる(きれ)(ふる)きものに()はじ。 37(たれ)(あたら)しき葡萄酒(ぶだうしゅ)を、ふるき革嚢(かはぶくろ)()るることは()じ。もし(しか)せば、葡萄酒(ぶだうしゅ)(ふくろ)をはりさき()()でて、(ふくろ)(すた)らん。 38(あたら)しき葡萄酒(ぶだうしゅ)は、(あたら)しき革嚢(かはぶくろ)()るべきなり。 39(たれ)(ふる)葡萄酒(ぶだうしゅ)()みてのち、(あたら)しき葡萄酒(ぶだうしゅ)(のぞ)(もの)はあらじ。「(ふる)きは()し」と()へばなり』

第六章

1イエス安息(あんそく)(にち)(むぎ)(はたけ)()(たま)ふとき、弟子(でし)たち()()み、()にて()みつつ(くら)ひたれば、 2パリサイ(びと)のうち(ある)(もの)ども()ふ『なんぢらは(なに)ゆゑ安息(あんそく)(にち)()まじき(こと)をするか』 3イエス(こた)へて()(たま)ふ『ダビデその(ともな)へる人々(ひとびと)とともに()ゑしとき、()しし(こと)をすら()まぬか。 4(すなは)(かみ)(いへ)()りて、祭司(さいし)(ほか)(くら)ふまじき(そなへ)のパンを()りて(くら)ひ、(おのれ)(とも)なる(もの)にも(あた)へたり』 5また()ひたまふ『(ひと)()安息(あんそく)(にち)(しゅ)たるなり』
6(また)ほかの安息(あんそく)(にち)に、イエス會堂(くわいだう)()りて(をしへ)をなし(たま)ひしに、此處(ここ)(ひと)あり、()(みぎ)()なえたり。 7學者(がくしゃ)・パリサイ(びと)ら、イエスを(うった)ふる(かど)見出(みいだ)さんと(おも)ひて、安息(あんそく)(にち)(ひと)(いや)すや(いな)やを(うかが)ふ。 8イエス(かれ)らの(おもひ)()りて、()なえたる(ひと)に『()きて(なか)()て』と()(たま)へば、()きて()てり。 9イエス(かれ)らに()(たま)ふ『われ(なんぢ)らに()はん、安息(あんそく)(にち)(ぜん)をなすと(あく)をなすと、生命(いのち)(すく)ふと(ほろび)すと、(いづれ)かよき』 10かくて一同(いちどう)()まはして、()なえたる(ひと)に『なんぢの()()べよ』と()(たま)ふ。かれ(しか)なしたれば、その()()ゆ。 11(しか)るに(かれ)狂氣(きゃうき)(ごと)くなりて、イエスに(なに)をなさんと(かた)()へり。
12その(ころ)イエス(いの)らんとて(やま)にゆき、(かみ)(いの)りつつ()(あか)したまふ。 13夜明(よあけ)になりて弟子(でし)たちを()()せ、その(うち)より十二(じふに)(にん)(えら)びて、(これ)使徒(しと)()づけたまふ。 14(すなは)ちペテロと()づけ(たま)ひしシモンと()兄弟(きゃうだい)アンデレと、ヤコブとヨハネと、ピリポとバルトロマイと、 15マタイとトマスと、アルパヨの()ヤコブと熱心(ねっしん)(たう)()ばるるシモンと、 16ヤコブの()ユダとイスカリオテのユダとなり。このユダはイエスを()(もの)となりたり。 17イエス(これ)()とともに(くだ)りて、(たひら)かなる(ところ)()(たま)ひしに、弟子(でし)(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)、およびユダヤ全國(ぜんこく)、エルサレム(また)ツロ、シドンの海邊(うみべ)より(きた)りて、(あるひ)(をしへ)()かんとし、(あるひ)(やまひ)(いや)されんとする(たみ)(おほい)なる(むれ)も、そこにあり。 18(けが)れし(れい)(なやま)されたる(もの)(いや)される。 19能力(ちから)イエスより()でて、(すべ)ての(ひと)(いや)せば、群衆(ぐんじゅう)みなイエスに(さは)らん(こと)(もと)む。 20イエス()をあげ弟子(でし)たちを()()ひたまふ『幸福(さいはひ)なるかな、(まづ)しき(もの)よ、(かみ)(くに)(なんぢ)らの(もの)なり。 21幸福(さいはひ)なる(かな)、いま()うる(もの)よ、(なんぢ)()くことを()ん。幸福(さいはひ)なる(かな)、いま()(もの)よ、(なんぢ)(わら)ふことを()ん。 22(ひと)なんぢらを(にく)み、(ひと)()のために(とほ)ざけ、(そし)り、(なんぢ)らの()()しとして()てなば、(なんぢ)幸福(さいはひ)なり。 23その()には(よろこ)(をど)れ。()よ、(てん)にて(なんぢ)らの(むくい)(おほい)なり、(かれ)らの先祖(せんぞ)預言者(よげんしゃ)たちに()ししも()くありき。 24されど禍害(わざはひ)なるかな、()(もの)よ、(なんぢ)らは(すで)にその慰安(なぐさめ)()けたり。 25禍害(わざはひ)なる(かな)、いま()(もの)よ、(なんぢ)らは()ゑん。禍害(わざはひ)なる(かな)、いま(わら)(もの)よ、(なんぢ)らは、(かな)しみ()かん。 26(すべ)ての(ひと)、なんぢらを()めなば、(なんぢ)禍害(わざはひ)なり。(かれ)らの先祖(せんぞ)虚僞(いつはり)預言者(よげんしゃ)たちに()ししも()くありき。
27われ(さら)(なんぢ)()くものに()ぐ、なんじらの(あた)(あい)し、(なんぢ)らを(にく)(もの)()くし、 28(なんぢ)らを(のろ)(もの)(しく)し、(なんぢ)らを(はづか)しむる(もの)のために(いの)れ。 29なんぢの(ほほ)()(もの)には、(ほか)(ほほ)をも()けよ。なんぢの上衣(うはぎ)()(もの)には下衣(したぎ)をも(こば)むな。 30すべて(もと)むる(もの)(あた)へ、なんぢの(もの)(うば)(もの)(また)(もと)むな。 31なんぢら(ひと)()られんと(おも)ふごとく、(ひと)にも(しか)せよ。 32なんぢら(おのれ)(あい)する(もの)(あい)せばとて、(なに)(よみ)すべき(こと)あらん、罪人(つみびと)にても(おのれ)(あい)する(もの)(あい)するなり。 33(なんぢ)()おのれに(ぜん)をなす(もの)(ぜん)()すとも、(なに)(よみ)すべき(こと)あらん、罪人(つみびと)にても(しか)するなり。 34なんぢら()(こと)あらんと(おも)ひて(ひと)()すとも、(なに)(よみ)すべき(こと)あらん、罪人(つみびと)にても(ひと)しきものを()けんとて罪人(つみびと)()すなり。 35(なんぢ)らは(あた)(あい)し、(ぜん)をなし、(なに)をも(もと)めずして()せ、さらば、その(むくい)(おほい)ならん。かつ至高者(いとたかきもの)()たるべし。至高者(いとたかきもの)は、(おん)()らぬもの()しき(もの)にも、仁慈(なさけ)あるなり。 36(なんぢ)らの(ちち)慈悲(じひ)なるごとく、(なんぢ)らも慈悲(じひ)なれ。 37(ひと)(さば)くな、さらば(なんぢ)らも(さば)かるる(こと)あらじ。(ひと)(つみ)(さだ)むな、さらば、(なんぢ)らも(つみ)(さだ)めらるる(こと)あらじ。(ひと)(ゆる)せ、さらば(なんぢ)らも(ゆる)されん。 38(ひと)(あた)へよ、さらば(なんぢ)らも(あた)へられん。(ひと)(はかり)をよくし、()()れ、(ゆす)()れ、(あふ)るるまでにして、(なんぢ)らの懷中(ふところ)()れん。(なんぢ)()おのが(はか)(はかり)にて(はか)らるべし』
39また(たとへ)にて()ひたまふ『盲人(めしひ)盲人(めしひ)手引(てびき)するを()んや。二人(ふたり)とも(あな)()ちざらんや。 40弟子(でし)はその()(まさ)らず、(おほよ)(まった)うせられたる(もの)は、その()(ごと)くならん。 41(なに)ゆゑ兄弟(きゃうだい)()にある(ちり)()て、(おの)()にある梁木(うつばり)(みと)めぬか。 42おのが()にある梁木(うつばり)()ずして、(いか)兄弟(きゃうだい)(むか)ひて「兄弟(きゃうだい)よ、(なんぢ)()にある(ちり)()(のぞ)かせよ」といふを()んや。僞善者(ぎぜんしゃ)よ、()(おの)()より梁木(うつばり)()(のぞ)け。さらば(あきら)かに()えて、兄弟(きゃうだい)()にある(ちり)()りのぞき()ん。 43()しき()(むす)()()はなく、また()()(むす)()しき()はなし。 44()はおのおの()()によりて()らる。(いばら)より無花果(いちぢく)()らず、野荊(のばら)より葡萄(ぶだう)(をさ)めざるなり。 45()(ひと)(こころ)()(くら)より()きものを(いだ)し、()しき(ひと)()しき(くら)より()しき(もの)(いだ)す。それ(こころ)滿()つるより、(くち)(もの)()ふなり。
46なんぢら(われ)を「(しゅ)(しゅ)よ」と()びつつ、(なに)()()ふことを(おこな)はぬか。 47(おほよ)(われ)にきたり()(ことば)()きて(おこな)(もの)は、如何(いか)なる(ひと)()たるかを(しめ)さん。 48(すなは)(いへ)()つるに、()(ふか)()(いは)(うへ)(もとゐ)()ゑたる(ひと)のごとし。洪水(おほみづ)いでて(ながれ)その(いへ)()けども(うご)かすこと(あた)はず、これ(かた)()てられたる(ゆゑ)なり。 49されど()きて(おこな)はぬ(もの)は、(もとゐ)なくして(いへ)(つち)(うへ)()てたる(ひと)のごとし。(ながれ)その(いへ)()けば、(ただ)ちに(くづ)れて、その破壞(やぶれ)はなはだし』

第七章

1イエス(すべ)(これ)らの(ことば)(たみ)()かせ()へて(のち)、カペナウムに()(たま)ふ。
2(とき)(ある)百卒長(ひゃくそつちゃう)、その(おも)んずる(しもべ)やみて()ぬばかりなりしかば、 3イエスの(こと)()きて、ユダヤ(びと)長老(ちゃうらう)たちを(つかは)し、(きた)りて(しもべ)(すく)(たま)はんことを(ねが)ふ。 4(かれ)らイエスの(もと)にいたり、(せつ)()ひて()ふ『かの(ひと)()(こと)()らるるに相應(ふさは)し。 5わが國人(くにびと)(あい)し、(われ)らのために會堂(くわいだう)()てたり』 6イエス(とも)()(たま)ひて、その(いへ)はや(ほど)(ちか)くなりしとき、百卒長(ひゃくそつちゃう)數人(すにん)(とも)(つかは)して()はしむ『(しゅ)よ、(みづか)らを(わづら)はし(たま)ふな。(われ)(なんぢ)をわが屋根(やね)(した)()れまつるに()らぬ(もの)なり。 7されば御前(みまへ)()づるにも相應(ふさは)しからずと(おも)へり、ただ御言(みことば)(たま)ひて()(しもべ)をいやし(たま)へ。 8(われ)みづから權威(けんゐ)(した)()かるる(もの)なるに、()(した)にまた兵卒(へいそつ)ありて、(これ)に「()け」と()へば()き、(かれ)に「(きた)れ」と()へば(きた)り、わが(しもべ)に「これを()せ」と()へば()すなり』 9イエス()きて(かれ)(あや)しみ、振反(ふりかへ)りて(したが)群衆(ぐんじゅう)()(たま)ふ『われ(なんぢ)らに()ぐ、イスラエルの(うち)にだに()かるあつき信仰(しんかう)()しことなし』 10(つかは)されたる(もの)ども(いへ)(かへ)りて(しもべ)()れば、(すで)健康(けんかう)となれり。
11その(のち)イエス、ナインといふ(まち)にゆき(たま)ひしに、弟子(でし)たち(およ)(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)(とも)()く。 12(まち)(もん)(ちか)づき(たま)ふとき、()よ、()(いだ)さるる死人(しにん)あり。これは(ひとり)息子(むすこ)にて(はは)寡婦(やもめ)なり、(まち)(おほ)くの人々(ひとびと)これに(ともな)ふ。 13(しゅ)寡婦(やもめ)()(あはれ)み『()くな』と()ひて、 14(ちか)より、(ひつぎ)()をつけ(たま)へば、()くもの()(とどま)る。イエス()ひたまふ『若者(わかもの)よ、(われ)なんぢに()ふ、()きよ』 15死人(しにん)()きかへりて(もの)()(はじ)む。イエス(これ)(はは)(わた)したまふ。 16人々(ひとびと)みな(おそれ)をいだき、(かみ)(あが)めて()ふ『(おほい)なる預言者(よげんしゃ)われらの(うち)(おこ)れり』また()ふ『(かみ)その(たみ)(かへり)(たま)へり』 17この(こと)ユダヤ全國(ぜんこく)および最寄(もより)()(あまね)くひろまりぬ。
18(さて)ヨハネの弟子(でし)たち、(すべ)(これ)()のことを()げたれば、 19ヨハネ(りゃう)三人(さんにん)弟子(でし)()び、(しゅ)(つかは)して()はしむ『(きた)るべき(もの)(なんぢ)なるか、(あるひ)(ほか)()つべきか』 20(かれ)御許(みもと)(いた)りて()ふ『バプテスマのヨハネ、(われ)らを(つかは)して()はしむ「(きた)るべき(もの)(なんぢ)なるか、(あるひ)(ほか)()つべきか」』 21この(とき)イエス(おほ)くの(もの)(やまひ)疾患(わずらひ)(いや)し、()しき(れい)()ひいだし、(また)おほくの盲人(めしひ)()ることを()しめ(たま)ひしが、 22(こた)へて()ひたまふ『()きて(なんぢ)らが()(きき)せし(ところ)をヨハネに()げよ。盲人(めしひ)()跛者(あしなへ)はあゆみ、癩病人(らいびゃうにん)(きよ)められ、聾者(みみしひ)はきき、死人(しにん)(よみが)へらせられ、(まづ)しき(もの)福音(ふくいん)()かせらる。 23おほよそ(われ)(つまづ)かぬ(もの)幸福(さいはひ)なり』
24ヨハネの使(つかひ)()りたる(のち)、ヨハネの(こと)群衆(ぐんじゅう)()ひいで(たま)ふ『なんぢら(なに)(なが)めんとて()()でし、(かぜ)にそよぐ(あし)なるか。 25さらば(なに)()んとて()でし、(やはら)かき(ころも)()たる(ひと)なるか。()よ、華美(はなやか)なる(ころも)をきて(おご)(くれ)(もの)王宮(わうきう)()り。 26さらば(なに)()んとて()でし、預言者(よげんしゃ)なるか。(しか)り、(われ)なんぢらに()ぐ、預言者(よげんしゃ)よりも(まさ)(もの)なり。
27()よ、わが使(つかひ)(なんぢ)(かほ)(まへ)につかはす。
かれは(なんぢ)(まへ)になんじの(みち)をそなへん」
(しる)されたるは()(ひと)なり。 28われ(なんぢ)らに()ぐ、(をんな)()みたる(もの)(うち)、ヨハネより(おほい)なる(もの)はなし。されど(かみ)(くに)にて(ちひさ)(もの)も、(かれ)よりは(おほい)なり。 29(すべ)ての(たみ)これを()きて、取税人(しゅぜいにん)までも(かみ)(ただ)しとせり。ヨハネのバプテスマを()けたるによる。 30されどパリサイ(びと)教法師(けうほふし)らは、()のバプテスマを()けざりしにより、各自(おのおの)にかかはる(かみ)御旨(みむね)をこばみたり) 31さればわれ(いま)()(ひと)(なに)(なずら)へん。(かれ)らは(なに)()たるか。 32(かれ)らは、(わらべ)市場(いちば)()し、たがひに()びて「われら(なんぢ)らの(ため)(ふえ)()きたれど、(なんぢ)(をど)らず。(なげ)きたれど、(なんぢ)()かざりき」と()ふに()たり。 33それはバプテスマのヨハネ(きた)りて、パンをも(くら)はず葡萄酒(ぶだうしゅ)をも()まねば、「惡鬼(あくき)()かれたる(もの)なり」と(なんぢ)()ひ、 34(ひと)()きたりて飮食(のみくひ)すれば「()よ、(しょく)(むさぼ)り、(さけ)(この)(ひと)、また取税人(しゅぜいにん)罪人(つみびと)(とも)なり」と(なんぢ)()ふなり。 35されど智慧(ちゑ)(おの)(すべ)ての()によりて(ただ)しとせらる』
36ここに(ある)パリサイ(びと)ともに(しょく)せん(こと)をイエスに()ひたれば、パリサイ(びと)(いへ)()りて、(せき)につき(たま)ふ。 37()よ、この(まち)(つみ)ある一人(ひとり)(をんな)あり。イエスのパリサイ(びと)(いへ)にて食事(しょくじ)(せき)にゐ(たま)ふを()り、(にほひ)(あぶら)()りたる石膏(せきかう)(つぼ)()ちきたり、 38()きつつ御足(みあし)(ちか)(うしろ)にたち、(なみだ)にて御足(みあし)をうるほし、(かしら)()にて(これ)(ぬぐ)ひ、また御足(みあし)接吻(くちつけ)して(にほひ)(あぶら)()れり。 39イエスを(まね)きたるパリサイ(びと)これを()て、(こころ)のうちに()ふ『この(ひと)もし預言者(よげんしゃ)ならば、()(もの)(たれ)如何(いか)なる(をんな)なるかを()らん、(かれ)罪人(つみびと)なるに』 40イエス(こた)へて()(たま)ふ『シモン、(われ)なんぢに()ふことあり』シモンいふ『()よ、()ひたまへ』 41(ある)債主(かしぬし)二人(ふたり)負債者(ふさいしゃ)ありて、一人(ひとり)はデナリ()(ひゃく)一人(ひとり)()(じふ)負債(おひめ)せしに、 42(つくの)ひかたなければ、債主(かしぬし)この二人(ふたり)(とも)(ゆる)せり。されば二人(ふたり)のうち債主(かしぬし)(あい)すること(いづれ)(おほ)き』 43シモン(こた)へて()ふ『われ(おも)ふに、(おほ)(ゆる)されたる(もの)ならん』イエス()(たま)ふ『なんぢの判斷(はんだん)(あた)れり』 44かくて(をんな)(かた)振向(ふりむ)きてシモンに()(たま)ふ『この(をんな)()るか。(われ)なんぢの(いへ)()りしに、なんぢは(われ)(あし)(みづ)(あた)へず、()(をんな)(なみだ)にて(われ)(あし)(ぬら)し、頭髮(かみのけ)にて(ぬぐ)へり。 45なんぢは(われ)接吻(くちつけ)せず、()(をんな)()()りし(とき)より、()(あし)接吻(くちつけ)して()まず。 46なんぢは()(かしら)(あぶら)()らず、()(をんな)()(あし)(にほひ)(あぶら)()れり。 47この(ゆゑ)(われ)なんぢに()ぐ、この(をんな)(おほ)くの(つみ)(ゆる)されたり。その(あい)すること(おほい)なればなり。(ゆる)さるる(こと)(すくな)(もの)は、その(あい)する(こと)もまた(すくな)し』 48(つひ)(をんな)()(たま)ふ『なんぢの(つみ)(ゆる)されたり』 49同席(どうせき)(もの)ども(こころ)(うち)に『(つみ)をも(ゆる)()(ひと)(たれ)なるか』と()()づ。 50ここにイエス(をんな)()(たま)ふ『なんぢの信仰(しんかう)なんぢを(すく)へり、(やす)らかに()け』

