マルコ傳福音書

第一章

1(かみ)()イエス、キリストの福音(ふくいん)(はじめ)
2預言者(よげんしゃ)イザヤの(ふみ)に、
()よ、(われ)なんぢの(かほ)(まへ)に、わが使(つかひ)(つかは)す、
(かれ)なんぢの(みち)(まう)くべし。
3荒野(あらの)(よば)はる(もの)(こゑ)す、
(しゅ)(みち)(そな)へ、その(みち)すぢを(なほ)くせよ」』
(しる)されたる(ごと)く、 4バプテスマのヨハネ()で、荒野(あらの)にて(つみ)(ゆるし)()さする悔改(くいあらため)のバプテスマを宣傳(のべつた)ふ。 5ユダヤ全國(ぜんこく)またエルサレムの人々(ひとびと)、みな()(もと)()(きた)りて(つみ)()ひあらはし、ヨルダン(がは)にてバプテスマを()けたり。 6ヨハネは駱駝(らくだ)毛織(けおり)()(こし)(かは)(おび)して、(いなご)野蜜(のみつ)とを(くら)へり。 7かれ宣傳(のべつた)へて()ふ『(われ)よりも(ちから)ある(もの)、わが(のち)(きた)る。(われ)(かが)みてその(くつ)(ひも)をとくにも()らず、 8(われ)(みづ)にて(なんぢ)らにバプテスマを(ほどこ)せり。されど(かれ)(せい)(れい)にてバプテスマを(ほどこ)さん』
9その(ころ)イエス、ガリラヤのナザレより(きた)り、ヨルダンにてヨハネよりバプテスマを()(たま)ふ。 10かくて(みづ)より(あが)るをりしも、(てん)さけゆき、御靈(みたま)鴿(はと)のごとく(おのれ)(くだ)るを()(たま)ふ。 11かつ(てん)より(こゑ)()づ『なんぢは()(いつく)しむ()なり、(われ)なんぢを(よろこ)ぶ』
12かくて御靈(みたま)ただちにイエスを荒野(あらの)()ひやる。 13荒野(あらの)にて四十(しじふ)(にち)(あひだ)サタンに(こころ)みられ、(けもの)とともに居給(ゐたま)ふ、御使(みつかひ)たち(これ)(つか)へぬ。
14ヨハネの(とら)はれし(のち)、イエス、ガリラヤに(いた)り、(かみ)福音(ふくいん)宣傳(のべつた)へて()(たま)ふ、 15(とき)滿()てり、(かみ)(くに)(ちか)づけり、(なんぢ)悔改(くいあらた)めて福音(ふくいん)(しん)ぜよ』
16イエス、ガリラヤの(うみ)にそひて(あゆ)みゆき、シモンと()兄弟(きゃうだい)アンデレとが、(うみ)(あみ)うちをるを()(たま)ふ。かれらは漁人(すなどりびと)なり。 17イエス()(たま)ふ『われに(したが)ひきたれ、(なんぢ)()をして(ひと)(すなど)(もの)とならしめん』 18(かれ)(ただ)ちに(あみ)をすてて(したが)へり。 19(すこ)(すす)みゆきて、ゼベダイの()ヤコブとその兄弟(きゃうだい)ヨハネとを()(たま)ふ、(かれ)らも(ふね)にありて(あみ)(つくろ)ひゐたり。 20(ただ)ちに()(たま)へば、(ちち)ゼベダイを雇人(やとひびと)とともに(ふね)(のこ)して(したが)ひゆけり。
21かくて(かれ)らカペナウムに(いた)る、イエス(ただ)ちに安息(あんそく)(にち)會堂(くわいだう)にいりて(をし)(たま)ふ。 22人々(ひとびと)その(をしへ)(をどろ)きあへり。それは學者(がくしゃ)(ごと)くならず、權威(けんゐ)ある(もの)のごとく(をし)(たま)ふゆゑなり。 23(とき)にその會堂(くわいだう)に、(けが)れし(れい)()かれたる(ひと)あり、(さけ)びて()24『ナザレのイエスよ、(われ)らは(なんぢ)(なに)關係(かかはり)あらんや、(なんぢ)(われ)らを(ほろぼ)さんとて來給(きたま)ふ。われは(なんぢ)(たれ)なるを()る、(かみ)聖者(しゃうじゃ)なり』 25イエス(いまし)めて()(たま)ふ『(もだ)せ、その(ひと)()でよ』 26(けが)れし(れい)その(ひと)痙攣(ひきつ)けさせ、大聲(おほごゑ)をあげて()づ。 27人々(ひとびと)みな(をどろ)(あひ)()ひて()ふ『これ何事(なにごと)ぞ、權威(けんゐ)ある(あたら)しき(をしへ)なるかな、(けが)れし(れい)すら(めい)ずれば(したが)ふ』 28ここにイエスの(うはさ)あまねくガリラヤの四方(しはう)(ひろま)りたり。
29會堂(くわいだう)をいで、(ただ)ちにヤコブとヨハネとを(ともな)ひて、シモン(およ)びアンデレの(いへ)()(たま)ふ。 30シモンの外姑(しうとめ)(ねつ)をやみて()しゐたれば、人々(ひとびと)ただちに(これ)をイエスに()ぐ。 31イエス()きて、その()をとり、(おこ)(たま)へば、(ねつ)さりて(をんな)かれらに(つか)ふ。
32(ゆふべ)となり、()いりてのち、人々(ひとびと)すべての(やまひ)ある(もの)惡鬼(あくき)()かれたる(もの)をイエスに()(きた)り、 33全町(ひとまち)こぞりて(もん)(あつま)る。 34イエスさまざまの(やまひ)(わづら)(おほ)くの(ひと)をいやし、(おほ)くの惡鬼(あくき)()ひいだし、(これ)(もの)()ふことを(ゆる)(たま)はず、惡鬼(あくき)イエスを()るに()りてなり。
35(あさ)まだき(くら)(ほど)に、イエス()()でて、(さび)しき(ところ)にゆき、其處(そこ)にて(いの)りゐたまふ。 36シモン(およ)(これ)(とも)にをる(もの)ども、その(あと)(した)ひゆき、 37イエスに()ひて()ふ『(ひと)みな(なんぢ)(たづ)ぬ』 38イエス()(たま)ふ『いざ最寄(もより)村々(むらむら)()かん、われ彼處(かしこ)にも(をしへ)()ぶべし、(われ)はこの(ため)()(きた)りしなり』 39(つひ)にゆきて、(あまね)くガリラヤの會堂(くわいだう)にて(をしへ)()べ、かつ惡鬼(あくき)()(いだ)(たま)へり。
40一人(ひとり)癩病人(らいびゃうにん)みもとに(きた)り、(ひざま)づき()ひて()ふ『御意(みこころ)ならば、(われ)(きよ)くなし(たま)ふを()ん』 41イエス(あはれ)みて、()をのべ(かれ)につけて『わが(こころ)なり、(きよ)くなれ』と()(たま)へば、 42(ただ)ちに癩病(らいびゃう)さりて、その(ひと)きよまれり。 43やがて(かれ)()らしめんとて、(きび)しく(いまし)めて()(たま)44『つつしみて(たれ)にも(かた)るな、(ただ)ゆきて(おのれ)祭司(さいし)()せ、モーセが(めい)じたる(もの)(なんぢ)(きよめ)のために(ささ)げて、人々(ひとびと)(あかし)せよ』 45されど(かれ)いでて()(こと)(おほい)()べつたへ、(あまね)(ひろ)(はじ)めたれば、この(のち)イエスあらはに(まち)()りがたく、(そと)(さび)しき(ところ)(とどま)りたまふ。人々(ひとびと)四方(しはう)より御許(みもと)(きた)れり。

第二章

1數日(すにち)(のち)、またカペナウムに()(たま)ひしに、その(いへ)(いま)することを()きて、 2(おほ)くの(ひと)あつまり(きた)り、門口(かどぐち)すら隙間(すきま)なき(ほど)なり。イエス(かれ)らに御言(みことば)(かた)(たま)ふ。 3ここに四人(よにん)(にな)はれたる中風(ちゅうぶ)(もの)人々(ひとびと)つれ(きた)る。 4群衆(ぐんじゅう)によりて御許(みもと)にゆくこと(あた)はざれば、(いま)(ところ)屋根(やね)穿(うが)ちあけて、中風(ちゅうぶ)(もの)(とこ)のまま()(おろ)せり。 