第八章

1この(のち)イエス(をしへ)()べ、(かみ)(くに)福音(ふくいん)(つた)へつつ、町々(まちまち)村々(むらむら)(まは)(たま)ひしに、十二(じふに)弟子(でし)(ともな)ふ。 2また(さき)()しき(れい)()(いだ)され、(やまひ)(いや)されなどせし(をんな)たち、(すなは)(なな)つの惡鬼(あくき)のいでしマグラダと()ばるるマリヤ、 3ヘロデの(いへ)(つかさ)クーザの(つま)ヨハンナ(およ)びスザンナ、()(ほか)にも(おほ)くの(をんな)ともなひゐて、()財産(ざいさん)をもて(かれ)らに(つか)へたり。
4(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)むらがり、町々(まちまち)(ひと)みもとに()(つど)ひたれば、(たとへ)をもて()ひたまふ、 5(たね)()(もの)その(たね)()かんとて()づ。()くとき(みち)(かたは)らに()ちし(たね)あり、()みつけられ、また(そら)(とり)これを(ついば)む。 6(いは)(うへ)()ちし(たね)あり、()()でたれど潤澤(うるほひ)なきによりて()る。 7(いばら)(うち)()ちし(たね)あり、(いばら)(とも)()()でて(これ)(ふさ)ぐ。 8()()()ちし(たね)あり、()()でて(ひゃく)(ばい)()(むす)べり』これらの(こと)()ひて(よば)はり(たま)ふ『きく(みみ)ある(もの)()くべし』
9弟子(でし)たち()(たとへ)如何(いか)なる(こころ)なるかを()ひたるに、 10イエス()(たま)ふ『なんぢらは(かみ)(くに)奧義(おくぎ)()ることを(ゆる)されたれど、(ほか)(もの)(たとへ)にてせらる。(かれ)らの()()ず、()きて(さと)らぬ(ため)なり。 11(たとへ)(こころ)(これ)なり。(たね)(かみ)(ことば)なり。 12(みち)(かたは)らなるは、()きたるのち、惡魔(あくま)きたり、(しん)じて(すく)はるる(こと)のなからんために、御言(みことば)をその(こころ)より(うば)(ところ)(ひと)なり。 13(いは)(うへ)なるは、()きて御言(みことば)(よろこ)()くれども、()なければ、(しばら)(しん)じて嘗試(こころみ)のときに退(しりぞ)(ところ)(ひと)なり。 14(いばら)(うち)()ちしは、()きてのち()ぐるほどに、()心勞(こころづかひ)財貨(たから)快樂(けらく)とに(ふさ)がれて(みの)らぬ(ところ)(ひと)なり。 15()()なるは、御言(みことば)()き、(ただ)しく()(こころ)にて(これ)(まも)り、(しの)びて()(むす)(ところ)(ひと)なり。
16(たれ)燈火(ともしび)をともし(うつは)にて(おほ)ひ、または寢臺(ねだい)(した)におく(もの)なし、()(きた)(もの)のその(ひかり)()んために、(これ)燈臺(とうだい)(うへ)()くなり。 17それ(かく)れたるものの(あらは)れぬはなく、()めたるものの()られぬはなく、(あきら)かにならぬはなし。 18されば(なんぢ)()くこと如何(いか)にと(こころ)せよ、(たれ)にても()てる(ひと)はなほ(あた)へられ、()たぬ(ひと)はその()てりと(おも)(もの)をも()らるべし』
19さてイエスの(はは)兄弟(きゃうだい)(きた)りたれど、群衆(ぐんじゅう)によりて(ちか)づくこと(あた)はず。 20(ある)(ひと)イエスに『なんぢの(はは)兄弟(きゃうだい)と、(なんぢ)()はんとて(そと)()つ』と()げたれば、 21(こた)へて()ひたまふ『わが(はは)わが兄弟(きゃうだい)は、(かみ)(ことば)()き、かつ(おこな)(これ)らの(もの)なり』
22(ある)()イエス弟子(でし)たちと(とも)(ふね)()りて『みづうみの彼方(かなた)にゆかん』と()(たま)へば、(すなは)船出(ふなで)す。 23(わた)るほどにイエス(ねむ)りたまふ。颶風(はやて)みづうみに()(おろ)し、(ふね)(みづ)滿()ちんとして(あやふ)かりしかば、 24弟子(でし)たち御側(みそば)により、()(おこ)して()ふ『(きみ)よ、(きみ)よ、(われ)らは(ほろ)ぶ』イエス()きて(かぜ)(なみ)とを(いまし)(たま)へば、ともに(しづま)りて(なぎ)となりぬ。 25かくて弟子(でし)たちに()(たま)ふ『なんぢらの信仰(しんかう)いづこに()るか』かれら(おそ)(あや)しみて(たがひ)()ふ『こは(たれ)ぞ、(かぜ)(みづ)とに(めい)(たま)へば(したが)ふとは』
26(つひ)にガリラヤに(むか)へるゲラセネ(ひと)()()く。 27(をか)(のぼ)りたまふ(とき)、その(まち)(ひと)にて惡鬼(あくき)()かれたる(もの)きたり()ふ。この(ひと)(ひさ)しきあひだ(ころも)()ず、また(いへ)()まずして(はか)(うち)にゐたり。 28イエスを()てさけび、御前(みまへ)平伏(ひれふ)して大聲(おほごゑ)にいふ『至高(いとたか)(かみ)()イエスよ、(われ)(なんぢ)(なに)關係(かかはり)あらん、(ねが)はくは(われ)(くる)しめ(たま)ふな』 29これはイエス(けが)れし(れい)に、この(ひと)より()()かんことを(めい)(たま)ひしに()る。この(ひと)けがれし(れい)にしばしば(とら)へられ、(くさり)足械(あしかせ)とにて(つな)(まも)られたれど、その(つなぎ)をやぶり、惡鬼(あくき)()はれて荒野(あらの)()けり。 30イエス(これ)に『なんぢの()(なに)か』と()(たま)へば『レギオン』と(こた)ふ、(おほ)くの惡鬼(あくき)その(うち)()りたる(ゆゑ)なり。 31(かれ)らイエスに、(そこ)なき(ところ)()くを(めい)(たま)はざらんことを()ふ。 32彼處(かしこ)(やま)に、(おほ)くの(ぶた)(ひと)(むれ)(しょく)()たりしが、惡鬼(あくき)ども()(ぶた)()るを(ゆる)(たま)はんことを()ひたれば、イエス(ゆる)(たま)ふ。 33惡鬼(あくき)(ひと)()でて(ぶた)()りたれば、その(むれ)(がけ)より湖水(みづうみ)()(くだ)りて(おぼ)れたり。 34()(もの)ども()(おこ)りし(こと)()て、()()きて、(まち)にも(さと)にも()げたれば、 35人々(ひとびと)ありし(こと)()んとて()で、イエスに(きた)りて、惡鬼(あくき)()でたる(ひと)の、衣服(ころも)をつけ(たしか)なる(こころ)にて、イエスの足下(あしもと)()しをるを()(おそ)れあへり。 36かの惡鬼(あくき)()かれたる(ひと)(すく)はれし事柄(ことがら)()(もの)ども、(これ)(かれ)らに()げたれば、 37ゲラセネ地方(ちはう)民衆(みんしゅう)、みなイエスに()()(たま)はんことを()ふ。これ(おほい)(おそ)れたるなり。ここにイエス(ふね)()りて(かへ)(たま)ふ。 38(とき)惡鬼(あくき)()でたる(ひと)、ともに()らんことを(ねが)ひたれど、(これ)()らしめんとて、 39()(たま)ふ『なんぢの(いへ)(かへ)りて、(かみ)如何(いか)(おほい)なる(こと)(なんぢ)になし(たま)ひしかを(つぶさ)()げよ』(かれ)ゆきて、イエスの如何(いか)(おほい)なる(こと)(おのれ)になし(たま)ひしかを、(あまね)くその(まち)()(ひろ)めたり。
40かくてイエスの(かへ)(たま)ひしとき、群衆(ぐんじゅう)これを(むか)ふ、みな()ちゐたるなり。 41()よ、會堂(くわいだう)(つかさ)にてヤイロといふ(もの)あり、(きた)りてイエスの足下(あしもと)()し、その(いへ)にきたり(たま)はんことを(ねが)ふ。 42おほよそ十二(じふに)(さい)ほどの一人(ひとり)(むすめ)ありて、()ぬばかりなる(ゆゑ)なり。イエスの()(たま)ふとき、群衆(ぐんじゅう)かこみ(ふさ)がる。
43ここに(じふ)二年(にねん)このかた血漏(ちらう)(わづら)ひて、醫者(いしゃ)(ため)(おの)身代(しんだい)をことごとく(つひや)したれども、(たれ)にも(いや)され()ざりし(をんな)あり。 44イエスの(うしろ)(きた)りて、御衣(みころも)(ふさ)にさはりたれば、()()づること立刻(たちどころ)()みたり。 45イエス()(たま)ふ『(われ)(さは)りしは(たれ)ぞ』(ひと)みな(いな)みたれば、ペテロ(およ)(とも)にをる(もの)ども()ふ『(きみ)よ、群衆(ぐんじゅう)なんぢを(かこ)みて押迫(おしせま)るなり』 46イエス()(たま)ふ『われに(さは)りし(もの)あり、能力(ちから)(われ)より()でたるを()る』 47(をんな)おのれが(かく)()ぬことを()り、(おのの)(きた)りて御前(みまへ)平伏(ひれふ)し、(さは)りし(ゆゑ)立刻(たちどころ)()えたる(こと)を、人々(ひとびと)(まへ)にて()ぐ。 48イエス()(たま)ふ『むすめよ、(なんぢ)信仰(しんかう)なんぢを(すく)へり、(やす)らかに()け』
49かく(かた)(たま)ふほどに、會堂(くわいだう)(つかさ)(いへ)より(ひと)きたりて()ふ『なんぢの(むすめ)()()にたり、()(わづら)はすな』 50イエス(これ)()きて會堂(くわいだう)(つかさ)(こた)へたまふ『(おそ)るな、ただ(しん)ぜよ。さらば(むすめ)(すく)はれん』 51イエス(いへ)(いた)りて、ペテロ、ヨハネ、ヤコブ(およ)()(ちち)(はは)(ほか)は、ともに()ることを(たれ)にも(ゆる)(たま)はず。 52(ひと)みな()き、かつ()のために(なげ)()たりしが、イエス()ひたまふ『()くな、()にたるにあらず、()ねたるなり』 53人々(ひとびと)その()にたるを()れば、イエスを嘲笑(あざわら)ふ。 54(しか)るにイエス()()をとり、()びて『()よ、()きよ』と()(たま)へば、 55その(れい)かへりて立刻(たちどころ)()く。イエス食物(しょくもつ)(これ)(あた)ふることを(めい)(たま)ふ。 56その兩親(ふたおや)おどろきたり。イエス()()りし(こと)(たれ)にも(かた)らぬやうに(めい)(たま)ふ。

第九章

1イエス十二(じふに)弟子(でし)()()せて、もろもろの惡鬼(あくき)(せい)し、(やまひ)をいやす能力(ちから)權威(けんゐ)とを(あた)へ、 2また(かみ)(くに)宣傳(のべつた)へしめ、(ひと)(いや)さしむる(ため)に、(これ)(つかは)さんとして()(たま)ふ、 3(たび)のために(なに)をも()つな、(つゑ)(ふくろ)(かて)(かね)も、また(ふた)つの下衣(したぎ)をも()つな。 4いづれの(いへ)()るとも、其處(そこ)(とどま)れ、(しか)して其處(そこ)より()()れ。 5(ひと)もし(なんぢ)らを()けずば、その(まち)()()るとき、(あかし)のために(あし)(ちり)(はら)へ』 6ここに弟子(でし)たち()でて村々(むらむら)()(めぐ)り、あまねく福音(ふくいん)宣傳(のべつた)へ、(いや)すことを()せり。
7さて國守(こくしゅ)ヘロデ、ありし(すべ)ての(こと)をききて周章(あわ)てまどふ。(ある)(ひと)はヨハネ死人(しにん)(うち)より(よみが)へりたりといひ、 8(ある)(ひと)はエリヤ(あらは)れたりといひ、また(ある)(ひと)は、(いにし)への預言者(よげんしゃ)一人(ひとり)よみがへりたりと()へばなり。 9ヘロデ()ふ『ヨハネは(われ)すでに首斬(くびき)りたり、(しか)るに()かる(こと)のきこゆる()(ひと)(たれ)なるか』かくてイエスを()んことを(もと)めゐたり。
10使徒(しと)たち(かへ)りきて、()()しし(こと)(つぶさ)にイエスに()ぐ。イエス(かれ)らを(たづさ)へて(ひそか)にベツサイダといふ(まち)退(しりぞ)きたまふ。 11されど群衆(ぐんじゅう)これを()りて(したが)(きた)りたれば、(かれ)らを()けて、(かみ)(くに)(こと)(かた)り、かつ治療(ちれう)(えう)する人々(ひとびと)(いや)したまふ。 12()(かたぶ)きたれば、十二(じふに)弟子(でし)きたりて()ふ『群衆(ぐんじゅう)()らしめ、周圍(まはり)(むら)また(さと)にゆき、宿(やど)をとりて食物(しょくもつ)(もと)めさせ(たま)へ。(われ)らは()かる(さび)しき(ところ)()るなり』 13イエス()(たま)ふ『なんぢら食物(しょくもつ)(あた)へよ』弟子(でし)たち()ふ『(われ)らただ(いつ)つのパンと(ふた)つの(うを)とあるのみ、()(おほ)くの(ひと)のために、()きて()はねば(ほか)食物(しょくもつ)なし』 14(をとこ)おほよそ()(せん)(にん)ゐたればなり。イエス弟子(でし)たちに()ひたまふ『人々(ひとびと)(くみ)にして()(じふ)(にん)づつ()せしめよ』 15(かれ)()その(ごと)くなして、人々(ひとびと)をみな()せしむ。 16かくてイエス(いつ)つのパンと(ふた)つの(うを)とを()り、(てん)(あふ)ぎて(しく)し、()きて弟子(でし)たちに(わた)し、群衆(ぐんじゅう)のまへに()かしめ(たま)ふ。 17(かれ)らは(くら)ひて(みな)()く。()きたる(あまり)(あつ)めしに十二(じふに)(かご)ほどありき。
18イエス人々(ひとびと)(はな)れて(いの)居給(ゐたま)ふとき、弟子(でし)たち(とも)にをりしに、()ひて()ひたまふ『群衆(ぐんじゅう)(われ)(たれ)といふか』 19(こた)へて()ふ『バプテスマのヨハネ、(ある)(ひと)はエリヤ、(ある)(ひと)(いにし)への預言者(よげんしゃ)一人(ひとり)よみがへりたりと()ふ』 20イエス()(たま)ふ『なんぢらは(われ)(たれ)()ふか』ペテロ(こた)へて()ふ『(かみ)のキリストなり』 21イエス(かれ)らを(いまし)めて、(これ)(たれ)にも()げぬやうに(めい)じ、かつ()(たま)22(ひと)()(かなら)(おほ)くの苦難(くるしみ)をうけ、長老(ちゃうらう)祭司長(さいしちゃう)學者(がくしゃ)らに()てられ、かつ(ころ)され、三日(みっか)めに(よみが)へるべし』 23また一同(いちどう)(もの)()ひたまふ『(ひと)もし(われ)(したが)(きた)らんと(おも)はば、(おのれ)をすて、日々(ひび)おのが十字架(じふじか)()ひて(われ)(したが)へ。 24(おの)生命(いのち)(すく)はんと(おも)(もの)(これ)(うしな)ひ、()がために(おの)生命(いのち)(うしな)ふその(ひと)(これ)(すく)はん。 25(ひと)全世界(ぜんせかい)(まう)くとも、(おのれ)をうしなひ(おのれ)(そん)せば、(なに)(えき)あらんや。 26(われ)()(ことば)とを()づる(もの)をば、(ひと)()もまた、(おのれ)(ちち)(せい)なる御使(みつかひ)たちとの榮光(えいくわう)をもて(きた)らん(とき)()づべし。 27われ(まこと)をもて(なんぢ)らに()ぐ、此處(ここ)()(もの)のうちに、(かみ)(くに)()るまでは()(あぢ)はぬ(もの)どもあり』
28これらの(ことば)をいひ(たま)ひしのち八日(やうか)ばかり()ぎて、ペテロ、ヨハネ、ヤコブを()きつれ、(いの)らんとて(やま)(のぼ)(たま)ふ。 29かくて(いの)(たま)ふほどに、御顏(みかほ)(さま)かはり、()(ころも)(しろ)くなりて(かがや)けり。 30()よ、二人(ふたり)(ひと)ありてイエスと(とも)(かた)る。これはモーセとエリヤとにて、 31榮光(えいくわう)のうちに(あらは)れ、イエスのエルサレムにて()げんとする逝去(せいきょ)のことを()ひゐたるなり。 32ペテロ(およ)(とも)にをる(もの)いたく睡氣(ねむけ)ざしたれど、()(さま)してイエスの榮光(えいくわう)および(とも)()二人(ふたり)()たり。 33二人(ふたり)(もの)イエスと(わか)れんとする(とき)、ペテロ、イエスに()ふ『(きみ)よ、(われ)らの此處(ここ)()るは()し、(われ)()つの(いほり)(つく)り、(ひと)つを(なんぢ)のため、(ひと)つをモーセのため、(ひと)つをエリヤの(ため)にせん』(かれ)()(ところ)()らざりき。 34この(こと)()()るほどに、(くも)おこりて(かれ)らを(おほ)ふ。(くも)(うち)()りしとき、弟子(でし)たち(おそ)れたり。 35(くも)より(こゑ)()でて()ふ『これは()(えら)びたる()なり、(なんぢ)(これ)()け』 36(こゑ)()でしとき、(ただ)イエスひとり()(たま)ふ。弟子(でし)たち(もく)して、()(こと)(なに)(ひと)()(ころ)たれにも()げざりき。
37(つぎ)()(やま)より(くだ)りたるに、(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)イエスを(むか)ふ。 38()よ、群衆(ぐんじゅう)のうちの(ある)(ひと)さけびて()ふ『()よ、(ねが)はくは()()(かへり)みたまへ、(これ)()獨子(ひとりご)なり。 39()よ、(れい)()くときは(にはか)(さけ)ぶ、痙攣(ひきつ)けて(あわ)をふかせ、(いた)(そこな)ひ、(やうや)くにして(はな)るるなり。 40御弟子(みでし)たちに(これ)()(いだ)すことを()ひたれど、(あた)はざりき』 41イエス(こた)へて()(たま)ふ『ああ(しん)なき(まが)れる()なる(かな)、われ何時(いつ)まで(なんぢ)らと(とも)にをりて、(なんぢ)らを(しの)ばん。(なんぢ)()をここに()(きた)れ』 42(すなは)(きた)るとき、惡鬼(あくき)これを()(たふ)し、(いた)痙攣(ひきつ)けさせたり。イエス(けが)れし(れい)(いまし)め、()(いや)して、その(ちち)(わた)したまふ。 43人々(ひとびと)みな(かみ)稜威(みいつ)(をどろ)きあへり。
人々(ひとびと)みなイエスの()(たま)ひし(すべ)ての(こと)(あや)しめる(とき)、イエス弟子(でし)たちに()(たま)ふ、 44『これらの(ことば)(なんぢ)らの(みみ)にをさめよ。(ひと)()人々(ひとびと)()(わた)さるべし』 45かれら()(ことば)(さと)らず、(わきま)へぬやうに(かく)されたるなり。また()(ことば)につきて()ふことを(おそ)れたり。
46ここに弟子(でし)たちの(うち)に、(たれ)(おほい)ならんとの爭論(さうろん)おこりたれば、 47イエスその(こころ)爭論(さうろん)()りて、幼兒(をさなご)をとり御側(みそば)()きて()(たま)ふ、 48『おほよそ()()のために()幼兒(をさなご)()くる(もの)は、(われ)()くるなり。(われ)()くる(もの)は、(われ)(つかは)しし(もの)()くるなり。(なんぢ)らの(うち)にて(もっと)(ちひさ)(もの)は、これ(おほい)なるなり』
49ヨハネ(こた)へて()ふ『(きみ)よ、御名(みな)によりて惡鬼(あくき)()ひいだす(もの)()しが、我等(われら)とともに(したが)はぬ(ゆゑ)に、(これ)(とど)めたり』 50イエス()(たま)ふ『(とど)むな。(なんぢ)らに(さから)はぬ(もの)は、(なんぢ)らに()(もの)なり』
51イエス(てん)()げらるる(とき)滿()ちんとしたれば、御顏(みかほ)(かた)くエルサレムに()けて(すす)まんとし、 52(おのれ)(さき)だちて使(つかひ)(つかは)したまふ。(かれ)()きてイエスの(ため)(そなへ)をなさんとて、サマリヤ(ひと)(ある)(むら)()りしに、 53(むら)(ひと)そのエルサレムに(むか)ひて()(たま)ふさまなるが(ゆゑ)に、イエスを()けず、 54弟子(でし)のヤコブ、ヨハネ、これを()()ふ『(しゅ)よ、(われ)らが(てん)より()()(くだ)して(かれ)らを(ほろび)すことを(ほっ)(たま)ふか』 55イエス(かへり)みて(かれ)らを(いまし)め、 56(つひ)(あひ)(とも)(ほか)(むら)()きたまふ。
57(みち)()くとき、(ある)(ひと)イエスに()ふ『何處(いづこ)()(たま)ふとも(われ)(したが)はん』 58イエス()ひたまふ『(きつね)(あな)あり、(そら)(とり)(ねぐら)あり、されど(ひと)()(まくら)する(ところ)なし』 59また(ある)(ひと)()ひたまふ『(われ)(したが)へ』かれ()ふ『まづ()きて()(ちち)(はうむ)ることを(ゆる)(たま)へ』 60イエス()ひたまふ『()にたる(もの)に、その()にたる(もの)(はうむ)らせ、(なんぢ)()きて(かみ)(くに)()(ひろ)めよ』 61また(ある)(ひと)いふ『(しゅ)よ、(われ)なんぢに(したが)はん、されど()(いへ)(もの)(わかれ)()ぐることを(ゆる)(たま)へ』 62イエス()ひたまふ『()(すき)につけてのち(うしろ)(かへり)みる(もの)は、(かみ)(くに)(かな)(もの)にあらず』