5イエス(かれ)らの信仰(しんかう)()て、中風(ちゅうぶ)(もの)()ひたまふ『()よ、(なんぢ)(つみ)ゆるされたり』 6ある學者(がくしゃ)たち其處(そこ)()しゐたるが、(こころ)(うち)に、 7『この(ひと)なんぞ()()ふか、これは(かみ)(けが)すなり、(かみ)ひとりの(ほか)(たれ)(つみ)(ゆる)すことを()べき』と(ろん)ぜしかば、 8イエス(ただ)ちに(かれ)()がかく(ろん)ずるを(こころ)(さと)りて()(たま)ふ『なにゆゑ()かることを(こころ)(ろん)ずるか、 9中風(ちゅうぶ)(もの)に「なんぢの(つみ)ゆるされたり」と()ふと「()きよ、(とこ)をとりて(あゆ)め」と()ふと、(いづれ)(やす)き。 10(ひと)()()にて(つみ)(ゆる)權威(けんゐ)ある(こと)を、(なんぢ)らに()らせん(ため)に』――中風(ちゅうぶ)(もの)()(たま)ふ―― 11『なんぢに()ぐ、()きよ、(とこ)をとりて(いへ)(かへ)れ』 12(かれ)おきて(ただ)ちに(とこ)をとりあげ、人々(ひとびと)眼前(まのあたり)いで()けば、(みな)おどろき、かつ(かみ)(あが)めて()ふ『われら()くの(ごと)きことは()えて()ざりき』
13イエスまた海邊(うみべ)()でゆき(たま)ひしに、群衆(ぐんじゅう)みもとに(つど)(きた)りたれば、(これ)(をし)(たま)へり。 14かくて()()くとき、アルパヨの()レビの收税所(しうぜいしょ)()しをるを()て『われに(したが)へ』と()(たま)へば、()ちて(したが)へり。 15(しか)して()(いへ)にて食事(しょくじ)(せき)につき居給(ゐたま)ふとき、(おほ)くの取税人(しゅぜいにん)罪人(つみびと)ら、イエス(およ)弟子(でし)たちと(とも)(せき)(つらな)る、これらの(もの)おほく()て、イエスに(したが)へるなり。 16パリサイ(びと)學者(がくしゃ)ら、イエスの罪人(つみびと)取税人(しゅぜいにん)とともに(しょく)(たま)ふを()て、その弟子(でし)たちに()ふ『なにゆゑ取税人(しゅぜいにん)罪人(つみびと)とともに(しょく)するか』 17イエス()きて()(たま)ふ『(すこや)かなる(もの)醫者(いしゃ)(えう)せず、ただ(やまひ)ある(もの)これを(えう)す。(われ)(ただ)しき(もの)(まね)かんとにあらで、罪人(つみびと)(まね)かんとて(きた)れり』
18ヨハネの弟子(でし)とパリサイ(びと)とは、斷食(だんじき)しゐたり。人々(ひとびと)イエスに(きた)りて()ふ『なにゆゑヨハネの弟子(でし)とパリサイ(びと)弟子(でし)とは斷食(だんじき)して、(なんぢ)弟子(でし)斷食(だんじき)せぬか』 19イエス()(たま)ふ『新郎(はなむこ)(とも)だち、新郎(はなむこ)(とも)にをるうちは斷食(だんじき)()べきか、新郎(はなむこ)(とも)にをる(あひだ)は、斷食(だんじき)するを()ず。 20されど新郎(はなむこ)をとらるる()きたらん、その()には斷食(だんじき)せん。 21(たれ)(あたら)しき(ぬの)(きれ)(ふる)(ころも)()ひつくることは()じ。もし(しか)せば、その(おぎな)ひたる(あたら)しきものは、(ふる)(もの)をやぶり、破綻(ほころび)さらに(はなは)だしからん。 22(たれ)(あたら)しき葡萄酒(ぶだうしゅ)を、ふるき革嚢(かはぶくろ)()るることは()じ。もし(しか)せば、葡萄酒(ぶだうしゅ)(ふくろ)をはりさきて、葡萄酒(ぶだうしゅ)(ふくろ)(すた)らん。(あたら)しき葡萄酒(ぶだうしゅ)は、(あたら)しき革嚢(かはぶくろ)()るるなり』
23イエス安息(あんそく)(にち)(むぎ)(はたけ)をとほり(たま)ひしに、弟子(でし)たち(あゆ)みつつ()()(はじ)めたれば、 24パリサイ(びと)、イエスに()ふ『()よ、(かれ)らは(なに)ゆゑ安息(あんそく)(にち)()まじき(こと)をするか』 25(こた)(たま)ふ『ダビデその(ともな)へる人々(ひとびと)(とも)(とも)しくして()ゑしとき()しし(こと)(いま)()まぬか。 26(すなは)(だい)祭司(さいし)アビアタルの(とき)、ダビデ(かみ)(いへ)()りて、祭司(さいし)のほかは(くら)ふまじき(そなへ)のパンを()りて(くら)ひ、おのれと(とも)なる(もの)にも(あた)へたり』 27また()ひたまふ『安息(あんそく)(にち)(ひと)のために(まう)けられて、(ひと)安息(あんそく)(にち)のために(まう)けられず。 28されば(ひと)()安息(あんそく)(にち)にも(しゅ)たるなり』

第三章

1また會堂(くわいだう)()(たま)ひしに、片手(かたて)なえたる(ひと)あり。 2人々(ひとびと)イエスを(うった)へんと(おも)ひて、安息(あんそく)(にち)にかの(ひと)(いや)すや(いな)やと(うかが)ふ。 3イエス()なえたる(ひと)に『(なか)()て』といひ、 4また人々(ひとびと)()ひたまふ『安息(あんそく)(にち)(ぜん)をなすと(あく)をなすと、生命(いのち)(すく)ふと(ころ)すと、(いづれ)かよき』(かれ)默然(もくねん)たり。 5イエスその(こころ)頑固(かたくな)なるを(うれ)ひて、(いか)見囘(みまは)して、()なえたる(ひと)に『()()べよ』と()(たま)ふ。かれ()()べたれば()ゆ。 6パリサイ(びと)いでて、(ただ)ちにヘロデ(たう)(ひと)とともに、如何(いか)にしてイエスを(ほろぼ)さんと(はか)る。
7イエスその弟子(でし)とともに海邊(うみべ)退(しりぞ)(たま)ひしに、ガリラヤより(きた)れる夥多(おびただ)しき民衆(みんしゅう)(したが)ふ。(また)ユダヤ、 8エルサレム、イドマヤ、ヨルダンの(むかひ)()、およびツロ、シドンの(ほとり)より夥多(おびただ)しき民衆(みんしゅう)その()(たま)へる(こと)()きて、御許(みもと)(きた)る。 9イエス群衆(ぐんじゅう)のおしなやますを(のが)れんとて、小舟(こぶね)(そな)()くことを弟子(でし)(めい)(たま)ふ。 10これ(おほ)くの(ひと)(いや)(たま)ひたれば、(すべ)(やまひ)(くる)しむもの、御體(みからだ)(さは)らんとて押迫(おしせま)(ゆゑ)なり。 11また(けが)れし(れい)イエスを()(ごと)に、御前(みまへ)平伏(ひれふ)し、(さけ)びて『なんぢは(かみ)()なり』と()ひたれば、 12(われ)(あらは)すなとて、(きび)しく(いまし)(たま)ふ。
13イエス(やま)(のぼ)り、御意(みこころ)(かな)(もの)()(たま)ひしに、(かれ)御許(みもと)(きた)る。 14ここに十二(じふに)(にん)()げたまふ。(これ)かれらを御側(みそば)におき、また(をしへ)()べさせ、 15惡鬼(あくき)()(いだ)權威(けんゐ)(もち)ひさする(ため)に、(つかは)さんとてなり。 16()十二(じふに)(にん)()げて、シモンにペテロといふ()をつけ、 17ゼベダイの()ヤコブ、その兄弟(きゃうだい)ヨハネ、()二人(ふたり)にボアネルゲ、(すなは)雷霆(いかづち)()といふ()をつけ(たま)ふ。 18(また)アンデレ、ピリポ、バルトロマイ、マタイ、トマス、アルパヨの()ヤコブ、タダイ、熱心(ねっしん)(たう)のシモン、 19(およ)びイスカリオテのユダ、このユダはイエスを()りしなり。