第十章

1この(こと)ののち、(しゅ)、ほかに(しち)(じふ)(にん)をあげて、(みづか)()かんとする町々(まちまち)處々(ところどころ)へ、おのれに(さき)だち二人(ふたり)づつを(つかは)さんとして()(たま)ふ、 2收穫(かりいれ)はおほく、勞働人(はたらきびと)(すくな)し。この(ゆゑ)收穫(かりいれ)(しゅ)に、勞働人(はたらきびと)をその收穫場(かりいれば)(つかは)(たま)はんことを(もと)めよ。 3()け、()よ、(われ)なんぢらを(つかは)すは、羔羊(こひつじ)豺狼(おほかみ)のなかに()るるが(ごと)し。 4財布(さいふ)(ふくろ)(くつ)(たづさ)ふな。また(みち)にて(たれ)にも挨拶(あいさつ)すな。 5(いづれ)(いへ)()るとも、()平安(へいあん)この(いへ)にあれと()へ。 6もし平安(へいあん)()そこに()らば、(なんぢ)らの(しく)する平安(へいあん)はその(うへ)(とどま)らん。もし(しか)らずば、()平安(へいあん)(なんぢ)らに(かへ)らん。 7その(いへ)にとどまりて、(あた)ふる(もの)()()みせよ。勞働人(はたらきびと)のその(あたひ)()るは相應(ふさは)しきなり。(いへ)より(いへ)(うつ)るな。 8(いづれ)(まち)()るとも、人々(ひとびと)なんぢらを()けなば、(なんぢ)らの(まへ)(そな)ふる(もの)(しょく)し、 9其處(そこ)にをる(やまひ)のものを(いや)し、また「(かみ)(くに)(なんぢ)らに(ちか)づけり」と()へ。 10(いづれ)(まち)()るとも、人々(ひとびと)なんじらを()けずば、大路(おほじ)()でて、 11(われ)らの(あし)につきたる(なんぢ)らの(まち)(ちり)をも、(なんぢ)らに(たい)して(はら)()つ、されど(かみ)(くに)(ちか)づけるを()れ」と()へ。 12われ(なんぢ)らに()ぐ、かの()にはソドムの(かた)その(まち)よりも()(やす)からん。 13禍害(わざはひ)なる(かな)、コラジンよ、禍害(わざはひ)なる(かな)、ベツサイダよ、(なんぢ)らの(うち)にて(おこな)ひたる能力(ちから)ある(わざ)を、ツロとシドンとにて(おこな)ひしならば、(かれ)らは(はや)荒布(あらぬの)をき、(はひ)のなかに()して、悔改(くいあらた)めしならん。 14されば審判(さばき)には、ツロとシドンとのかた(なんぢ)()よりも()(やす)からん。 15カペナウムよ、(なんぢ)(てん)にまで()げらるべきか、黄泉(よみ)にまで(くだ)らん。 16(なんぢ)()()(もの)(われ)()くなり、(なんぢ)らを()つる(もの)(われ)()つるなり。(われ)()つる(もの)(われ)(つかは)(たま)ひし(もの)()つるなり』
17(しち)(じふ)(にん)よろこび(かへ)りて()ふ『(しゅ)よ、(なんぢ)()によりて惡鬼(あくき)すら(われ)らに(ふく)す』 18イエス(かれ)らに()(たま)ふ『われ(てん)より(ひらめ)電光(いなづま)のごとくサタンの()ちしを()たり。 19()よ、われ(なんぢ)らに(へび)(さそり)()み、(あた)(すべ)ての(ちから)(おさ)ふる權威(けんゐ)(さづ)けたれば、(なんぢ)らを(そこな)ふもの()えてなからん。 20されど(れい)(なんぢ)らに(ふく)するを(よろこ)ぶな、(なんぢ)らの()(てん)(しる)されたるを(よろこ)べ』
21その(とき)イエス(せい)(れい)により(よろこ)びて()ひたまふ『(てん)()(しゅ)なる(ちち)よ、われ感謝(かんしゃ)す、(これ)()のことを(かしこ)きもの(さと)(もの)(かく)して、嬰兒(みどりご)(あらは)したまへり。(ちち)よ、(しか)り、()のごときは御意(みこころ)(かな)へるなり。 22(すべ)ての(もの)(われ)わが(ちち)より(ゆだ)ねられたり。()(たれ)なるを()(もの)は、(ちち)(ほか)になく、(ちち)(たれ)なるを()(もの)は、()また()(ほっ)するままに(あらは)すところの(もの)(ほか)になし』 23かくて弟子(でし)たちを(かへり)(ひそか)()(たま)ふ『なんぢらの()(ところ)()()幸福(さいはひ)なり。 24われ(なんぢ)らに()ぐ、(おほ)くの預言者(よげんしゃ)も、(わう)も、(なんぢ)らの()るところを()んと(ほっ)したれど()ず、(なんぢ)らの()(ところ)()かんと(ほっ)したれど()かざりき』
25()よ、(ある)教法師(けうほふし)()ちてイエスを(こころ)みて()ふ『()よ、われ永遠(とこしへ)生命(いのち)()ぐためには(なに)をなすべきか』 26イエス()ひたまふ『律法(おきて)(なに)(しる)したるか、(なんぢ)いかに()むか』 27(こた)へて()ふ『なんぢ(こころ)(つく)精神(せいしん)(つく)し、(ちから)(つく)し、(おもひ)(つく)して、(しゅ)たる(なんぢ)(かみ)(あい)すべし。また(おのれ)のごとく(なんぢ)(となり)(あい)すべし』 28イエス()(たま)ふ『なんぢの(こたへ)(ただ)し。(これ)(おこな)へ、さらば()くべし』 29(かれ)おのれを()とせんとしてイエスに()ふ『わが(となり)とは(たれ)なるか』 30イエス(こた)へて()ひたまふ『(ある)(ひと)エルサレムよりエリコに(くだ)るとき強盜(がうたう)にあひしが、強盜(がうたう)どもその(ころも)()ぎ、(きず)()はせ、半死半生(はんしはんしゃう)にして()()りぬ。 31(ある)祭司(さいし)たまたま()(みち)より(くだ)り、(これ)()てかなたを()()けり。 32(また)レビ(ひと)此處(ここ)にきたり、(これ)()(おな)じく彼方(かなた)()()けり 33(しか)るに(ある)るサマリヤ(ひと)(たび)して()(もと)にきたり、(これ)()(あはれ)み、 34近寄(ちかよ)りて(あぶら)葡萄酒(ぶだうしゅ)とを(そそ)ぎ、(きず)(つつ)みて(おの)(けもの)にのせ、旅舍(はたごや)()れゆきて介抱(かいはう)し、 35あくる()デナリ(ふた)つを(いだ)し、主人(あるじ)(あた)へて「この(ひと)介抱(かいはう)せよ。(つひえ)もし()さば、()(かへ)りくる(とき)(つくの)はん」と()へり。 36(なんぢ)いかに(おも)ふか、()三人(さんにん)のうち、(いづれ)強盜(がうたう)にあひし(もの)(となり)となりしぞ』 37かれ()ふ『その(ひと)憐憫(あはれみ)(ほどこ)したる(もの)なり』イエス()(たま)ふ『なんぢも()きて()(ごと)くせよ』
38かくて(かれ)(すす)みゆく(うち)に、イエス(ある)(むら)()(たま)へば、マルタと()づくる(をんな)おのが(いへ)(むか)()る。 39その姉妹(しまい)にマリヤといふ(もの)ありて、イエスの足下(あしもと)()し、御言(みことば)()きをりしが、 40マルタ饗應(もてなし)のこと(おほ)くして(こころ)いりみだれ、御許(みもと)(すす)みよりて()ふ『(しゅ)よ、わが姉妹(しまい)われを一人(ひとり)のこして(はたら)かするを、(なに)とも(おも)(たま)はぬか、(かれ)(めい)じて(われ)(たす)けしめ(たま)へ』 41(しゅ)(こた)へて()(たま)ふ『マルタよ、マルタよ、(なんぢ)さまざまの(こと)により、(おも)(わづら)ひて心勞(こころづかひ)す。 42されど()くてならぬものは(おほ)からず、唯一(ただひと)つのみ、マリヤは()きかたを(えら)びたり。(これ)(かれ)より(うば)ふべからざるものなり』

第十一章

1イエス(ある)(ところ)にて(いの)居給(ゐたま)ひしが、その(をは)りしとき、弟子(でし)一人(ひとり)いふ『(しゅ)よ、ヨハネの()弟子(でし)(をし)へし(ごと)く、(いの)ることを(われ)らに(をし)(たま)へ』 2イエス()(たま)ふ『なんぢら(いの)るときに()()へ「(ちち)よ、(ねが)はくは御名(みな)(あが)められん(こと)を。御國(みくに)(きた)らん(こと)を。 3(われ)らの日用(にちよう)(かて)日毎(ひごと)(あた)(たま)へ。 4(われ)らに負債(おひめ)ある(すべ)ての(もの)(われ)(ゆる)せば、(われ)らの(つみ)をも(ゆる)(たま)へ。(われ)らを嘗試(こころみ)にあはせ(たま)ふな」』 5また()(たま)ふ『なんぢらの(うち)たれか(とも)あらんに、夜半(よなか)にその(もと)()きて「(とも)よ、(われ)()つのパンを()せ。 6わが(とも)(たび)より(きた)りしに、(これ)(そな)ふべき(もの)なし」と()(とき)7かれ(うち)より(こた)へて「われを(わづら)はすな、()ははや()ぢ、()らは(われ)(とも)臥所(ふしど)にあり、()ちて(あた)(かた)し」といふ(こと)ありとも、 8われ(なんぢ)らに()ぐ、(とも)なるによりては()ちて(あた)へねど、(もとめ)(せつ)なるにより、()きて()(えう)する(ほど)のものを(あた)へん。 9われ(なんぢ)らに()ぐ、(もと)めよ、さらば(あた)へられん。(たづ)ねよ、さらば見出(みいだ)さん。(もん)(たた)け、さらば(ひら)かれん。 10すべて(もと)むる(もの)()(たづ)ぬる(もの)見出(みいだ)し、(もん)(たた)(もの)(ひら)かるるなり。 11(なんぢ)()のうち(ちち)たる(もの)、たれか()()(うを)(もと)めんに、(うを)(かわり)(へび)(あた)へ、 12(たまご)(もと)めんに(さそり)(あた)へんや。 13さらば(なんぢ)()しき(もの)ながら、()賜物(たまもの)をその()らに(あた)ふるを()る。まして(てん)(ちち)は、(もと)むる(もの)(せい)(れい)(たま)はざらんや』
14さてイエス(おふし)惡鬼(あくき)()ひいだし(たま)へば、惡鬼(あくき)いでて(おふし)もの()ひしにより、群衆(ぐんじゅう)あやしめり。 15()(うち)(ある)(もの)ども()ふ『かれは惡鬼(あくき)(かしら)ベルゼブルによりて惡鬼(あくき)()(いだ)すなり』 16また(ある)(もの)どもは、イエスを(こころ)みんとて(てん)よりの(しるし)(もと)む。 17イエスその(おもひ)()りて()(たま)ふ『すべて(わか)(あらそ)(くに)(ほろ)び、(わか)(あらそ)(いへ)(たふ)る。 18サタンもし(わか)(あらそ)はば、その(くに)いかで()つべき。(なんぢ)()わが惡鬼(あくき)()(いだ)すを、ベルゼブルに()ると()へばなり。 19(われ)もしベルゼブルによりて惡鬼(あくき)()(いだ)さば、(なんぢ)らの()(たれ)によりて(これ)()(いだ)すか。この(ゆゑ)(かれ)らは(なんぢ)らの審判(さばき)(ひと)となるべし。 20されど(われ)もし(かみ)(ゆび)によりて惡鬼(あくき)()(いだ)さば、(かみ)(くに)(すで)(なんぢ)らに(いた)れるなり。 21(つよ)きもの武具(ぶぐ)をよろひて(おの)屋敷(やしき)(まも)るときは、()所有(もちもの)安全(あんぜん)なり。 22されど(さら)(つよ)きもの(きた)りて(これ)()つときは、(たのみ)とする武具(ぶぐ)をことごとく(うば)ひて、分捕物(ぶんどりもの)(わか)たん。 23(われ)(とも)ならぬ(もの)(われ)にそむき、(われ)(とも)(あつ)めぬ(もの)(ちら)すなり。 24(けが)れし(れい)(ひと)()づる(とき)は、(みづ)なき(ところ)(めぐ)りて(やすみ)(もと)む。されど()ずして()ふ「わが()でし(いへ)(かへ)らん」 25(かへ)りて()(いへ)()(きよ)められ、(かざ)られたるを()26(つひ)()きて(おのれ)よりも()しき(ほか)(なな)つの(れい)()れきたり、(とも)()りて此處(ここ)()む。さればその(ひと)(のち)(さま)は、(まへ)よりも()しくなるなり』
27(これ)()のことを()(たま)ふとき、群衆(ぐんじゅう)(うち)より(ある)(をんな)(こゑ)をあげて()ふ『幸福(さいはひ)なるかな、(なんぢ)宿(やど)しし(たい)、なんぢの()ひし乳房(ちぶさ)は』 28イエス()ひたまふ『(さら)幸福(さいはひ)なるかな、(かみ)(ことば)()きて(これ)(まも)(ひと)は』 29群衆(ぐんじゅう)おし(あつま)れる(とき)、イエス()()でたまふ『(いま)()邪曲(よこしま)なる()にして(しるし)(もと)む。されどヨナの(しるし)のほかに(しるし)(あた)へられじ。 30ヨナがニネベの(ひと)(しるし)となりし(ごと)く、(ひと)()もまた(いま)()(しか)らん。 31(みなみ)女王(にょわう)審判(さばき)のとき、(いま)()(ひと)(とも)()きて(これ)(つみ)(さだ)めん。(かれ)はソロモンの智慧(ちゑ)()かんとて()(はて)より(きた)れり。()よ、ソロモンよりも(まさ)るもの此處(ここ)にあり。 32ニネベの(ひと)審判(さばき)のとき、(いま)()(ひと)(とも)()ちて(これ)(つみ)(さだ)めん。(かれ)らはヨナの()ぶる(ことば)によりて悔改(くいあらた)めたり。()よ、ヨナよりも(まさ)るもの此處(ここ)()り。
33(たれ)燈火(ともしび)をともして、穴藏(あなぐら)(うち)または(ます)(した)におく(もの)なし。()(きた)(もの)(ひかり)()んために、燈臺(とうだい)(うへ)()くなり。 34(なんぢ)()燈火(ともしび)()なり、(なんぢ)()(ただ)しき(とき)は、全身(ぜんしん)(あか)るからん。されど()しき(とき)は、()もまた(くら)からん。 35この(ゆゑ)(なんぢ)(うち)(ひかり)(やみ)にはあらぬか、(かへり)みよ。 36もし(なんぢ)全身(ぜんしん)(あか)るくして(くら)(ところ)なくば、(かがや)ける燈火(ともしび)(てら)さるる(ごと)く、その()(まった)(あか)るからん』
37イエスの(かた)(たま)へるとき、(ある)パリサイ(びと)その(いへ)にて食事(しょくじ)(たま)はん(こと)()ひたれば、()りて(せき)()きたまふ。 38食事(しょくじ)(まへ)()(あら)(たま)はぬを、()のパリサイ(びと)()(あや)しみたれば、 39(しゅ)これに()ひたまふ『(いま)(なんぢ)らパリサイ(びと)は、酒杯(さかづき)(ぼん)との(そと)(きよ)くす、されど(なんぢ)らの(うち)貪慾(どんよく)(あく)とにて滿()つるなり。 40(おろか)なる(もの)よ、(そと)(つく)りし(もの)は、(うち)をも(つく)りしならずや。 41(ただ)その(うち)にある(もの)(ほどこ)せ。さらば一切(すべて)(もの)なんぢらの(ため)(きよ)くなるなり。
42禍害(わざはひ)なるかな、パリサイ(びと)よ、(なんぢ)らは薄荷(はくか)芸香(うんかう)その(ほか)あらゆる野菜(やさい)十分(じふぶん)(いち)(をさ)めて、公平(こうへい)(かみ)(たい)する(あい)とを等閑(なほざり)にす、されど(これ)(おこな)ふべきものなり。(しか)して(かれ)もまた等閑(なほざり)にすべきものならず。 43禍害(わざはひ)なるかな、パリサイ(びと)よ、(なんぢ)らは會堂(くわいだう)上座(じゃうざ)市場(いちば)にての敬禮(けいれい)(よろこ)ぶ。 44禍害(わざはひ)なるかな、(なんぢ)らは(あらは)れぬ(はか)のごとし。()(うへ)(あゆ)(ひと)これを()らぬなり』
45教法師(けうほふし)一人(ひとり)(こた)へて()ふ『()よ、()かることを()ふは、(われ)らをも(はづか)しむるなり』 46イエス()(たま)ふ『なんぢら教法師(けうほふし)禍害(わざはひ)なる(かな)。なんぢら(にな)(かた)()(ひと)(おは)せて、(みづか)(ゆび)(ひと)つだに()()につけぬなり。 47禍害(わざはひ)なるかな、(なんぢ)らは預言者(よげんしゃ)たちの(はか)()つ、(これ)(ころ)しし(もの)(なんぢ)らの先祖(せんぞ)なり。 48げに(なんぢ)らは先祖(せんぞ)所作(しわざ)()しとする證人(あかしびと)ぞ。それは(かれ)らは(これ)(ころ)し、(なんぢ)らは()(はか)()つればなり。 49この(ゆゑ)(かみ)智慧(ちゑ)いへる(ことば)あり、われ預言者(よげんしゃ)使徒(しと)とを(かれ)らに(つかは)さんに、その(うち)(ある)(もの)(ころ)し、また()(くる)しめん。 50()(はじめ)より(なが)されたる(すべ)ての預言者(よげんしゃ)()51(すなは)ちアベルの()より、祭壇(さいだん)聖所(せいじょ)との(あひだ)にて(ころ)されたるザカリヤの()(いた)るまでを、(いま)()(ただ)すべきなり。(しか)り、われ(なんぢ)らに()ぐ、(いま)()(ただ)さるべし。 52禍害(わざはひ)なるかな教法師(けうほふし)よ、なんぢらは知識(ちしき)(かぎ)()()りて(みづか)()らず、()らんとする(ひと)をも()めしなり』
53此處(ここ)より()(たま)へば、學者(がくしゃ)・パリサイ(びと)(はげ)しく()()せて、樣々(さまざま)のことを(なじ)りはじめ、 54その(くち)より何事(なにごと)をか(とら)へんと待構(まちかま)へたり。