かくてイエス(いへ)()(たま)ひしに、 20群衆(ぐんじゅう)また(あつま)(きた)りたれば、食事(しょくじ)する(ひま)もなかりき。 21その親族(しんぞく)(もの)これを()き、イエスを取押(とりおさ)へんとて()(きた)る、イエスを(くる)へりと()ひてなり。 22(また)エルサレムより(くだ)れる學者(がくしゃ)たちも『(かれ)はベルゼブルに()かれたり』と()ひ、かつ『惡鬼(あくき)(かしら)によりて惡鬼(あくき)()(いだ)すなり』と()ふ。 23イエス(かれ)らを()びよせ、(たとへ)にて()(たま)ふ『サタンはいかでサタンを()(いだ)()んや。 24もし(くに)(わか)(あらそ)はば、()(くに)()つこと(あた)はず。 25もし(いへ)(わか)(あらそ)はば、()(いへ)()つこと(あた)はざるべし。 26もしサタン(おのれ)(さから)ひて(わか)(あらそ)はば、()つこと(あた)はず、(かへ)つて(ほろ)()てん。 27(たれ)にても()(つよ)(もの)(しば)らずば、(つよ)(もの)(いへ)()りて()家財(かざい)(うば)ふこと(あた)はじ、(しば)りて(のち)その(いへ)(うば)ふべし。 28まことに(なんぢ)らに()ぐ、(ひと)()らの(すべ)ての(つみ)と、けがす(けがし)とは(ゆる)されん。 29されど(せい)(れい)をけがす(もの)は、永遠(とこしへ)(ゆる)されず、永遠(とこしへ)(つみ)(さだ)めらるべし』 30これは(かれ)らイエスを『(けが)れし(れい)()かれたり』と()へるが(ゆゑ)なり。
31ここにイエスの(はは)兄弟(きゃうだい)(きた)りて(そと)()ち、(ひと)(つかは)してイエスを()ばしむ。 32群衆(ぐんじゅう)イエスを(めぐ)りて()したりしが、(ある)(もの)いふ『()よ、なんぢの(はは)兄弟(きゃうだい)姉妹(しまい)(そと)にありて(なんぢ)(たづ)ぬ』 33イエス(こた)へて()(たま)ふ『わが(はは)、わが兄弟(きゃうだい)とは(たれ)ぞ』 34かくて周圍(まはり)()する人々(ひとびと)見囘(みまは)して()ひたまふ『()よ、これは()(はは)、わが兄弟(きゃうだい)なり。 35(たれ)にても(かみ)御意(みこころ)(おこな)ふものは、(これ)わが兄弟(きゃうだい)、わが姉妹(しまい)、わが(はは)なり』

第四章

1イエスまた海邊(うみべ)にて(をし)(はじ)めたまふ。夥多(おびただ)しき群衆(ぐんじゅう)、みもとに(あつま)りたれば、(ふね)()(うみ)(うか)びて()したまひ、群衆(ぐんじゅう)はみな(うみ)沿()ひて(をか)にあり。 2(たとへ)にて數多(あまた)(こと)ををしへ、(をしへ)(うち)()ひたまふ、 3()け、(たね)()くもの、()かんとて()づ。 4()くとき、(みち)(かたは)らに()ちし(たね)あり、(とり)きたりて(ついば)む。 5(つち)うすき磽地(いしぢ)()ちし(たね)あり、(つち)(ふか)からぬによりて、(すみや)かに()()でたれど、 6()()でてやけ、()なき(ゆゑ)()る。 7(いばら)(なか)()ちし(たね)あり、(いばら)そだち(ふさ)ぎたれば、()(むす)ばず。 8()()()ちし(たね)あり、()()でて(しげ)り、()(むす)ぶこと、三十(さんじふ)(ばい)六十(ろくじふ)(ばい)(ひゃく)(ばい)せり』 9また()(たま)ふ『きく(みみ)ある(もの)()くべし』
10イエス人々(ひとびと)(はな)居給(ゐたま)ふとき、御許(みもと)にをる(もの)ども、十二(じふに)弟子(でし)とともに、(これ)()(たとへ)()ふ。 11イエス()(たま)ふ『なんぢらには(かみ)(くに)奧義(おくぎ)(あた)ふれど、(そと)(もの)には、(すべ)(たとへ)にて(をし)ふ。 12これ「()るとき()ゆとも(みと)めず、()くとき(きこ)ゆとも(さと)らず、(ひるが)へりて(ゆる)さるる(こと)なからん」(ため)なり』 13また()(たま)ふ『なんぢら()(たとへ)()らぬか、さらば(いか)でもろもろの(たとへ)()()んや。 14()(もの)御言(みことば)()くなり。 15御言(みことば)()かれて(みち)(かたは)らにありとは、かかる(ひと)をいふ、(すなは)()くとき、(ただ)ちにサタン(きた)りて、その()かれたる御言(みことば)(うば)ふなり。 16(おな)じく()かれて磽地(いしぢ)にありとは、かかる(ひと)をいふ、(すなは)御言(みことば)をききて、(ただ)ちに(よろこ)()くれども、 17その(うち)()なければ、ただ(しば)(たも)つのみ、御言(みことば)のために患難(なやみ)また迫害(はくがい)にあふ(とき)は、(ただ)ちに(つまづ)くなり。 18また()かれて(いばら)(なか)にありとは、かかる(ひと)をいふ、 19すなはち御言(みことば)をきけど、()心勞(こころづかひ)財貨(たから)(まどひ)、さまざまの(よく)いりきたり、御言(みことば)(ふさ)ぐによりて、(つひ)(みの)らざるなり。 20()かれて()()にありとは、かかる(ひと)をいふ、(すなは)御言(みことば)()きて()け、三十(さんじふ)(ばい)六十(ろくじふ)(ばい)(ひゃく)(ばい)()(むす)ぶなり』
21また()ひたまふ『(ます)のした、寢臺(ねだい)(した)におかんとて、燈火(ともしび)をもち(きた)るか、燈臺(とうだい)(うへ)におく(ため)ならずや。 22それ(あらは)るる(ため)ならで(かく)るるものなく、(あきら)かにせらるる(ため)ならで()めらるるものなし。 23()(みみ)ある(もの)()くべし』 24また()(たま)ふ『なんぢら()くことに(こころ)せよ、(なんぢ)らが(はか)(はかり)にて(はか)られ、(さら)()(くは)へらるべし。 25それ()てる(ひと)は、なほ(あた)へられ、()たぬ(ひと)は、()てる(もの)をも()らるべし』
26また()ひたまふ『(かみ)(くに)は、(ある)(ひと)たねを()()くが(ごと)し、 27日夜(にちや)起臥(おきふし)するほどに、(たね)はえ()でて(そだ)てども、その(ゆゑ)()らず。 28()はおのづから()(むす)ぶものにして、(はじめ)には(なへ)、つぎに()、つひに()(なか)()()れる(こく)なる。 29()みのれば(ただ)ちに(かま)()る、收穫時(かりいれどき)(いた)れるなり』
30また()(たま)ふ『われら(かみ)(くに)(なに)になずらへ、如何(いか)なる(たとへ)をもて(しめ)さん。 31一粒(ひとつぶ)芥種(からしだね)のごとし、()()(とき)は、()にある(よろづ)(たね)よりも(ちひさ)けれど、 32(すで)()きて()()づれば、(よろづ)野菜(やさい)よりは(おほき)く、かつ(おほい)なる(えだ)(いだ)して、(そら)(とり)その(かげ)()()るほどになるなり』
33かくのごとき數多(あまた)(たとへ)をもて、人々(ひとびと)()きうる(ちから)(したが)ひて、御言(みことば)(かた)り、 34(たとへ)ならでは(かた)(たま)はず、弟子(でし)たちには、(ひと)なき(とき)(すべ)ての(こと)()(たま)へり。