第十二章

1その(とき)無數(むすう)(ひと)あつまりて、群衆(ぐんじゅう)ふみ()ふばかりなり。イエスまづ弟子(でし)たちに()()(たま)ふ『なんぢら、パリサイ(びと)のパンだねに(こころ)せよ、これ僞善(ぎぜん)なり。 2(おほ)はれたるものに(あらは)れぬはなく、(かく)れたるものに()られぬはなし。 3この(ゆゑ)(なんぢ)らが(くら)きにて()ふことは、(あか)るきにて(きこ)え、部屋(へや)(うち)にて(みみ)によりて(かた)りしことは、()(うへ)にて()べらるべし。 4()(とも)たる(なんぢ)らに()ぐ。()(ころ)して(のち)(なに)をも()()(もの)どもを(おそ)るな。 5(おそ)るべきものを(なんぢ)らに(しめ)さん。(ころ)したる(のち)ゲヘナに()()るる權威(けんゐ)ある(もの)(おそ)れよ。われ(なんぢ)らに()ぐ、げに(これ)(おそ)れよ。 6()()(すずめ)二錢(にせん)にて()るにあらずや、(しか)るに()(いち)()だに(かみ)(まへ)(わす)れらるる(こと)なし。 7(なんぢ)らの(かしら)()までもみな(かぞ)へらる。(おそ)るな、(なんぢ)らは(おほ)くの(すずめ)よりも(すぐ)るるなり。 8われ(なんぢ)らに()ぐ、(おほよ)(ひと)(まへ)(われ)()ひあらはす(もの)を、(ひと)()もまた(かみ)使(つかひ)たちの(まへ)にて()ひあらはさん。 9されど(ひと)(まへ)にて(われ)(いな)(もの)は、(かみ)使(つかひ)たちの(まへ)にて(いな)まれん。 10(おほよ)(ことば)をもて(ひと)()(さから)(もの)(ゆる)されん。されど(せい)(れい)(けが)すものは(ゆる)されじ。 11(ひと)なんぢらを會堂(くわいだう)(あるひ)(つかさ)、あるひは權威(けんゐ)ある(もの)(まへ)()きゆかん(とき)、いかに(なに)(こた)へ、または(なに)()はんと(おも)(わづら)ふな。 12(せい)(れい)そのとき()ふべきことを(をし)(たま)はん』
13群衆(ぐんじゅう)のうちの(ある)(ひと)いふ『()よ、わが兄弟(きゃうだい)(めい)じて、嗣業(しげふ)(われ)(わか)たしめ(たま)へ』 14(これ)()ひたまふ『(ひと)よ、(たれ)(われ)()てて(なんぢ)らの裁判人(さいばんにん)また分配(ぶんぱい)(もの)とせしぞ』 15かくて人々(ひとびと)()ひたまふ『(つつし)みて(すべ)ての慳貪(むさぼり)をふせげ、(ひと)生命(いのち)所有(もちもの)(ゆたか)なるには()らぬなり』 16また(たとへ)(かた)りて()(たま)ふ『ある()める(ひと)、その(はた)(ゆたか)(みの)りたれば、 17(こころ)(うち)(はか)りて()ふ「われ如何(いか)にせん、()作物(さくもつ)(をさ)めおく(ところ)なし」 18(つひ)()ふ「われ()()さん、わが(くら)(こぼ)ち、(さら)(おほい)なるものを()てて、其處(そこ)にわが穀物(こくもつ)および()(もの)をことごとく(をさ)めん。 19かくてわが靈魂(たましひ)()はん、靈魂(たましひ)よ、多年(たねん)(すご)すに()(おほ)くの()(もの)(たくは)へたれば、(やす)んぜよ、飮食(のみくひ)せよ、(たの)しめよ」 20(しか)るに(かみ)かれに「(おろか)なる(もの)よ、今宵(こよひ)なんぢの靈魂(たましひ)とらるべし、さらば(なんぢ)(そな)へたる(もの)は、(たれ)がものとなるべきぞ」と()(たま)へり。 21(おのれ)のために(たから)(たくは)へ、(かみ)(たい)して()まぬ(もの)()くのごとし』
22また弟子(でし)たちに()(たま)ふ『この(ゆゑ)にわれ(なんぢ)らに()ぐ、(なに)(くら)はんと生命(いのち)のことを(おも)(わづら)ひ、(なに)()んと(からだ)のことを(おも)(わづら)ふな。 23生命(いのち)(かて)にまさり、(からだ)(ころも)(まさ)るなり。 24(からす)(おも)()よ、()かず、()らず、納屋(なや)(くら)もなし。(しか)るに(かみ)(これ)(やしな)ひたまふ、(なんぢ)(とり)(すぐ)るること幾許(いくばく)ぞや。 25(なんぢ)らの(うち)たれか(おも)(わづら)ひて、()(たけ)一尺(いっしゃく)(くは)()んや。 26されば(いと)(ちひさ)(こと)すら(あた)はぬに、(なに)(ほか)のことを(おも)(わづら)ふか。 27百合(ゆり)(おも)()よ、(つむ)がず、()らざるなり。されど(われ)なんぢらに()ぐ、榮華(えいぐわ)(きは)めたるソロモンだに、()服裝(よそほひ)この(はな)(ひと)つにも()かざりき。 28今日(けふ)ありて、明日(あす)()()()れらるる()(くさ)をも、(かみ)()(よそほ)(たま)へば、(まし)(なんぢ)らをや、ああ信仰(しんかう)うすき(もの)よ、 29なんぢら(なに)()(なに)()まんと(もと)むな、また(こころ)(うご)かすな。 30(これ)みな()異邦人(いはうじん)(せつ)(もと)むる(ところ)なれど、(なんぢ)らの(ちち)は、(これ)()(もの)のなんぢらに必要(ひつえう)なるを()(たま)へばなり。 31ただ(ちち)御國(みくに)(もと)めよ。さらば(これ)()(もの)は、なんぢらに(くは)へらるべし。 32(おそ)るな、(ちひさ)(むれ)よ、なんぢらに御國(みくに)(たま)ふことは、(なんぢ)らの(ちち)御意(みこころ)なり。 33(なんぢ)らの所有(もちもの)()りて施濟(ほどこし)をなせ。(おの)がために(ふる)びぬ財布(さいふ)をつくり、()きぬ財寶(たから)(てん)(たくは)へよ。かしこは盜人(ぬすびと)(ちか)づかず、(むし)(やぶ)らぬなり、 34(なんぢ)らの財寶(たから)のある(ところ)には、(なんぢ)らの(こころ)もあるべし。
35なんぢら(こし)(おび)し、燈火(ともしび)をともして()れ。 36主人(しゅじん)婚筵(こんえん)より(かへ)(きた)りて()(たた)かば、(ただ)ちに(ひら)くために()(ひと)のごとくなれ。 37主人(しゅじん)(きた)るとき、()(さま)しをるを()らるる(しもべ)どもは幸福(さいはひ)なるかな。われ(まこと)(なんぢ)らに()ぐ、主人(しゅじん)(おび)して()(しもべ)どもを食事(しょくじ)(せき)()かせ、(すす)みて給仕(きふじ)すべし。 38主人(しゅじん)()(なかば)ごろ(もし)くは()()くる(ころ)(きた)るとも、かくの(ごと)くなるを()らるる(しもべ)どもは幸福(さいはひ)なり。 39なんぢら(これ)()れ、家主(いへあるじ)もし盜人(ぬすびと)いづれの(とき)(きた)るかを()らば、その(いへ)穿(うが)たすまじ。 40(なんぢ)らも(そな)へをれ。(ひと)()(おも)はぬ(とき)(きた)ればなり』
41ペテロ()ふ『(しゅ)よ、この(たとへ)()(たま)ふは(われ)らにか、また(すべ)ての(ひと)にか』 42(しゅ)いひ(たま)ふ『主人(しゅじん)(とき)(およ)びて(しもべ)どもに(さだめ)(かて)(あた)へさする(ため)に、その(しもべ)どもの(うへ)()つる忠實(まめやか)にして(さと)支配人(しはいにん)(たれ)なるか、 43主人(しゅじん)のきたる(とき)、かく()()るを()らるる(しもべ)幸福(さいはひ)なるかな。 44われ(まこと)をもて(なんぢ)らに()ぐ、主人(しゅじん)すべての所有(もちもの)(かれ)(つかさ)どらすべし。 45()しその(しもべ)(こころ)のうちに、主人(しゅじん)(きた)るは(おそ)しと(おも)ひ、(しもべ)婢女(はしため)をたたき、飮食(のみくひ)して()(はじ)めなば、 46その(しもべ)主人(しゅじん)、おもはぬ()()らぬ(とき)(きた)りて、(これ)(はげ)しく(しもと)うち、その(むくい)()(ちゅう)(もの)(おな)じうせん。 47主人(しゅじん)(こころ)()りながら用意(ようい)せず、(また)その(こころ)(したが)はぬ(しもべ)は、(しもと)うたるること(おほ)からん。 48されど()らずして()たるべき(こと)をなす(もの)は、(しもと)うたるること(すくな)からん。(おほ)(あた)へらるる(もの)は、(おほ)(もと)められん。(おほ)(ひと)(あづ)くれば、(さら)(おほ)くその(ひと)より()(もと)むべし。
49(われ)()()(とう)ぜんとて(きた)れり。()()すでに()えたらんには、(われ)また(なに)をか(のぞ)まん。 50されど(われ)には()くべきバプテスマあり。その()()げらるるまでは、(おも)(せま)ること如何(いか)ばかりぞや。 51われ()平和(へいわ)(あた)へんために(きた)ると(おも)ふか。われ(なんぢ)らに()ぐ、(しか)らず、(かへ)つて分爭(ぶんさう)なり。 52(いま)よりのち一家(いっか)()(にん)あらば、三人(さんにん)二人(ふたり)に、二人(ふたり)三人(さんにん)(わか)(あらそ)はん。 53(ちち)()に、()(ちち)に、(はは)(むすめ)に、(むすめ)(はは)に、姑姆(しうとめ)(よめ)に、(よめ)姑姆(しうとめ)(わか)(あらそ)はん』
54イエスまた群衆(ぐんじゅう)()(たま)ふ『なんぢら(くも)西(にし)より(おこ)るを()れば、(ただ)ちに()ふ「急雨(はやさめ)きたらん」と、(はた)して(しか)り。 55また(みなみ)(かぜ)ふけば、(なんぢ)()いふ「(つよ)(あつさ)あらん」と、(はた)して(しか)り。 56僞善者(ぎぜんしゃ)よ、(なんぢ)(てん)()氣色(けはひ)(わきま)ふることを()りて、(いま)(とき)(わきま)ふること(あた)はぬは(なに)ぞや。 57また(なに)(ゆゑ)みづから(ただ)しき(こと)(さだ)めぬか。 58なんぢ(うった)ふる(もの)とともに(つかさ)()くとき、(みち)にて和解(わかい)せんことを(つと)めよ。(おそ)らくは(うった)ふる(もの)なんぢを審判(さばき)(ひと)()きゆき、審判(さばき)(ひと)なんぢを下役(したやく)にわたし、下役(したやく)なんぢを(ひとや)()()れん。 59われ(なんぢ)()ぐ、(いち)レプタも(のこ)りなく(つくの)はずば、其處(そこ)()づること(あた)はじ』

第十三章

1その(をり)しも(ある)人々(ひとびと)きたりて、ピラトがガリラヤ(ひと)らの()(かれ)らの犧牲(いけにへ)にまじへたりし(こと)をイエスに()げたれば、 2(こた)へて()(たま)ふ『かのガリラヤ(ひと)()かることに()ひたる(ゆゑ)に、(すべ)てのガリラヤ(ひと)(まさ)れる罪人(つみびと)なりしと(おも)ふか。 3われ(なんぢ)らに()ぐ、(しか)らず、(なんぢ)らも悔改(くいあらた)めずば(みな)おなじく(ほろ)ぶべし。 4(また)シロアムの(やぐら)たふれて、()(ころ)されし(じふ)八人(はちにん)は、エルサレムに()める(すべ)ての(ひと)(まさ)りて、(つみ)負債(おひめ)ある(もの)なりしと(おも)ふか。 5われ(なんぢ)らに()ぐ、(しか)らず、(なんぢ)らも悔改(くいあらた)めずば、みな()くのごとく(ほろ)ぶべし』
6(また)この(たとへ)(かた)りたまふ『(ある)(ひと)おのが葡萄園(ぶだうぞの)()ゑありし無花果(いちぢく)()(きた)りて、()(もと)むれども()ずして、 7園丁(そのつくり)()ふ「()よ、われ三年(さんねん)きたりて()無花果(いちぢく)()()(もと)むれども()ず。これを()(たふ)せ、(なに)(いたづ)らに()(ふさ)ぐか」 8(こた)へて()ふ「(しゅ)よ、今年(ことし)(ゆる)したまへ、(われ)その周圍(まはり)()りて肥料(こやし)せん。 9そののち()(むす)ばば()し、もし(むす)ばずば()(たふ)したまへ」』
10イエス安息(あんそく)(にち)(ある)會堂(くわいだう)にて(をしへ)えたまふ(とき)11()よ、(じふ)(はち)(ねん)のあひだ(やまひ)(れい)()かれたる(をんな)あり、(かが)まりて(すこ)しも()ぶること(あた)はず。 12イエスこの(をんな)()()()せて『(をんな)よ、なんぢは(やまひ)より()かれたり』と()ひ、 13(これ)()()きたまへば、立刻(たちどころ)()(すぐ)にして(かみ)(あが)めたり。 14會堂(くわいだう)(つかさ)イエスの安息(あんそく)(にち)(やまひ)(いや)(たま)ひしことを(いきど)ほり、(こた)へて群衆(ぐんじゅう)()ふ『(はたら)くべき()六日(むゆか)あり、その(あひだ)(きた)りて(いや)されよ。安息(あんそく)(にち)には()ざれ』 15(しゅ)こたへて()ひたまふ『僞善者(ぎぜんしゃ)らよ、(なんぢ)()おのおの安息(あんそく)(にち)には、(おの)(うし)または驢馬(ろば)小屋(こや)より()きいだし、(みづ)()はんとて()()かぬか。 16さらば(なが)(じふ)(はち)(ねん)(あひだ)サタンに(しば)られたるアブラハムの(むすめ)なる()(をんな)は、安息(あんそく)(にち)にその(つなぎ)より()かるべきならずや』 17イエス(これ)()のことを()(たま)へば、(さから)(もの)はみな()ぢ、群衆(ぐんじゅう)(こぞ)りてその()(たま)へる榮光(えいくわう)ある(すべ)ての(わざ)(よろこ)べり。
18かくてイエス()ひたまふ『(かみ)(くに)(なに)()たるか、(われ)これを(なに)(なずら)へん、 19一粒(ひとつぶ)芥種(からしだね)のごとし。(ひと)これを()りて(おのれ)(その)()きたれば、(そだ)ちて()となり、(そら)(とり)その(えだ)宿(やど)れり』 20また()ひたまふ『(かみ)(くに)(なに)(なずら)へんか、 21パン(だね)のごとし。(をんな)これを()りて、(さん)()(こな)(なか)()るれば、ことごとく(ふく)れいだすなり』
22イエス(をし)へつつ町々(まちまち)村々(むらむら)()ぎて、エルサレムに(たび)(たま)ふとき、 23(ある)(ひと)いふ『(しゅ)よ、(すく)はるる(もの)(すくな)きか』 24イエス人々(ひとびと)()ひたまふ『(ちから)(つく)して(せま)(もん)より()れ。(われ)なんぢらに()ぐ、()らん(こと)(もと)めて()(あた)はぬ(もの)おほからん。 25家主(いへあるじ)おきて(もん)()ぢたる(のち)、なんぢら(そと)()ちて「(しゅ)よ、(われ)らに(ひら)(たま)へ」と()ひつつ(もん)(たた)(はじ)めんに、主人(あるじ)こたへて「われ(なんぢ)らが何處(いづこ)(もの)なるかを()らず」と()はん。 26その(とき)「われらは御前(みまへ)にて飮食(のみくひ)し、なんぢは、(われ)らの(まち)大路(おほじ)にて(をし)(たま)へり」と()()でんに、 27主人(あるじ)こたへて「われ(なんぢ)らが何處(いづこ)(もの)なるかを()らず、(あく)をなす(もの)どもよ、(みな)われを(はな)()れ」と()はん。 28(なんぢ)らアブラハム、イサク、ヤコブ(およ)(すべ)ての預言者(よげんしゃ)の、(かみ)(くに)()り、(おのれ)らの()(いだ)さるるを()ば、其處(そこ)にて哀哭(なげき)切齒(はがみ)する(こと)あらん。 29また人々(ひとびと)(ひがし)より西(にし)より(みなみ)より(きた)より(きた)りて、(かみ)(くに)(えん)()くべし。 30()よ、(あと)なる(もの)(さき)になり、(さき)なる(もの)(あと)になる(こと)あらん』
31そのとき(ある)パリサイ(びと)らイエスに(きた)りて()ふ『いでて此處(ここ)()(たま)へ、ヘロデ(なんぢ)(ころ)さんとす』 32(こた)へて()(たま)ふ『()きてかの(きつね)()へ。()よ、われ今日(けふ)明日(あす)惡鬼(あくき)()(いだ)し、(やまひ)(いや)し、(しか)して三日(みっか)めに(まった)うせられん。 33されど今日(けふ)明日(あす)(つぎ)()(われ)(すす)()くべし。それ預言者(よげんしゃ)のエルサレムの(ほか)にて()ぬることは()るまじきなり。 34(ああ)エルサレム、エルサレム、預言者(よげんしゃ)たちを(ころ)し、(つかは)されたる人々(ひとびと)(いし)にて()(もの)よ、牝鷄(めんどり)(おの)(ひな)(つばさ)のうちに(あつ)むるごとく、(われ)なんぢの()どもを(あつ)めんとせしこと幾度(いくたび)ぞや。されど(なんぢ)らは(この)まざりき。 35()よ、(なんぢ)らの(いへ)()てられて(なんぢ)らに(のこ)らん。(われ)なんぢらに()ぐ、「()むべきかな、(しゅ)()によりて(きた)(もの)」と、(なんぢ)らの()(とき)(いた)るまでは、(われ)()ざるべし』

第十四章

1イエス安息(あんそく)(にち)食事(しょくじ)せんとて、(ある)パリサイ(びと)(かしら)(いへ)()(たま)へば、人々(ひとびと)これを(うかが)ふ。 2()よ、御前(みまへ)水腫(すゐき)をわづらふ(ひと)ゐたれば、 3イエス(こた)へて教法師(けうほふし)とパリサイ(びと)とに()ひたまふ『安息(あんそく)(にち)(ひと)(いや)すことは()しや、(いな)や』 4かれら默然(もくねん)たり。イエスその(ひと)()り、(いや)して()らしめ、 5(かつ)かれらに()(たま)ふ『なんぢらの(うち)その()あるひは()(うし)()(おちい)らんに、安息(あんそく)(にち)には(ただ)ちに(これ)引揚(ひきあ)げぬ(もの)あるか』 6(かれ)()これに(たい)して(もの)()ふこと(あた)はず。
7イエス(まね)かれたる(もの)上席(じゃうせき)をえらぶを()(たとへ)をかたりて()(たま)ふ、 8『なんぢ婚筵(こんえん)(まね)かるるとき、上席(じゃうせき)()くな。(おそ)らくは(なんぢ)よりも(たふと)(ひと)(まね)かれんに、 9(なんぢ)(かれ)とを(まね)きたる(もの)きたりて「この(ひと)(せき)(ゆづ)れ」と()はん。さらば()(とき)なんぢ()ぢて末席(ばっせき)()きはじめん。 10(まね)かるるとき、(むし)()きて末席(ばっせき)()け、さらば(まね)きたる(もの)きたりて「(とも)よ、(かみ)(すす)め」と()はん。その(とき)なんぢ同席(どうせき)(もの)(まへ)(ほまれ)あるべし。 11(おほよ)そおのれを(たか)うする(もの)(ひく)うせられ、(おのれ)(ひく)うする(もの)(たか)うせらるるなり』
12また(おのれ)(まね)きたる(もの)にも()(たま)ふ『なんぢ晝餐(ひるげ)または夕餐(ゆふげ)(まう)くるとき、朋友(ほういう)兄弟(きゃうだい)親族(しんぞく)()める(となり)(ひと)などをよぶな。(おそ)らくは(かれ)らも(また)なんぢを(まね)きて(むくい)をなさん。 13饗宴(ふるまひ)(まう)くる(とき)は、(むし)(まづ)しき(もの)不具(かたは)跛者(あしなへ)盲人(めしひ)などを(まね)け。 14(かれ)らは(むく)ゆること(あた)はぬ(ゆゑ)に、なんぢ幸福(さいはひ)なるべし。(ただ)しき(もの)復活(よみがへり)(とき)(むく)いらるるなり』
15同席(どうせき)(もの)一人(ひとり)これらの(こと)()きてイエスに()ふ『おほよそ(かみ)(くに)にて食事(しょくじ)する(もの)幸福(さいはひ)なり』 16(これ)()ひたまふ『(ある)(ひと)(さかん)なる夕餐(ゆふげ)(まう)けて、(おほ)くの(ひと)(まね)く。 17夕餐(ゆふげ)(とき)いたりて、(まね)きおきたる(もの)(もと)(しもべ)(つかは)して「(きた)れ、(すで)(そなは)りたり」と()はしめたるに、 18(みな)ひとしく(ことわ)りはじむ。(はじめ)(もの)いふ「われ田地(でんち)()へり。()きて()ざるを()ず。()ふ、(ゆる)されんことを」 19(ほか)(もの)いふ「われ(いつ)(くびき)(うし)()へり、(これ)(ため)すために()くなり。()ふ、(ゆる)されんことを」 20また(ほか)(もの)いふ「われ(つま)(めと)れり、()(ゆゑ)()くこと(あた)はず」 21(しもべ)かへりて(これ)()(こと)をその主人(しゅじん)()ぐ、家主(いへあるじ)いかりて(しもべ)()ふ「とく(まち)大路(おほじ)小路(こうぢ)とに()きて、(まづ)しき(もの)不具(かたは)(もの)盲人(めしひ)跛者(あしなへ)などを此處(ここ)()れきたれ」 22(しもべ)いふ「(しゅ)よ、(おほせ)のごとく()したれど、()(あまり)(せき)あり」 23主人(しゅじん)(しもべ)()ふ「(みち)(まがき)(ほとり)にゆき、人々(ひとびと)()ひて()れきたり、()(いへ)()たしめよ。 24われ(なんぢ)らに()ぐ、かの(まね)きおきたる(もの)のうち、一人(ひとり)だに()夕餐(ゆふげ)(あぢは)()(もの)なし」』
25さて(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)イエスに(ともな)ひゆきたれば、(かへり)みて(これ)()ひたまふ、 26(ひと)もし(われ)(きた)りて、その(ちち)(はは)(つま)()兄弟(きゃうだい)姉妹(しまい)(おの)生命(いのち)までも(にく)まずば、()弟子(でし)となるを()ず。 27また(おの)十字架(じふじか)()ひて(われ)(したが)(もの)ならでは、()弟子(でし)となるを()ず。 28(なんぢ)らの(うち)たれか(やぐら)(きづ)かんと(おも)はば、()()して()(つひえ)をかぞへ、(おの)所有(もちもの)竣工(しゅんこう)までに()るか(いな)かを(はか)らざらんや。 29(しか)らずして(もとゐ)()ゑ、もし成就(じゃうじゅ)すること(あた)はずば、()(もの)みな嘲笑(あざけり)ひて、 30「この(ひと)(きづ)きかけて成就(じゃうじゅ)すること(あた)はざりき」と()はん。 31(また)いづれの(わう)()でて(ほか)(わう)戰爭(たたかひ)をせんに、()()して、()一萬(いちまん)(にん)をもて、かの二萬(にまん)(にん)(ひき)ゐきたる(もの)(むか)()るか(いな)(はか)らざらんや。 32もし()かずば、(てき)なほ(とほ)(へだて)るうちに、使(つかひ)(つかは)して和睦(わぼく)()ふべし。 33かくのごとく、(なんぢ)らの(うち)その一切(すべて)所有(もちもの)退(しりぞ)くる(もの)ならでは、()弟子(でし)となるを()ず。 34(しほ)()きものなり、()れど(しほ)もし效力(かうりょく)(うしな)はば、(なに)によりてか(あぢ)つけられん。 35(つち)にも肥料(こやし)にも(てき)せず、(そと)()てらるるなり。()(みみ)ある(もの)()くべし』

第十五章

1取税人(しゅぜいにん)罪人(つみびと)ども、みな御言(みことば)()かんとて近寄(ちかよ)りたれば、 2パリサイ(びと)學者(がくしゃ)(つぶや)きて()ふ、『この(ひと)罪人(つみびと)(むか)へて(しょく)(とも)にす』
3イエス(これ)(たとへ)(かた)りて()(たま)ふ、 4『なんぢらの(うち)たれか百匹(ひゃくひき)(ひつじ)()たんに、(もし)その一匹(いっぴき)(うしな)はば、()(じふ)()(ひき)()におき、()きて()せたる(もの)()(いだ)すまでは(たづ)ねざらんや。 5(つひ)見出(みいだ)さば、(よろこ)びて(これ)(おの)(かた)にかけ、 6(いへ)(かへ)りて()(とも)(となり)(ひと)とを()(あつ)めて()はん「(われ)とともに(よろこ)べ、()せたる()(ひつじ)見出(みいだ)せり」 7われ(なんぢ)らに()ぐ、かくのごとく悔改(くいあらた)むる一人(ひとり)罪人(つみびと)のためには、悔改(くいあらため)必要(ひつえう)なき()(じふ)()(にん)(ただ)しき(もの)にも(まさ)りて、(てん)歡喜(よろこび)あるべし。
8(また)いづれの(をんな)銀貨(ぎんくわ)(じふ)(まい)()たんに、()しその(いち)(まい)(うしな)はば、燈火(ともしび)をともし、(いへ)()きて()(いだ)すまでは(ねんご)ろに(たづ)ねざらんや。 9(つひ)見出(みいだ)さば、()(とも)(となり)(ひと)とを()(あつ)めて()はん、「(われ)とともに(よろこ)べ、わが(うしな)ひたる銀貨(ぎんくわ)見出(みいだ)せり」 10われ(なんぢ)らに()ぐ、かくのごとく悔改(くいあらた)むる一人(ひとり)罪人(つみびと)のために、(かみ)使(つかひ)たちの(まへ)歡喜(よろこび)あるべし』
11また()ひたまふ『(ある)(ひと)二人(ふたり)息子(むすこ)あり、 12(おとうと)(ちち)()ふ「(ちち)よ、財産(ざいさん)のうち()()くべき(ぶん)(われ)にあたへよ」(ちち)その身代(しんだい)二人(ふたり)()けあたふ。 13幾日(いくひ)()ぬに、(おとうと)おのが(もの)をことごとく(あつ)めて、遠國(ゑんごく)にゆき、其處(そこ)にて放蕩(はうたう)にその財産(ざいさん)(ちら)せり。 14ことごとく(つひや)したる(のち)、その(くに)(おほい)なる饑饉(ききん)おこり、(みづか)(とぼ)しくなり(はじ)めたれば、 15()きて()()(ある)(ひと)依附(よりすが)りしに、()(ひと)かれを(はた)(つかは)して(ぶた)()はしむ。 16かれ(ぶた)(くら)(いなご)(まめ)にて、(おの)(はら)(みた)さんと(おも)(ほど)なれど、(なに)をも(あた)ふる(ひと)なかりき。 17()のとき(われ)(かへ)りて()ふ『わが(ちち)(もと)には食物(しょくもつ)あまれる雇人(やとひびと)いくばくぞや、(しか)るに(われ)()ゑてこの(ところ)()なんとす。 18()ちて()(ちち)にゆき「(ちち)よ、われは(てん)(たい)し、また(なんぢ)(まへ)(つみ)(をか)したり。 19(いま)より(なんぢ)()(とな)へらるるに相應(ふさは)しからず、雇人(やとひびと)一人(ひとり)のごとく()(たま)へ』と()はん」 20(すなは)()ちて()(ちち)のもとに()く。なほ(とほ)(へだて)りたるに、(ちち)これを()(あはれ)み、(はし)りゆき、()(くび)(いだ)きて接吻(くちつけ)せり。 21()(ちち)にいふ「(ちち)よ、(われ)(てん)(たい)(また)なんぢの(まへ)(つみ)(をか)したり。(いま)より(なんぢ)()(とな)へらるるに相應(ふさは)しからず」 22されど(ちち)(しもべ)どもに()ふ「とくとく最上(さいじゃう)(ころも)()(きた)りて(これ)()せ、その()指輪(ゆびわ)をはめ、()(あし)(くつ)をはかせよ。 23また()えたる(こうし)()ききたりて(ほふ)れ、(われ)(しょく)して(たの)しまん。 24この()()()にて(また)()き、()せて(また)()られたり」かくて(かれ)(たの)しみ(はじ)む。 25(しか)るに()(あに)(はた)にありしが、(かへ)りて(いへ)(ちか)づきたるとき、音樂(なりもの)舞踏(をどり)との(おと)()き、 26(しもべ)一人(ひとり)()びてその何事(なにごと)なるかを()ふ。 27(こた)へて()ふ「なんぢの兄弟(きゃうだい)(かへ)りたり、その(つつが)なきを(むか)へたれば、(なんぢ)(ちち)()えたる(こうし)(ほふ)れるなり」 28(あに)(いか)りて(うち)()ることを(この)まざりしかば、(ちち)いでて(すす)めしに、 29(こた)へて(ちち)()ふ「()よ、(われ)幾歳(いくとせ)もなんぢに(つか)へて、(いま)(なんぢ)命令(めいれい)(そむ)きし(こと)なきに、(われ)には()山羊(やぎ)一匹(いっぴき)だに(あた)へて(とも)(たの)しましめし(こと)なし。 30(しか)るに遊女(あそびめ)らと(とも)に、(なんぢ)身代(しんだい)(くら)(つく)したる()(なんぢ)()(かへ)(きた)れば、(これ)がために()えたる(こうし)(ほふ)れり」 31(ちち)いふ「()よ、なんぢは(つね)(われ)とともに()り、わが(もの)(みな)なんぢの(もの)なり。 32されど()(なんぢ)兄弟(きゃうだい)()にて(また)()き、()せて(また)()られたれば、(われ)らの(たの)しみ(よろこ)ぶは當然(たうぜん)なり」』

第十六章

1イエスまた弟子(でし)たちに()(たま)ふ『(ある)()める(ひと)一人(ひとり)支配人(しはいにん)あり、主人(しゅじん)所有(もちもの)(つひや)しをりと(うった)へられたれば、 2主人(しゅじん)かれを()びて()ふ「わが(なんぢ)につきて()(ところ)は、これ何事(なにごと)ぞ、(つとめ)報告(はうこく)をいだせ、(なんぢ)こののち支配人(しはいにん)たるを()じ」 3支配人(しはいにん)(こころ)のうちに()ふ「如何(いか)にせん、主人(しゅじん)わが(つとめ)(うば)ふ。われ(つち)()るには(ちから)なく、(もの)()ふは(はづ)かし。 4(われ)なすべき(こと)こそ()りたれ、()(ため)(つとめ)()めらるるとき、人々(ひとびと)その(いへ)(われ)(むか)ふるならん」とて、 5主人(しゅじん)負債者(ふさいしゃ)一人(ひとり)一人(ひとり)()びよせて、(はじめ)(もの)()ふ「なんぢ()主人(しゅじん)より()ふところ(なに)(ほど)あるか」 6(こた)へて()ふ「(あぶら)(ひゃく)(たる)支配人(しはいにん)いふ「なんぢの證書(しょうしょ)をとり、(はや)()して()(じふ)()け」 7(また)ほかの(もの)()ふ「()ふところ(なに)(ほど)あるか」(こた)へて()ふ「(むぎ)(ひゃく)(こく)支配人(しはいにん)いふ「なんぢの證書(しょうしょ)をとりて(はち)(じふ)()け」 8ここに主人(しゅじん)不義(ふぎ)なる支配人(しはいにん)()しし(こと)(たくみ)なるによりて、(かれ)()めたり。この()()らは、(おの)時代(じだい)(こと)には(ひかり)()らよりも(たくみ)なり。 9われ(なんぢ)らに()ぐ、不義(ふぎ)(とみ)をもて、(おの)がために(とも)をつくれ。さらば(とみ)()する(とき)、その(とも)なんぢらを永遠(とこしへ)住居(すまひ)(むか)へん。 10小事(せうじ)(ちゅう)なる(もの)大事(だいじ)にも(ちゅう)なり。小事(せうじ)()(ちゅう)なる(もの)大事(だいじ)にも()(ちゅう)なり。 11さらば(なんぢ)()もし不義(ふぎ)(とみ)(ちゅう)ならずば、(たれ)(まこと)(とみ)(なんぢ)らに(まか)すべき。 12また(なんぢ)()もし(ひと)のものに(ちゅう)ならずば、(たれ)(なんぢ)()のものを(なんぢ)らに(あた)ふべき。 13(しもべ)二人(ふたり)(しゅ)()(つか)ふること(あた)はず、(あるひ)(これ)(にく)(かれ)(あい)し、(あるひ)(これ)(した)しみ(かれ)(かろ)しむべければなり。(なんぢ)(かみ)(とみ)とに()(つか)ふること(あた)はず』
14ここに(よく)(ふか)きパリサイ(びと)ら、この(すべ)ての(こと)()きてイエスを嘲笑(あざわら)ふ。 15イエス(かれ)らに()(たま)ふ『なんぢらは(ひと)のまへに(おのれ)()とする(もの)なり。されど(かみ)(なんぢ)らの(こころ)()りたまふ。(ひと)のなかに(たふと)ばるる(もの)は、(かみ)のまへに(にく)まるる(もの)なり。 16律法(おきて)預言者(よげんしゃ)とはヨハネまでなり、その(とき)より(かみ)(くに)宣傳(のべつた)へられ、(ひと)みな(はげ)しく()めて(これ)()る。 17されど律法(おきて)一畫(いっかく)()つるよりも、(てん)()()()くは(やす)し。 18(すべ)てその(つま)(いだ)して、(ほか)(めと)(もの)は、姦淫(かんいん)(おこな)ふなり。また(をっと)より(いだ)されたる(をんな)(めと)(もの)も、姦淫(かんいん)(おこな)ふなり。
19(ある)()める(ひと)あり、紫色(むらさき)(ころも)細布(ほそぬの)とを()て、日々(ひび)(おご)(たの)しめり。 20(また)ラザロといふ(まづ)しき(もの)あり、腫物(しゅもつ)にて()れただれ、()める(ひと)(もん)()かれ、 21その食卓(しょくたく)より()つる(もの)にて()かんと(おも)ふ。(しか)して(いぬ)ども(きた)りて()腫物(しゅもつ)(ねぶ)れり。 22(つひ)にこの(まづ)しきもの()に、御使(みつかひ)たちに(たづさ)へられてアブラハムの懷裏(ふところ)()れり。()める(ひと)もまた()にて(はうむ)られしが、 23黄泉(よみ)にて苦惱(くるしみ)(うち)より()()げて、(はるか)にアブラハムと()懷裏(ふところ)にをるラザロとを()る。 24(すなは)()びて()ふ「(ちち)アブラハムよ、(われ)(あはれ)みて、ラザロを(つかは)し、その(ゆび)(さき)(みづ)(ひた)して()(した)(ひや)させ(たま)へ、(われ)はこの(ほのほ)のなかに(もだ)ゆるなり」 25アブラハム()ふ「()よ、(おも)へ、なんぢは()ける(あひだ)なんぢの()(もの)()け、ラザロは()しき(もの)()けたり。(いま)ここにて(かれ)(なぐさ)められ、(なんぢ)(もだ)ゆるなり。 26(しか)のみならず、此處(ここ)より(なんぢ)らに(わた)()かんとすとも()ず、其處(そこ)より(われ)らに(きた)()ぬために、(われ)らと(なんぢ)らとの(あひだ)(おほい)なる(ふち)(さだ)めおかれたり」 27()める(ひと)また()ふ「さらば(ちち)よ、(ねが)はくは()(ちち)(いへ)にラザロを(つかは)したまへ。 28(われ)()(にん)兄弟(きゃうだい)あり、この苦痛(くるしみ)のところに(きた)らぬよう、(かれ)らに(あかし)せしめ(たま)へ」 29アブラハム()ふ「(かれ)らにはモーセと預言者(よげんしゃ)とあり、(これ)()くべし」 30()める(ひと)いふ「いな、(ちち)アブラハムよ、もし死人(しにん)(うち)より(かれ)らに()(もの)あらば、悔改(くいあらた)めん」 31アブラハム()ふ「もしモーセと預言者(よげんしゃ)とに()かずば、たとひ死人(しにん)(うち)より(よみが)へる(もの)ありとも、()(すすめ)()れざるべし」』

第十七章

1イエス弟子(でし)たちに()(たま)ふ『躓物(つまづき)(かなら)(きた)らざるを()ず、されど(これ)(きた)らす(もの)禍害(わざはひ)なるかな。 2この(ちひさ)(もの)一人(ひとり)(つまづ)かするよりは、(むし)碾臼(ひきうす)(いし)(くび)()けられて、(うみ)()()れられんかた()きなり。 3(なんぢ)()みづから(こころ)せよ。もし(なんぢ)兄弟(きゃうだい)(つみ)(をか)さば、これを(いまし)めよ。もし悔改(くいあらた)めなば(これ)をゆるせ。 4もし一日(いちにち)七度(ななたび)なんぢに(つみ)(をか)し、(しち)たび「悔改(くいあらた)む」と()ひて、(なんぢ)(かへ)らば(これ)をゆるせ』
5使徒(しと)たち(しゅ)()ふ『われらの信仰(しんかう)()したまへ』 6(しゅ)いひ(たま)ふ『もし芥種(からしだね)一粒(ひとつぶ)ほどの信仰(しんかう)あらば、()(くは)()に「()けて(うみ)(うわ)れ」と()ふとも(なんぢ)らに(したが)ふべし。 7(なんぢ)()のうち(たれ)(あるひ)(たがや)し、(あるひ)(ぼく)する(しもべ)()たんに、その(しもべ)(はた)より(かへ)りたる(とき)、これに(むか)ひて「(ただ)ちに(きた)(しょく)()け」と()(もの)あらんや。 8(かへ)つて「わが夕餐(ゆふげ)(そなへ)をなし、()飮食(のみくひ)するあひだ、(おび)して給仕(きふじ)せよ、(しか)(のち)に、なんぢ飮食(のみくひ)すべし」と()ふにあらずや。 9(しもべ)(めい)ぜられし(こと)()したればとて、主人(しゅじん)これに(しゃ)すべきか。 10かくのごとく(なんぢ)らも(めい)ぜられし(こと)をことごとく()したる(とき)「われらは()(えき)なる(しもべ)なり、()すべき(こと)()したるのみ」と()へ』
11イエス、エルサレムに()かんとて、サマリヤとガリラヤとの(あひだ)をとほり、 12(ある)(むら)()(たま)ふとき、(じふ)(にん)癩病人(らいびゃうにん)これに()ひて、(はるか)()(とどま)り、 13(こゑ)()げて()ふ『(きみ)イエスよ、(われ)らを(あはれ)みたまへ』 14イエス(これ)()()ひたまふ『なんぢら()きて()祭司(さいし)らに()せよ』(かれ)()(あひだ)(きよ)められたり。 15その(うち)一人(ひとり)、おのが(いや)されたるを()て、大聲(おほごゑ)(かみ)(あが)めつつ(かへ)りきたり、 16イエスの足下(あしもと)平伏(ひれふ)して(しゃ)す。これはサマリヤ(ひと)なり。 17イエス(こた)へて()ひたまふ『(じふ)(にん)みな(きよ)められしならずや、()(にん)何處(いづこ)()るか。 18この他國人(たこくじん)のほかは、(かみ)榮光(えいくわう)()せんとて(かへ)りきたる(もの)なきか』 19かくて(これ)()ひたまふ『()ちて()け、なんぢの信仰(しんかう)なんぢを(すく)へり』
20(かみ)(くに)何時(いつ)きたるべきかをパリサイ(びと)()はれし(とき)、イエス(こた)へて()ひたまふ『(かみ)(くに)()ゆべき(さま)にて(きた)らず。 21また「()よ、此處(ここ)()り」「彼處(かしこ)()り」と人々(ひとびと)()はざるべし。()よ、(かみ)(くに)(なんぢ)らの(うち)()るなり』
22かくて弟子(でし)たちに()(たま)ふ『なんぢら(ひと)()()一日(ひとひ)()んと(おも)()きたらん、されど()ることを()じ。 23そのとき人々(ひとびと)なんぢらに「()彼處(かしこ)に、()此處(ここ)に」と()はん、されど()くな、(したが)ふな。 24それ電光(いなづま)(てん)彼方(かなた)より(ひらめ)きて、(てん)此方(こなた)(かがや)くごとく、(ひと)()もその()には(しか)あるべし。 25されど(ひと)()()(おほ)くの苦難(くるしみ)()け、かつ(いま)()()てらるべきなり。 26ノアの()にありし(ごと)く、(ひと)()()にも(しか)あるべし。 27ノア方舟(はこぶね)()()までは、人々(ひとびと)()(くら)(めと)(とつ)ぎなど()たりしが、洪水(こうずゐ)きたりて(かれ)()をことごとく(ほろび)せり。 28ロトの()にも()くのごとく、人々(ひとびと)()(くら)ひ、()()ひ、()ゑつけ、(いへ)(つく)りなど()たりしが、 29ロトのソドムを()でし()に、(てん)より()硫黄(いわう)()りて、(かれ)()をことごとく(ほろび)せり。 30(ひと)()(あらは)るる()にも、その(ごと)くなるべし。 31その()には、(ひと)もし()(うへ)にをりて、(うつは)(もの)(いへ)(うち)にあらば、(これ)()らんとて(くだ)るな。(はた)にをる(もの)(おな)じく(かへ)るな。 32ロトの(つま)(おも)へ。 33おほよそ(おの)生命(いのち)(まった)うせんとする(もの)はこれを(うしな)ひ、(うしな)(もの)はこれを(たも)つべし。 34われ(なんぢ)らに()ぐ、その()ふたりの(をとこ)(ひと)寢臺(ねだい)()らんに、一人(ひとり)()られ一人(ひとり)(つかは)されん。 35二人(ふたり)(をんな)ともに(うす)ひき()らんに、一人(ひとり)()られ一人(ひとり)(つかは)されん』 36[なし] 37弟子(でし)たち(こた)へて()ふ『(しゅ)よ、それは何處(いづこ)ぞ』イエス()ひたまふ『屍體(しかばね)のある(ところ)には(わし)(また)あつまらん』

第十八章

1また(かれ)らに、落膽(きおち)せずして(つね)(いの)るべきことを、(たとへ)にて(かた)()(たま)2(ある)(まち)に、(かみ)(おそ)れず(ひと)(かへり)みぬ裁判人(さいばんにん)あり。 3その(まち)寡婦(やもめ)ありて、屡次(しばしば)その(もと)にゆき「()がために(あた)(さば)きたまへ」と()ふ。 4かれ(ひさ)しく()()れざりしが、()ののち(こころ)(うち)()ふ「われ(かみ)(おそ)れず、(ひと)(かへり)みねど、 5()寡婦(やもめ)われを(わづら)はせば、(われ)かれが(ため)(さば)かん、(しか)らずば()えず(きた)りて(われ)(なやま)さん」と』 6(しゅ)いひ(たま)ふ『不義(ふぎ)なる裁判人(さいばんにん)()ふことを()け、 7まして(かみ)夜晝(よるひる)よばはる選民(せんみん)のために、たとひ(おそ)くとも(つひ)(さば)(たま)はざらんや。 8(われ)なんぢらに()ぐ、(すみや)かに(さば)(たま)はん。されど(ひと)()(きた)るとき地上(ちじゃう)信仰(しんかう)()んや』
9また(おのれ)()(しん)じ、他人(たにん)(かろ)しむる(もの)どもに、()(たとへ)()ひたまふ、 10二人(ふたり)のもの(いの)らんとて(みや)にのぼる、一人(ひとり)はパリサイ(びと)一人(ひとり)取税人(しゅぜいにん)なり。 11パリサイ(びと)たちて(こころ)(うち)()(いの)る「(かみ)よ、(われ)はほかの(ひと)の、強奪(うばひ)不義(ふぎ)姦淫(かんいん)するが(ごと)(もの)ならず、(また)この取税人(しゅぜいにん)(ごと)くならぬを感謝(かんしゃ)す。 12(われ)一週(ひとまはり)のうちに二度(ふたたび)斷食(だんじき)し、(すべ)()るものの十分(じふぶん)(いち)(ささ)ぐ」 13(しか)るに取税人(しゅぜいにん)(はるか)()ちて、()(てん)()くる(こと)だにせず、(むね)()ちて()ふ「(かみ)よ、罪人(つみびと)なる(われ)(あはれ)みたまへ」 14われ(なんぢ)らに()ぐ、この(ひと)は、かの(ひと)よりも()とせられて、(おの)(いへ)(くだ)()けり。おほよそ(おのれ)(たか)うする(もの)(ひく)うせられ、(おのれ)(ひく)うする(もの)(たか)うせらるるなり』
15イエスの(さは)(たま)はんことを(のぞ)みて、人々(ひとびと)嬰兒(みどりご)らを()(きた)りしに、弟子(でし)たち(これ)()(いまし)めたれば、 16イエス幼兒(をさなご)らを()びよせて()ひたまふ『幼兒(をさなご)らの(われ)(きた)るを(ゆる)して(とど)むな、(かみ)(くに)はかくのごとき(もの)(くに)なり。 17われ(まこと)(なんぢ)らに()ぐ、おほよそ幼兒(をさなご)のごとくに(かみ)(くに)をうくる(もの)ならずば、(これ)()ることは(あた)はず』
18(ある)(つかさ)()ひて()ふ『()()よ、われ(なに)をなして永遠(とこしへ)生命(いのち)()ぐべきか』 19イエス()(たま)ふ『なにゆゑ(われ)()しと()ふか、(かみ)ひとりの(ほか)()(もの)なし。 20誡命(いましめ)はなんぢが()(ところ)なり「姦淫(かんいん)するなかれ」「(ころ)すなかれ」「(ぬす)むなかれ」「僞證(ぎしょう)()つる(なか)れ」「なんぢの(ちち)(はは)とを(うやま)へ」』 21(かれ)いふ『われ(おさな)(とき)より(みな)これを(まも)れり』 22イエス(これ)をききて()ひたまふ『なんぢなほ()らぬこと(ひと)つあり、(なんぢ)()てる(もの)をことごとく()りて、(まづ)しき(もの)(わか)(あた)へよ、()らば財寶(たから)(てん)()ん。かつ(きた)りて(われ)(したが)へ』 23(かれ)(これ)をききて(いた)(かな)しめり、(おほい)()める(もの)なればなり。 24イエス(これ)()()ひたまふ『()める(もの)(かみ)(くに)()るは如何(いか)(かた)いかな。 25()める(もの)(かみ)(くに)()るよりは、駱駝(らくだ)(はり)(あな)をとほるは(かへ)つて(やす)し』 26(これ)をきく人々(ひとびと)いふ『さらば(たれ)(すく)はるる(こと)()ん』 27イエス()ひたまふ『(ひと)のなし()ぬところは、(かみ)のなし()(ところ)なり』 28ペテロ()ふ『()よ、我等(われら)わが(もの)をすてて(なんぢ)(したが)へり』 29イエス()(たま)ふ『われ(まこと)(なんぢ)らに()ぐ、(かみ)(くに)のために、(あるひ)(いへ)(あるひ)(つま)(あるひ)兄弟(きゃうだい)、あるひは兩親(ふたおや)、あるひは()()つる(もの)は、(たれ)にても、 30(いま)(とき)數倍(すうばい)()け、また(のち)()にて永遠(とこしへ)生命(いのち)()けぬはなし』
31イエス十二(じふに)弟子(でし)(ちか)づけて()ひたまふ『()よ、(われ)らエルサレムに(のぼ)る。(ひと)()につき預言者(よげんしゃ)たちによりて(しる)されたる(すべ)ての(こと)は、()()げらるべし。 32(ひと)()異邦人(いはうじん)(わた)され、嘲弄(てうろう)せられ、(はづか)しめられ、(つばき)せられん。 33(かれ)()これを(むち)うち、かつ(ころ)さん。かくて(かれ)三日(みっか)めに(よみが)へるべし』 34弟子(でし)たち(これ)()のことを(ひと)つだに(さと)らず、()(ことば)かれらに(かく)れたれば、その()(たま)ひしことを()らざりき。
35イエス、エリコに(ちか)づき(たま)ふとき、一人(ひとり)盲人(めしひ)(みち)(かたは)らに()して、(もの)()()たりしが、 36群衆(ぐんじゅう)()ぐるを()きて、その何事(なにごと)なるかを()ふ。 37人々(ひとびと)ナザレのイエスの()ぎたまふ(よし)()げたれば、 38盲人(めしひ)よばはりて()ふ『ダビデの()イエスよ、(われ)(あはれ)みたまへ』 39(さき)だち()(もの)ども、(かれ)(いまし)めて(もだ)さしめんと()たれど、増々(ますます)さけびて()ふ『ダビデの()よ、(われ)(あはれ)みたまへ』 40イエス()(とどま)り、盲人(めしひ)()(きた)るべきことを(めい)(たま)ふ。かれ(ちか)づきたれば、 41イエス()(たま)ふ『わが(なんぢ)(なに)()さんことを(のぞ)むか』(かれ)いふ『(しゅ)よ、()えんことなり』 42イエス(かれ)に『()ることを()よ、なんぢの信仰(しんかう)なんぢを(すく)へり』と()(たま)へば、 43立刻(たちどころ)()ることを()(かみ)(あが)めてイエスに(したが)ふ。(たみ)みな(これ)()(かみ)讃美(さんび)せり。

第十九章

1エリコに()りて()ぎゆき(たま)ふとき、 2()よ、()をザアカイといふ(ひと)あり、取税人(しゅぜいにん)(かしら)にて()める(もの)なり。 3イエスの如何(いか)なる(ひと)なるかを()んと(おも)へど、(たけ)(ひく)うして群衆(ぐんじゅう)のために()ること(あた)はず、 4(まへ)(はし)りゆき、(くは)()にのぼる。イエスその(みち)()ぎんとし(たま)(ゆゑ)なり。 5イエス此處(ここ)(いた)りしとき、(あふ)()()ひたまふ『ザアカイ、(いそ)ぎおりよ、今日(けふ)われ(なんぢ)(いへ)宿(やど)るべし』 6ザアカイ(いそ)ぎおり、(よろこ)びてイエスを(むか)ふ。 7人々(ひとびと)みな(これ)()(つぶや)きて()ふ『かれは罪人(つみびと)(いへ)()りて(きゃく)となれり』 8ザアカイ()ちて(しゅ)()ふ『(しゅ)()よ、わが所有(もちもの)(なかば)(まづ)しき(もの)(ほどこ)さん、()しわれ()(うった)へて(ひと)より()りたる(ところ)あらば、()(ばい)にして(つくの)はん』 9イエス()(たま)ふ『けふ(すく)はこの(いへ)(きた)れり、()(ひと)もアブラハムの()なればなり。 10それ(ひと)()(きた)れるは、()せたる(もの)(たづ)ねて(すく)はん(ため)なり』
11人々(ひとびと)これらの(こと)()きゐたるとき、(たとへ)(くは)へて()(たま)ふ。これはイエス、エルサレムに(ちか)づき(たま)ひ、(かみ)(くに)たちどころに(あらは)るべしと(かれ)らが(おも)(ゆゑ)なり。 12(すなは)()ひたまふ『(ある)貴人(きにん)(わう)(けん)()けて(かへ)らんとて(とほ)(くに)()くとき、 13(じふ)(にん)(しもべ)をよび、(これ)(きん)(じふ)ミナを(わた)して()ふ「わが(かへ)るまで商賣(しゃうばい)せよ」 14(しか)るに()()(たみ)かれを(にく)み、(あと)より使(つかひ)(つかは)して「(われ)らは()(ひと)(われ)らの(わう)となることを(ほっ)せず」と()はしむ。 15貴人(きにん)(わう)(けん)をうけて(かへ)(きた)りしとき、(ぎん)(わた)()きたる(しもべ)どもの、如何(いか)商賣(しゃうばい)せしかを()らんとて(かれ)らを()ばしむ。 16(はじめ)のもの(すす)()でて()ふ「(しゅ)よ、なんぢの(いち)ミナは(じふ)ミナを(まう)けたり」 17(わう)いふ「()いかな、()(しもべ)、なんぢは小事(せうじ)(ちゅう)なりしゆゑ、(とを)(まち)(つかさ)どるべし」 18(つぎ)(もの)きたりて()ふ「(しゅ)よ、なんぢの(いち)ミナは()ミナを(まう)けたり」 19(わう)また()ふ「なんぢも(いつ)つの(まち)(つかさ)どるべし」 20また一人(ひとり)きたりて()ふ「(しゅ)()よ、なんぢの(いち)ミナは此處(ここ)()り。(われ)これを袱紗(ふくさ)(つつ)みて(をさ)()きたり。 21これ(なんぢ)(きび)しき(ひと)なるを(おそ)れたるに()る。なんぢは()かぬものを()り、()かぬものを()るなり」 22(わう)いふ「()しき(しもべ)、われ(なんぢ)(くち)によりて(なんぢ)(さば)かん。(われ)(きび)しき(ひと)にて、()かぬものを()り、()かぬものを()るを()るか。 23(なに)ぞわが(かね)銀行(ぎんかう)(あづ)けざりし、さらば(われ)きたりて元金(もときん)利子(りし)とを請求(せいきう)せしものを」 24かくて(かたは)らに()(もの)どもに()ふ「かれの(いち)ミナを()りて(じふ)ミナを()てる(ひと)(わた)せ」 25(かれ)()いふ「(しゅ)よ、かれは(すで)(じふ)ミナを()てり」 26「われ(なんぢ)らに()ぐ、(すべ)()てる(ひと)はなほ(あた)へられ、()たぬ(ひと)()てるものをも()らるべし。 27(しか)して()(わう)たる(こと)(ほっ)せぬ、かの(あた)どもを此處(ここ)()れきたり、()(まへ)にて(ころ)せ」』
28イエス(これ)()のことを()ひてのち、(さき)だち(すす)みてエルサレムに(のぼ)(たま)ふ。
29オリブといふ(やま)(ふもと)なるベテパゲ(およ)びベタニヤに(ちか)づきし(とき)、イエス二人(ふたり)弟子(でし)(つかは)さんとして()(たま)ふ、 30(むかひ)(やま)にゆけ、其處(そこ)()らば、一度(ひとたび)(ひと)()りたる(こと)なき驢馬(ろば)()(つな)ぎあるを()ん、それを()きて()ききたれ。 31(たれ)かもし(なんぢ)らに「なにゆゑ()くか」と()はば、()()ふべし「(しゅ)(よう)なり」と』 32(つかは)されたる(もの)ゆきたれば、(はた)して()(たま)ひし(ごと)くなるを()る。 33かれら驢馬(ろば)()をとく(とき)、その持主(もちぬし)ども()ふ『なにゆゑ驢馬(ろば)()()くか』 34(こた)へて()ふ『(しゅ)(よう)なり』 35かくて驢馬(ろば)()をイエスの(もと)()ききたり、(おの)(ころも)をその(うへ)にかけて、イエスを()せたり。 36その()(たま)ふとき、人々(ひとびと)おのが(ころも)(みち)()く。 37オリブ(やま)(くだ)りあたりまで(ちか)づき(きた)(たま)へば、()れゐる弟子(でし)たち(みな)(よろこ)びて、その()しところの能力(ちから)ある御業(みわざ)につき、(こゑ)(たか)らかに(かみ)讃美(さんび)して()(はじ)む、 38()むべきかな、(しゅ)()によりて(きた)(わう)(てん)には平和(へいわ)至高(いとたか)(ところ)には榮光(えいくわう)あれ』 39群衆(ぐんじゅう)のうちの(ある)パリサイ(びと)ら、イエスに()ふ『()よ、なんぢの弟子(でし)たちを(いまし)めよ』 40(こた)へて()(たま)ふ『われ(なんぢ)らに()ぐ、()のともがら(もだ)さば、(いし)(さけ)ぶべし』
41(すで)(ちか)づきたるとき、(みやこ)()やり、(これ)がために()きて()(たま)ふ、 42『ああ(なんぢ)、なんぢも()しこの()(うち)に、平和(へいわ)にかかはる(こと)()りたらんには――されど(いま)なんぢの()(かく)れたり。 43()きたりて(てき)なんぢの周圍(まはり)(るゐ)をきづき、(なんぢ)取圍(とりかこ)みて四方(しはう)より()め、 44(なんぢ)とその(うち)にある()らとを()打倒(うちたふ)し、(ひと)つの(いし)をも(いし)(うへ)(のこ)さざるべし。なんぢ眷顧(かへりみ)(とき)()らざりしに()る』 45かくて(みや)()り、(あきな)ひする(もの)どもを()(いだ)しはじめ、 46(これ)()ひたまふ『「わが(いへ)(いのり)(いへ)たるべし」と(しる)されたるに、(なんぢ)らは(これ)強盜(がうたう)()となせり』
47イエス日々(ひび)(みや)にて(をし)へたまふ。祭司長(さいしちゃう)學者(がくしゃ)(およ)(たみ)重立(おもだ)ちたる(もの)ども、(これ)(ころ)さんと(おも)ひたれど、 48(たみ)みな(みみ)(かたむ)けてイエスに()きたれば、()すべき(かた)()らざりき。

第二十章

1(ある)()イエス(みや)にて(たみ)(をし)へ、福音(ふくいん)()べゐ(たま)ふとき、祭司長(さいしちゃう)學者(がくしゃ)らは、長老(ちゃうらう)どもと(とも)(ちか)づき(きた)り、 2イエスに(かた)りて()ふ『なにの權威(けんゐ)をもて(これ)()(こと)をなすか、()權威(けんゐ)(さづ)けし(もの)(たれ)か、(われ)らに()げよ』 3(こた)へて()(たま)ふ『われも一言(ひとこと)なんぢらに()はん、(こた)へよ。 4ヨハネのバプテスマは(てん)よりか、(ひと)よりか』 5(かれ)(たがひ)(ろん)じて()ふ『もし「(てん)より」と()はば「なに(ゆゑ)かれを(しん)ぜざりし」と()はん。 6もし「(ひと)より」と()はんか、(たみ)みなヨハネを預言者(よげんしゃ)(しん)ずるによりて、(われ)らを(いし)にて()たん』 7(つひ)何處(いづこ)よりか()らぬ(よし)(こた)ふ。 8イエス()ひたまふ『われも(なに)權威(けんゐ)をもて(これ)()(こと)をなすか、(なんぢ)らに()げじ』
9かくて(つぎ)(たとへ)(たみ)(かた)りいで(たま)ふ『ある(ひと)葡萄園(ぶだうぞの)(つく)りて農夫(のうふ)どもに()し、(とほ)旅立(たびだち)して(ひさ)しくなりぬ。 10(とき)(いた)りて、葡萄園(ぶだうぞの)所得(しょとく)(をさ)めしめんとて、一人(ひとり)(しもべ)農夫(のうふ)(もと)(つかは)ししに、農夫(のうふ)ども(これ)()ちたたき、空手(むなで)にて(かへ)らしめたり。 11(また)ほかの(しもべ)(つかは)ししに、(これ)をも()ちたたき、(はづか)しめ、空手(むなで)にて(かへ)らしめたり。 12なほ三度(みたび)めの(もの)(つかは)ししに、(これ)をも(きず)つけて()(いだ)したり。 13葡萄園(ぶだうぞの)(ぬし)いふ「われ(なに)()さんか。()(いつく)しむ()(つかは)さん、(あるひ)(これ)(うやま)ふなるべし」 14農夫(のうふ)ども(これ)()(たがひ)(ろん)じて()ふ「これは世嗣(よつぎ)なり。いざ(ころ)して()嗣業(しげふ)(われ)らの(もの)とせん」 15かくてこれを葡萄園(ぶだうぞの)(そと)()(いだ)して(ころ)せり。さらば葡萄園(ぶだうぞの)(ぬし)かれらに(なに)()さんか、 16(きた)りてかの農夫(のうふ)どもを(ほろぼ)し、葡萄園(ぶだうぞの)(ほか)(もの)どもに(あた)ふべし』人々(ひとびと)これを()きて()ふ『(しか)はあらざれ』 17イエス(かれ)らに()()めて()(たま)ふ『されば
造家者(いへつくり)らの()てる(いし)は、
これぞ(すみ)首石(おやいし)となれる」
(しる)されたるは(なに)ぞや。 18(おほよ)そその(いし)(うへ)(たふ)るる(もの)(くだ)け、(また)その(いし)(ひと)(うへ)(たふ)るれば、その(ひと)微塵(みじん)にせん』
19()のとき學者(がくしゃ)祭司長(さいしちゃう)ら、イエスに()をかけんと(おも)ひたれど、(たみ)(おそ)れたり。この(たとへ)(おのれ)どもを()して()(たま)へるを(さと)りしに()る。 20かくて(かれ)(をり)(うかが)ひ、イエスを(つかさ)支配(しはい)權威(けんゐ)との(した)(わた)さんとて、その(ことば)(とら)ふるために、義人(ぎじん)(さま)したる間諜(まはしもの)どもを(つかは)したれば、 21()(もの)どもイエスに()ひて()ふ『()よ、(われ)らは(なんぢ)(ただ)しく(かた)り、かつ(をし)へ、外貌(うはべ)()らず、(まこと)をもて(かみ)(みち)(をし)(たま)ふを()る。 22われら(みつぎ)をカイザルに(をさ)むるは、()きか、()しきか』 23イエスその惡巧(わるだくみ)()りて()(たま)ふ、 24『デナリを(われ)()せよ。これは(たれ)(かたち)、たれの(しるし)なるか』『カイザルのなり』と(こた)ふ。 25イエス()(たま)ふ『さらばカイザルの(もの)はカイザルに、(かみ)(もの)(かみ)(をさ)めよ』 26かれら(たみ)(まへ)にて()(ことば)をとらへ()ず、(かつ)その(こたへ)(あや)しみて(もだ)したり。
27また復活(よみがへり)なしと言張(いいは)るサドカイ(びと)(ある)(もの)ども、イエスに(きた)()ひて()ふ、 28()よ、モーセは、(ひと)兄弟(きゃうだい)もし(つま)あり()なくして()なば、()兄弟(きゃうだい)かれの(つま)(めと)りて、兄弟(きゃうだい)のために嗣子(よつぎ)()ぐべしと、(われ)らに()(つかは)したり。 29さて(ここ)七人(しちにん)兄弟(きゃうだい)ありて、(あに)(つま)(めと)り、()なくして()に、 30第二(だいに)第三(だいさん)(もの)(これ)(めと)り、 31七人(しちにん)みな(おな)じく()(のこ)さずして()に、 32(のち)には()(をんな)()にたり。 33されば復活(よみがへり)(とき)、この(をんな)(たれ)(つま)たるべきか、七人(しちにん)これを(つま)としたればなり』 34イエス()(たま)ふ『この()()らは(めと)(とつ)ぎすれど、 35かの()()るに、死人(しにん)(うち)より(よみが)へるに相應(ふさは)しとせらるる(もの)は、(めと)(とつ)ぎすることなし。 36(かれ)()ははや()ぬること(あた)はざればなり。御使(みつかひ)たちに(ひと)しく、また復活(よみがへり)()どもにして、(かみ)子供(こども)たるなり。 37()にたる(もの)(よみが)へる(こと)は、モーセも(しば)(くだり)に、(しゅ)を「アブラハムの(かみ)、イサクの(かみ)、ヤコブの(かみ)」と()びて(これ)(しめ)せり。 38(かみ)()にたる(もの)(かみ)にあらず、()ける(もの)(かみ)なり。それ(かみ)(まへ)には(みな)()けるなり』 39學者(がくしゃ)のうちの(ある)(もの)ども(こた)へて『()よ、()()(たま)へり』と()ふ。 40(かれ)()ははや何事(なにごと)をも()()ざりし(ゆゑ)なり。
41イエス(かれ)らに()ひたまふ『如何(いか)なれば人々(ひとびと)、キリストをダビデの()()ふか。 42ダビデ(みづか)()(へん)()
(しゅ)わが(しゅ)()ひたまふ、
43われ(なんぢ)(てき)(なんぢ)足臺(あしだい)となすまでは、
わが(みぎ)()せよ」
44ダビデ()(かれ)(しゅ)(とな)ふれば、(いか)でその()ならんや』
45(たみ)(みな)ききをる(うち)にて、イエス弟子(でし)たちに()(たま)ふ、 46學者(がくしゃ)らに(こころ)せよ。(かれ)らは(なが)(ころも)()(あゆ)むことを(この)み、市場(いちば)にての敬禮(けいれい)會堂(くわいだう)上座(じゃうざ)饗宴(ふるまひ)上席(じゃうせき)(よろこ)び、 47また寡婦(やもめ)らの(いへ)()み、外見(みえ)をつくりて(なが)(いのり)をなす。()()くる審判(さばき)(さら)(きび)しからん』

第二十一章

1イエス()()げて、()める人々(ひとびと)納物(をさめもの)賽錢函(さいせんばこ)()()るるを()2また(ある)(まづ)しき寡婦(やもめ)のレプタ(ふた)つを()()るるを()()(たま)ふ、 3『われ(まこと)をもて(なんぢ)らに()ぐ、この(まづ)しき寡婦(やもめ)は、(すべ)ての(ひと)よりも(おほ)()()れたり。 4(かれ)らは(みな)その(ゆたか)なる(うち)より納物(をさめもの)(なか)()()れ、この寡婦(やもめ)はその(とぼ)しき(なか)より、(おの)()てる生命(いのち)(しろ)をことごとく()()れたればなり』
5(ある)人々(ひとびと)美麗(みごと)なる(いし)献物(ささげもの)とにて(みや)(かざ)られたる(こと)(かた)りしに、イエス()(たま)ふ、 6『なんぢらが()(これ)()(もの)は、(ひと)つの(いし)(くづ)されずして(いし)(うへ)(のこ)らぬ()きたらん』 7(かれ)()ひて()ふ『()よ、さらば(これ)()のことは何時(いつ)あるか、(また)これらの(こと)()らんとする(とき)如何(いか)なる(しるし)あるか』 8イエス()(たま)ふ『なんぢら(まどは)されぬように(こころ)せよ、(おほ)くの(もの)わが()(をか)(きた)り「われは(それ)なり」と()ひ「(とき)(ちか)づけり」と()はん、(かれ)らに(したが)ふな。 9戰爭(いくさ)騷亂(さわぎ)との(こと)()くとき、()づな。()かることは()づあるべきなり。()れど(をはり)(ただ)ちに(きた)らず』
10また()ひたまふ『「(たみ)(たみ)に、(くに)(くに)(さから)ひて()たん」 11かつ(おほい)なる地震(ぢしん)あり、處々(ところどころ)疫病(えきびゃう)饑饉(ききん)あらん。(おそ)るべき(こと)(てん)よりの(おほい)なる(しるし)とあらん。 12すべて(これ)()のことに(さき)だちて、人々(ひとびと)なんぢらに()をくだし、(なんぢ)らを()めん、(すなは)(なんぢ)らを會堂(くわいだう)および(ひとや)(わた)し、わが()のために(わう)たち(つかさ)たちの(まへ)()きゆかん。 13これは(なんぢ)らに(あかし)(をり)とならん。 14されば(なんぢ)如何(いか)(こた)へんと(あらか)じめ思慮(おもんぱか)るまじき(こと)(こころ)(さだ)めよ。 15われ(なんぢ)らに、(すべ)(さから)(もの)()(さから)()()すことをなし()ざる、(くち)智慧(ちゑ)とを(あた)ふべければなり。 16(なんぢ)らは兩親(ふたおや)兄弟(きゃうだい)親族(しんぞく)朋友(ほういう)にさへ(わた)されん。(また)かれらは(なんぢ)らの(うち)(ある)(もの)(ころ)さん。 17(なんぢ)()わが()(ゆゑ)(すべ)ての(ひと)(にく)まるべし。 18()れど(なんぢ)らの(かしら)()(ひと)すぢだに()せじ。 19(なんぢ)らは忍耐(にんたい)によりて()靈魂(たましひ)()べし。
20(なんぢ)らエルサレムが軍勢(ぐんぜい)(かこ)まるるを()ば、()(ほろび)(ちか)づけりと()れ。 21その(とき)ユダヤに()(もの)どもは(やま)(のが)れよ、(みやこ)(うち)にをる(もの)どもは()でよ、田舍(ゐなか)にをる(もの)どもは(みやこ)()るな、 22これ(しる)されたる(すべ)ての(こと)()げらるべき刑罰(けいばつ)()なり。 23その()には(みごも)りたる(もの)と、(ちち)()まする(もの)とは禍害(わざはひ)なるかな。()(おほい)なる艱難(なやみ)ありて、御怒(みいかり)この(たみ)(のぞ)み、 24(かれ)らは(つるぎ)()(たふ)れ、(また)(とら)はれて諸國(しょこく)()かれん。(しか)してエルサレムは異邦人(いはうじん)(とき)滿()つるまで、異邦人(いはうじん)蹂躙(ふみにじ)らるべし。 25また()(つき)(ほし)(しるし)あらん。()にては國々(くにぐに)(たみ)なやみ、(うみ)(なみ)との()(とどろ)くによりて狼狽(うろた)へ、 26人々(ひとびと)おそれ、かつ世界(せかい)(きた)らんとする(こと)(おも)ひて(きも)(うしな)はん。これ(てん)萬象(ばんしゃう)ふるひ(うご)けばなり。 27()のとき人々(ひとびと)(ひと)()能力(ちから)(おほい)なる榮光(えいくわう)とをもて、(くも)()りきたるを()ん。 28これらの(こと)(おこ)(はじ)めなば、(あふ)ぎて(かうべ)()げよ。(なんぢ)らの贖罪(あがなひ)(ちか)づけるなり』
29また(たとへ)()ひたまふ『無花果(いちぢく)()また(すべ)ての()()よ、 30(すで)()ざせば、(なんぢ)()これを()てみづから(なつ)(ちか)きを()る。 31()くのごとく(これ)()のことの(おこ)るを()ば、(かみ)(くに)(ちか)きを()れ。 32われ(まこと)(なんぢ)らに()ぐ、これらの(こと)ことごとく()るまで、(いま)()()ぎゆくことなし。 33(てん)()()ぎゆかん、されど()(ことば)()ぎゆくことなし。
34(なんぢ)()みづから(こころ)せよ、(おそ)らくは飮食(いんしょく)にふけり、()煩勞(わずらひ)にまとはれて(こころ)(にぶ)り、(おも)ひがけぬ(とき)、かの()(わな)のごとく(きた)らん。 35これは(あまね)()(おもて)()める(すべ)ての(ひと)(のぞ)むべきなり。 36この(おこ)るべき(すべ)ての(こと)をのがれ、(ひと)()のまへに()()るやう、(つね)(いの)りつつ()(さま)しをれ』
37イエス(ひる)(みや)にて(をし)へ、(よる)()でてオリブといふ(やま)宿(やど)りたまふ。 38(たみ)はみな御教(みをしへ)()かんとて、(あさ)とく(みや)にゆき、御許(みもと)(あつま)れり。

第二十二章

1さて過越(すぎこし)といふ除酵祭(じょかうさい)(ちか)づけり。 2祭司長(さいしちゃう)學者(がくしゃ)らイエスを(ころ)さんとし、その手段(てだて)いかにと(もと)む、(たみ)(おそ)れたればなり。
3(とき)にサタン、十二(じふに)一人(ひとり)なるイスカリオテと(とな)ふるユダに()る。 4ユダ(すなは)祭司長(さいしちゃう)宮守頭(みやもりがしら)どもに()きて、イエスを如何(いか)にして(わた)さんと(はか)りたれば、 5(かれ)(よろこ)びて(かね)(あた)へんと(やく)す。 6ユダ(うべな)ひて、群衆(ぐんじゅう)()らぬ(とき)にイエスを(わた)さんと()(をり)をうかがふ。
7過越(すぎこし)羔羊(こひつじ)(ほふ)るべき除酵祭(じょかうさい)()(きた)りたれば、 8イエス、ペテロとヨハネとを(つかは)さんとして()ひたまふ『()きて(われ)らの(しょく)せん(ため)過越(すぎこし)(そなへ)をなせ』 9(かれ)()ふ『何處(いづこ)(そな)ふることを(のぞ)(たま)ふか』 10イエス()ひたまふ『()よ、(みやこ)()らば、(みづ)をいれたる(かめ)()(ひと)なんぢらに()ふべし、(これ)(したが)ひゆき、その()(ところ)(いへ)にいりて、 11(いへ)主人(あるじ)に「()なんぢに()ふ、われ弟子(でし)らと(とも)過越(すぎこし)(しょく)をなすべき座敷(ざしき)何處(いづこ)なるか」と()へ。 12さらば調(ととの)へたる(おほい)なる二階(にかい)座敷(ざしき)()すべし。其處(そこ)(そな)へよ』 13かれら()()きて、イエスの()(たま)ひし(ごと)くなるを()て、過越(すぎこし)設備(そなへ)をなせり。 14(とき)いたりてイエス(せき)()きたまひ、使徒(しと)たちも(とも)()く。 15かくて(かれ)らに()(たま)ふ『われ苦難(くるしみ)(まへ)に、なんぢらと(とも)にこの過越(すぎこし)(しょく)をなすことを(のぞ)みに(のぞ)みたり。 16われ(なんぢ)らに()ぐ、(かみ)(くに)にて過越(すぎこし)成就(じゃうじゅ)するまでは、(われ)(また)これを(しょく)せざるべし』 17かくて酒杯(さかづき)()け、かつ(しゃ)して()(たま)ふ『これを()りて(たがひ)(わか)()め。 18われ(なんぢ)らに()ぐ、(かみ)(くに)(きた)るまでは、われ(いま)よりのち葡萄(ぶだう)()より()るものを()まじ』 19またパンを()(しゃ)してさき、弟子(でし)たちに(あた)へて()(たま)ふ『これは(なんぢ)らの(ため)(あた)ふる()(からだ)なり。()記念(きねん)として(これ)(おこな)へ』 20夕餐(ゆふげ)ののち酒杯(さかづき)をも(しか)して()(たま)ふ『この酒杯(さかづき)は、(なんぢ)らの(ため)(なが)()()によりて()つる(あたら)しき契約(けいやく)なり。 21されど()よ、(われ)()(もの)()、われと(とも)食卓(しょくたく)(うへ)にあり、 22()(ひと)()(さだ)められたる(ごと)()くなり。されど(これ)()(もの)禍害(わざはひ)なるかな』 23弟子(でし)たち(おのれ)らの(うち)にて()(こと)をなす(もの)は、(たれ)ならんと(たがひ)()(はじ)む。
24また(かれ)らの(あひだ)に、(おのれ)らの(うち)たれか(おほい)ならんとの爭論(あらそひ)おこりたれば、 25イエス()ひたまふ『異邦人(いはうじん)(わう)はその(たみ)(つかさ)どり、また(たみ)支配(しはい)する(もの)恩人(おんじん)(とな)へらる。 26されど(なんぢ)らは(しか)あらざれ、(なんぢ)()のうち(おほい)なる(もの)(わか)(もの)のごとく、(かしら)たる(もの)(つか)ふる(もの)(ごと)くなれ。 27食事(しょくじ)(せき)()(もの)(つか)ふる(もの)とは、(いづ)れか(おほい)なる。食事(しょくじ)(せき)()(もの)ならずや、されど(われ)(なんぢ)らの(うち)にて(つか)ふる(もの)のごとし。 28(なんぢ)らは()嘗試(こころみ)のうちに()えず(われ)とともに()りし(もの)なれば、 29わが(ちち)(われ)(にん)(たま)へるごとく、(われ)(また)なんぢらに(くに)(にん)ず。 30これ(なんぢ)らの()(くに)にて()食卓(しょくたく)飮食(のみくひ)し、かつ座位(くらゐ)()してイスラエルの十二(じふに)(やから)(さば)かん(ため)なり。 31シモン、シモン、()よ、サタン(なんぢ)らを(むぎ)のごとく(ふる)はんとて()()たり。 32されど(われ)なんぢの(ため)に、その信仰(しんかう)()せぬやうに(いの)りたり、なんぢ()(かへ)りてのち兄弟(きゃうだい)たちを(かた)うせよ』 33シモン()ふ『(しゅ)よ、(われ)(なんぢ)とともに(ひとや)にまでも、()にまでも()かんと覺悟(かくご)せり』 34イエス()(たま)ふ『ペテロよ、(われ)なんぢに()ぐ、今日(けふ)なんぢ三度(みたび)われを()らずと(いな)むまでは、(にはとり)()かざるべし』
35かくて弟子(でし)たちに()(たま)ふ『財布(さいふ)(ふくろ)(くつ)をも()たせずして(なんぢ)らを(つかは)ししとき、()けたる(ところ)ありしや』(かれ)()ふ『()かりき』 36イエス()(たま)ふ『されど(いま)財布(さいふ)ある(もの)(これ)()れ、(ふくろ)ある(もの)(しか)すべし。また(つるぎ)なき(もの)(ころも)()りて(つるぎ)()へ。 37われ(なんぢ)らに()ぐ「かれは愆人(とがにん)(とも)(かぞ)へられたり」と(しる)されたるは、()()()()げらるべし。(おほよ)(われ)(かかは)(こと)()()げらるればなり』 38弟子(でし)たち()ふ『(しゅ)()たまへ、(ここ)(つるぎ)二振(ふたふり)あり』イエス()ひたまふ『()れり』
39(つひ)()でて、(つね)のごとくオリブ(やま)()(たま)へば、弟子(でし)たちも(したが)ふ。 40其處(そこ)(いた)りて(かれ)らに()ひたまふ『誘惑(まどはし)()らぬやうに(いの)れ』 41かくて(みづか)らは(いし)()げらるる(ほど)かれらより(へだて)り、(ひざま)づきて(いの)()ひたまふ、 42(ちち)よ、御旨(みむね)ならば、()酒杯(さかづき)(われ)より()()りたまへ、されど()(こころ)にあらずして御意(みこころ)()らんことを(ねが)ふ』 43(とき)(てん)より御使(みつかひ)あらはれて、イエスに(ちから)()ふ。 44イエス(かな)しみ(せま)り、いよいよ(せつ)(いの)(たま)へば、(あせ)地上(ちじゃう)()つる()(しづく)(ごと)し。 45(いのり)()へ、()ちて弟子(でし)たちの(もと)にきたり、その(うれひ)によりて(ねむ)れるを()()ひたまふ、 46『なんぞ(ねむ)るか、()て、誘惑(まどはし)()らぬやうに(いの)れ』 47なほ(かた)りゐ(たま)ふとき、()よ、群衆(ぐんじゅう)あらはれ、十二(じふに)一人(ひとり)なるユダ(さき)だち(きた)り、イエスに接吻(くちつけ)せんとて近寄(ちかよ)りたれば、 48イエス()(たま)ふ『ユダ、なんぢは接吻(くちつけ)をもて(ひと)()()るか』 49御側(みそば)()(もの)ども(こと)(およ)ばんとするを()()ふ『(しゅ)よ、われら(つるぎ)をもて()つべきか』 50その(うち)一人(ひとり)(だい)祭司(さいし)(しもべ)()ちて、(みぎ)(みみ)()(おと)せり。 51イエス(こた)へて()ひたまふ『(これ)にてゆるせ』(しか)して(しもべ)(みみ)()をつけて(いや)(たま)ふ。 52かくて(おのれ)(むか)ひて(きた)れる祭司長(さいしちゃう)宮守頭(みやもりがしら)長老(ちゃうらう)らに()(たま)ふ『なんぢら強盜(がうたう)(むか)ふごとく、(つるぎ)(ぼう)とを()ちて()できたるか。 53(われ)日々(ひび)なんぢらと(とも)(みや)()りしに、()(うへ)()()べざりき。されど(いま)(なんぢ)らの(とき)、また暗黒(くらき)權威(けんゐ)なり』
54(つひ)人々(ひとびと)イエスを(とら)へて、(だい)祭司(さいし)(いへ)()きゆく。ペテロ(とほ)(はな)れて(したが)ふ。 55人々(ひとびと)中庭(なかには)のうちに()()きて、諸共(もろとも)()したれば、ペテロもその(なか)()す。 56(ある)婢女(はしため)ペテロの()(ひかり)()けて()()るを()、これに()(そそ)ぎて()ふ『この(ひと)(かれ)(とも)にゐたり』 57ペテロ(うけが)はずして()ふ『をんなよ、(われ)(かれ)()らず』 58(しばら)くして(ほか)(もの)ペテロを()()ふ『なんぢも(かれ)黨與(ともがら)なり』ペテロ()ふ『(ひと)よ、(しか)らず』 59(ひと)(とき)ばかりして(また)ほかの(をとこ)言張(いひは)りて()ふ『まさしく()(ひと)(かれ)とともに()りき、(これ)ガリラヤ(ひと)なり』 60ペテロ()ふ『(ひと)よ、(われ)なんぢの()ふことを()らず』なほ()()へぬに、やがて(にはとり)()きぬ。 61(しゅ)振反(ふりかへ)りてペテロに()をとめ(たま)ふ。ここにペテロ、(しゅ)の『今日(けふ)にはとり()(まへ)に、なんぢ三度(みたび)われを(いな)まん』と()(たま)ひし御言(みことば)(おも)ひいだし、 62(そと)()でて(いた)()けり。
63(まも)(もの)どもイエスを嘲弄(てうろう)し、(これ)()ち、 64その()(おほ)()ひて()ふ『預言(よげん)せよ、(なんぢ)()ちし(もの)(たれ)なるか』 65この(ほか)なほ(おほ)くのことを()ひて(そし)れり。
66夜明(よあけ)になりて、(たみ)長老(ちゃうらう)祭司長(さいしちゃう)學者(がくしゃ)(あひ)(あつま)り、イエスをその議會(ぎくわい)()(いだ)して()ふ、 67『なんぢ()しキリストならば、(われ)らに()へ』イエス()(たま)ふ『われ()ふとも(なんぢ)(しん)ぜじ、 68(また)われ()ふとも(なんぢ)(こた)へじ。 69されど(ひと)()(いま)よりのち(かみ)能力(ちから)(みぎ)()せん』 70(みな)いふ『されば(なんぢ)(かみ)()なるか』(こた)(たま)ふ『なんぢらの()ふごとく(われ)はそれなり』 71(かれ)()ふ『(なに)ぞなほ(ほか)證據(しょうこ)(もと)めんや。(われ)(みづか)らその(くち)より()けり』

第二十三章

1民衆(みんしゅう)みな()ちて、イエスをピラトの(まへ)()きゆき、 2(うった)()でて()ふ『われら()(ひと)が、わが(くに)(たみ)(まどは)し、(みつぎ)をカイザルに(をさ)むるを(きん)じ、かつ(みづか)(わう)なるキリストと(とな)ふるを(みと)めたり』 3ピラト、イエスに()ひて()ふ『なんぢはユダヤ(びと)(わう)なるか』(こた)へて()(たま)ふ『なんぢの()ふが(ごと)し』 4ピラト祭司長(さいしちゃう)らと群衆(ぐんじゅう)とに()ふ『われ()(ひと)(とが)あるを()ず』 5(かれ)()ますます()(つの)り『かれはユダヤ全國(ぜんこく)(をしへ)をなして(たみ)(さわ)がし、ガリラヤより(はじ)めて、此處(ここ)(いた)る』と()ふ。 6ピラト(これ)()き、そのガリラヤ(ひと)なるかを()ひて、 7ヘロデの權下(けんか)(もの)なるを()り、ヘロデ()(ころ)エルサレムに()たれば、イエスをその(もと)(おく)れり。 8ヘロデ、イエスを()(いた)(よろこ)ぶ。これは(かれ)()きて()(ところ)ありたれば、(ひさ)しく()はんことを(ほっ)し、(なに)をか(しるし)(おこな)ふを()んと(のぞ)()たる(ゆゑ)なり。 9かくて(おほ)くの(ことば)をもて()ひたれど、イエス(なに)をも(こた)(たま)はず。 10祭司長(さいしちゃう)學者(がくしゃ)()ちて激甚(ていた)くイエスを(うった)ふ。 11ヘロデその兵卒(へいそつ)(とも)にイエスを(あなど)り、かつ嘲弄(てうろう)し、華美(はなやか)なる(ころも)()せて、ピラトに(かへ)す。 12ヘロデとピラトと(さき)には(あた)たりしが、()()たがひに(した)しくなれり。
13ピラト、祭司長(さいしちゃう)らと(つかさ)らと(たみ)とを()(あつ)めて()ふ、 14(なんぢ)らこの(ひと)(たみ)(まどは)(もの)として()(きた)れり。()よ、われ(なんぢ)らの(まへ)にて(ただ)したれど、()(うった)ふる(ところ)()きて、この(ひと)(とが)あるを()ず。 15ヘロデも(また)(しか)り、(かれ)(われ)らに(かへ)したり。()よ、(かれ)()(あた)るべき(わざ)()さざりき。 16されば(こら)しめて(これ)(ゆる)さん』 17[なし] 18民衆(みんしゅう)ともに(さけ)びて()ふ『この(ひと)(のぞ)け、(われ)らにバラバを(ゆる)せ』 19()のバラバは、(みやこ)(おこ)りし一揆(いっき)殺人(ひとごろし)との(ゆゑ)によりて、(ひとや)()れられたる(もの)なり。 20ピラトはイエスを(ゆる)さんと(ほっ)して、(ふたた)(かれ)らに()げたれど、 21(かれ)(さけ)びて『十字架(じふじか)につけよ、十字架(じふじか)につけよ』と()ふ。 22ピラト三度(みたび)まで『(かれ)(なに)惡事(あくじ)()ししか、(われ)その()(あた)るべき(わざ)()ず、(ゆゑ)(こら)しめて(ゆる)さん』と()ふ。 23されど人々(ひとびと)大聲(おほごゑ)をあげ(せま)りて、十字架(じふじか)につけんことを(もと)めたれば、(つひ)にその(こゑ)()てり。 24ここにピラトその(もとめ)(ごと)くすべしと言渡(いひわた)し、 25その(もと)むるままに、かの一揆(いっき)殺人(ひとごろし)との(ゆゑ)によりて(ひとや)()れられたる(もの)(ゆる)し、イエスを(わた)して(かれ)らの(こころ)(まま)ならしめたり。
26人々(ひとびと)イエスを()きゆく(とき)、シモンといふクレネ(びと)田舍(ゐなか)より(きた)るを(とら)へ、十字架(じふじか)()はせてイエスの(うしろ)(したが)はしむ。
27(たみ)(おほい)なる(むれ)と、(なげ)(かな)しめる(をんな)たちの(むれ)(これ)(したが)ふ。 28イエス振反(ふりかへ)りて(をんな)たちに()(たま)ふ『エルサレムの(むすめ)よ、わが(ため)()くな、ただ(おの)がため、(おの)()のために()け。 29()よ「石婦(うまずめ)()()まぬ(はら)()ませぬ(ちち)幸福(さいはひ)なり」と()()きたらん。 30その(とき)ひとびと「(やま)(むか)ひて(われ)らの(うへ)(たふ)れよ、(をか)(むか)ひて(われ)らを(おほ)へ」と()()でん。 31もし(あを)()()()さば、枯樹(かれき)如何(いか)にせられん』
32また(ほか)二人(ふたり)惡人(あくにん)をも、死罪(しざい)(おこな)はんとてイエスと(とも)()きゆく。
33髑髏(されかうべ)といふ(ところ)(いた)りて、イエスを十字架(じふじか)につけ、また惡人(あくにん)一人(ひとり)をその(みぎ)一人(ひとり)をその(ひだり)十字架(じふじか)につく。 34かくてイエス()ひたまふ『(ちち)よ、(かれ)らを(ゆる)(たま)へ、その()(ところ)()らざればなり』(かれ)らイエスの(ころも)(わか)ちて鬮取(くじとり)にせり、 35(たみ)()ちて()ゐたり。(つかさ)たちも(あざけ)りて()ふ『かれは他人(たにん)(すく)へり、もし(かみ)(えら)(たま)ひしキリストならば、(おのれ)をも(すく)へかし』 36兵卒(へいそつ)どもも嘲弄(てうろう)しつつ、(ちか)よりて()葡萄酒(ぶだうしゅ)をさし(いだ)して()ふ、 37『なんぢ()しユダヤ(びと)(わう)ならば、(おのれ)(すく)へ』 38(また)イエスの(うへ)には『これはユダヤ(びと)(わう)なり』との罪標(すてふだ)あり。
39十字架(じふじか)()けられたる惡人(あくにん)一人(ひとり)、イエスを(そし)りて()ふ『なんぢはキリストならずや、(おのれ)(われ)らとを(すく)へ』 40(ほか)(もの)これに(こた)(いまし)めて()ふ『なんぢ(おな)じく(つみ)(さだ)められながら、(かみ)(おそ)れぬか。 41(われ)らは()しし(こと)(むくい)()くるなれば當然(たうぜん)なり。されど()(ひと)(なに)()(ぜん)をも()さざりき』 42また()ふ『イエスよ、御國(みくに)()(たま)ふとき、(われ)(おぼ)えたまえ』 43イエス()(たま)ふ『われ(まこと)(なんぢ)()ぐ、今日(けふ)なんぢは(われ)(とも)にパラダイスに()るべし』
44(ひる)十二(じふに)()ごろ、()(ひかり)をうしなひ、()のうへ(あまね)(くら)くなりて、三時(さんじ)(およ)び、 45聖所(せいじょ)(まく)眞中(まなか)より()けたり。 46イエス大聲(おほごゑ)(よば)はりて()ひたまふ『(ちち)よ、わが(れい)御手(みて)にゆだぬ』()()ひて(いき)()えたまふ。 47百卒長(ひゃくそつちゃう)この()りし(こと)()て、(かみ)(あが)めて()ふ『(じつ)にこの(ひと)義人(ぎじん)なりき』 48これを()んとて(あつま)りたる群衆(ぐんじゅう)も、ありし(こと)どもを()て、みな(むね)()ちつつ(かへ)れり。 49(すべ)てイエスの相識(しるべ)(もの)およびガリラヤより(したが)(きた)れる(をんな)たちも、(はるか)()ちて(これ)()のことを()たり。
50議員(ぎゐん)にして(ぜん)かつ()なるヨセフといふ(ひと)あり。 51――この(ひと)はかの評議(ひゃうぎ)仕業(しわざ)とに(くみ)せざりき――ユダヤの(まち)なるアリマタヤの(もの)にて、(かみ)(くに)()ちのぞめり。 52()(ひと)ピラトの(もと)にゆき、イエスの屍體(しかばね)()ひ、 53これを()りおろし、亞麻(あま)(ぬの)にて(つつ)み、(いは)()りたる(いま)(ひと)(はうむ)りし(こと)なき(はか)(をさ)めたり。 54この()準備(そなへ)()なり、かつ安息(あんそく)(にち)(ちか)づきぬ。 55ガリラヤよりイエスと(とも)(きた)りし(をんな)たち(あと)(したが)ひ、その(はか)屍體(しかばね)(をさ)められたる(さま)とを()56(かへ)りて香料(かうれう)(にほひ)(あぶら)とを(そな)ふ。
かくて誡命(いましめ)(したが)ひて、安息(あんそく)(にち)(やす)みたり。

第二十四章

1一週(ひとまはり)(はじめ)()(あさ)まだき、(をんな)たち(そな)へたる香料(かうれう)(たづさ)へて(はか)にゆく。 2(しか)るに(いし)(すで)(はか)より(まろば)()けあるを()3(うち)()りたるに、(しゅ)イエスの屍體(しかばね)()ず、 4これが(ため)狼狽(うろた)へをりしに、()よ、(かがや)ける(ころも)()たる二人(ふたり)(ひと)その(かたは)らに()てり。 5(をんな)たち(おそ)れて(おもて)()()せたれば、その二人(ふたり)(もの)いふ『なんぞ()にし(もの)どもの(うち)()ける(もの)(たづ)ぬるか。 6(かれ)此處(ここ)(いま)さず、(よみが)へり(たま)へり。(なほ)ガリラヤに居給(ゐたま)へるとき、如何(いか)(かた)(たま)ひしかを(おも)()でよ。 7(すなは)ち「(ひと)()(かなら)(つみ)ある(ひと)()(わた)され、十字架(じふじか)につけられ、かつ三日(みっか)めに(よみが)へるべし」と()(たま)へり』 8ここに(かれ)らその御言(みことば)(おも)()で、 9(はか)より(かへ)りて、(すべ)(これ)()のことを(じふ)(いち)弟子(でし)および(すべ)(ほか)弟子(でし)たちに()ぐ。 10この(をんな)たちはマグダラのマリヤ、ヨハンナ(およ)びヤコブの(はは)マリヤなり、(しか)して(かれ)らと(とも)()りし(ほか)(をんな)たちも、(これ)使徒(しと)たちに()げたり。 11使徒(しと)たちは()(ことば)妄語(たはごと)(おも)ひて(しん)ぜず。 12[ペテロは()ちて(はか)(はし)りゆき、(かが)みて(ぬの)のみあるを()、ありし(こと)(あや)しみつつ(かへ)れり]
13()よ、この()二人(ふたり)弟子(でし)、エルサレムより三里(さんり)ばかり(へだて)りたるエマオといふ(むら)()きつつ、 14(すべ)()りし(こと)どもを(たがひ)(かた)りあふ。 15(かた)りかつ(ろん)じあふ(ほど)に、イエス(みづか)(ちか)づきて(とも)()(たま)ふ。 16されど(かれ)らの()()へられて、イエスたるを(みと)むること(あた)はず。 17イエス(かれ)らに()(たま)ふ『なんぢら(あゆ)みつつ(たがひ)(かた)りあふ(こと)(なん)ぞや』かれら(かな)しげなる(さま)にて()(とどま)り、 18その一人(ひとり)なるクレオパと()づくるもの(こた)へて()ふ『なんぢエルサレムに(やど)()て、(ひとり)()(ころ)かしこに(おこ)りし(こと)どもを()らぬか』 19イエス()(たま)ふ『如何(いか)なる(こと)ぞ』(こた)へて()ふ『ナザレのイエスの(こと)なり、(かれ)(かみ)(すべ)ての(たみ)との(まへ)にて、(わざ)にも(ことば)にも能力(ちから)ある預言者(よげんしゃ)なりしに、 20祭司長(さいしちゃう)(およ)()(つかさ)らは、死罪(しざい)(さだ)めんとて(これ)(わた)(つひ)十字架(じふじか)につけたり。 21(われ)らはイスラエルを(あがな)ふべき(もの)は、この(ひと)なりと(のぞ)みゐたり、(しか)のみならず、()(こと)()りしより今日(けふ)ははや三日(みっか)めなるが、 22なほ我等(われら)のうちの(ある)(をんな)たち、(われ)らを(をどろ)かせり、(すなは)(かれ)(あさ)(はや)(はか)()きたるに、 23屍體(しかばね)()ずして(かへ)り、かつ御使(みつかひ)たち(あらは)れて、イエスは()(たま)ふと()げたりと()ふ。 24(われ)らの朋輩(ともがら)數人(すにん)もまた(はか)()きて()れば、(ただ)しく(をんな)たちの()ひし(ごと)くにしてイエスを()ざりき』 25イエス()(たま)ふ『ああ(おろか)にして預言者(よげんしゃ)たちの(かた)りたる(すべ)てのことを(しん)ずるに(こころ)(にぶ)(もの)よ。 26キリストは(かなら)(これ)らの苦難(くるしみ)()けて、()榮光(えいくわう)()るべきならずや』 27かくてモーセ(およ)(すべ)ての預言者(よげんしゃ)をはじめ、(おのれ)()きて(すべ)ての聖書(せいしょ)(しる)したる(ところ)()(しめ)したまふ。 28(つひ)()(ところ)(むら)(ちか)づきしに、イエスなほ(すす)みゆく(さま)なれば、 29()ひて()めて()ふ『(われ)らと(とも)(とどま)れ、(とき)(ゆふべ)(およ)びて、()()()れんとす』(すなは)(とどま)らんとて()りたまふ。 30(とも)食事(しょくじ)(せき)()きたまふ(とき)、パンを()りて(しく)し、()きて(あた)(たま)へば、 31(かれ)らの()(ひら)けてイエスなるを(みと)む、(しか)してイエス()えずなり(たま)ふ。 32かれら(たがひ)()ふ『(みち)にて(われ)らと(かた)り、(われ)らに聖書(せいしょ)説明(ときあか)(たま)へるとき、(われ)らの(こころ)(うち)()えしならずや』 33かくて(ただ)ちに()ちエルサレムに(かへ)りて()れば、(じふ)(いち)弟子(でし)および(これ)(とも)なる(もの)あつまり()()ふ、 34(しゅ)(じつ)(よみが)へりて、シモンに(あらは)(たま)へり』 35二人(ふたり)(もの)もまた(みち)にて()りし(こと)と、パンを()(たま)ふによりてイエスを(みと)めし(こと)とを()ぶ。 36(これ)()のことを(かた)(ほど)に、イエスその(なか)()ち[『平安(へいあん)なんぢらに()れ』と()ひ](たま)ふ。 37かれら()(おそ)れて、()(ところ)のものを(れい)ならんと(おも)ひしに、 38イエス()(たま)ふ『なんぢら(なに)(こころ)(さわ)ぐか、(なに)ゆゑ(こころ)疑惑(うたがひ)おこるか、 39()()わが(あし)()よ、これ(われ)なり。(われ)()でて()よ、(れい)には(にく)(ほね)となし、(われ)にはあり、(なんぢ)らの()るごとし』 40()()ひて()(あし)とを(しめ)(たま)ふ] 41かれら歡喜(よろこび)(あまり)(しん)ぜずして(あや)しめる(とき)、イエス()ひたまふ『此處(ここ)(なに)食物(しょくもつ)あるか』 42かれら(あぶ)りたる(うを)一片(ひときれ)(ささ)げたれば、 43(これ)()り、その(まへ)にて(しょく)(たま)へり。
44また()(たま)ふ『これらの(こと)は、()がなほ(なんぢ)らと(とも)()りし(とき)(かた)りて、(われ)()きモーセの律法(おきて)預言者(よげんしゃ)および()(へん)(しる)されたる(すべ)ての(こと)は、(かなら)()げらるべしと()ひし(ところ)なり』 45ここに聖書(せいしょ)(さと)らしめんとて、(かれ)らの(こころ)(ひら)きて()(たま)ふ、 46『かく(しる)されたり、キリストは苦難(くるしみ)()けて、三日(みっか)めに死人(しにん)(うち)より(よみが)へり、 47(かつ)その()によりて(つみ)(ゆるし)()さする悔改(くいあらため)は、エルサレムより(はじま)りて、もろもろの國人(くにびと)宣傳(のべつた)へらるべしと。 48(なんぢ)らは(これ)()のことの證人(しょうにん)なり。 49()よ、(われ)(ちち)(やく)(たま)へるものを(なんぢ)らに(おく)る。(なんぢ)(うへ)より能力(ちから)()せらるるまでは(みやこ)(とどま)れ』
50(つひ)にイエス(かれ)らをベタニヤに()れゆき、()()げて(これ)(しく)したまふ。 51(しく)する(うち)に、(かれ)らを(はな)れ[(てん)()げられ](たま)ふ。 52(かれ)ら[(これ)(はい)し](おほい)なる歡喜(よろこび)をもてエルサレムに(かへ)り、 53(つね)(みや)()りて、(かみ)()めゐたり。