35その()(ゆふべ)になりて()(たま)ふ『いざ彼方(かなた)()かん』 36弟子(でし)たち群衆(ぐんじゅう)(はな)れ、イエスの(ふね)にゐ(たま)ふまま(とも)()()づ、(ほか)(ふね)(したが)ひゆく。 37(とき)(はげ)しき颶風(はやて)おこり、(なみ)うち()みて、(ふね)滿()つるばかりなり。 38イエスは(とも)(かた)(しとね)(まくら)として()ねたまふ。弟子(でし)たち()(おこ)して()ふ『()よ、(われ)らの(ほろ)ぶるを(かへり)(たま)はぬか』 39イエス()きて(かぜ)をいましめ、(うみ)()ひたまふ『(もだ)せ、(しづま)れ』(すなは)(かぜ)やみて、(おほい)なる(なぎ)となりぬ。 40かくて弟子(でし)たちに()(たま)ふ『なに(ゆゑ)かく(おく)するか、信仰(しんかう)なきは(なに)ぞ』 41かれら(いた)(おそ)れて(たがひ)()ふ『こは(たれ)ぞ、(かぜ)(うみ)(したが)ふとは』

第五章

1かくて(うみ)彼方(かなた)なるゲラセネ(ひと)()(いた)る。 2イエスの(ふね)より(あが)(たま)ふとき、(けが)れし(れい)()かれたる(ひと)(はか)より()でて(ただ)ちに()ふ。 3この(ひと)(はか)住處(すみか)とす、(くさり)にてすら(いま)(たれ)(つな)()ず。 4(かれ)はしばしば足械(あしかせ)(くさり)とにて(つな)がれたれど、(くさり)をちぎり、足械(あしかせ)をくだきたり、(たれ)(これ)(せい)する(ちから)なかりしなり。 5(よる)(ひる)も、()えず(はか)あるひは(やま)にて(さけ)び、(おの)()(いし)にて(きず)つけゐたり。 6かれ(はるか)にイエスを()て、(はし)りきたり、御前(みまへ)平伏(ひれふ)し、 7大聲(おほごゑ)(さけ)びて()ふ『いと(たか)(かみ)()イエスよ、(われ)(なんぢ)(なに)關係(かかはり)あらん、(かみ)によりて(ねが)ふ、(われ)(くる)しめ(たま)ふな』 8これはイエス『(けが)れし(れい)よ、この(ひと)より()()け』と()(たま)ひしに()るなり。 9イエスまた『なんぢの()(なに)か』と()(たま)へば『わが()はレギオン、(われ)(おほ)きが(ゆゑ)なり』と(こた)へ、 10また(おのれ)らを()()(そと)()ひやり(たま)はざらんことを(せつ)(もと)む。 11彼處(かしこ)山邊(やまべ)(ぶた)(おほい)なる(むれ)(しょく)しゐたり。 12惡鬼(あくき)どもイエスに(もと)めて()ふ『われらを(つかは)して(ぶた)()らしめ(たま)へ』 13イエス(ゆる)したまふ。(けが)れし(れい)いでて、(ぶた)()りたれば、二千(にせん)(びき)ばかりの(むれ)(うみ)(むか)ひて(がけ)()けくだり、(うみ)(おぼ)れたり。 14()(もの)ども()()きて、(まち)にも(さと)にも()げたれば、人々(ひとびと)何事(なにごと)(おこ)りしかを()んとて()づ。 15かくてイエスに(きた)り、惡鬼(あくき)()かれたりし(もの)(すなは)ちレギオンをもちたりし(もの)の、衣服(ころも)をつけ、(たしか)なる(こころ)にて()しをるを()て、(おそ)れあへり。 16かの惡鬼(あくき)()かれたる(もの)(うへ)にありし(こと)と、(ぶた)(こと)とを()(もの)ども、(これ)(つぶさ)()げたれば、 17人々(ひとびと)イエスにその(さかひ)()(たま)はん(こと)(もと)む。 18イエス(ふね)()らんとし(たま)ふとき、惡鬼(あくき)()かれたりしもの(とも)()らん(こと)(ねが)ひたれど、 19(ゆる)さずして()(たま)ふ『なんぢの(いへ)に、(した)しき(もの)(かへ)りて、(しゅ)がいかに(おほい)なる(こと)(なんぢ)()し、いかに(なんぢ)(あはれ)(たま)ひしかを()げよ』 20(かれ)ゆきて、イエスの如何(いか)(おほい)なる(こと)(おのれ)になし(たま)ひしかを、デカポリスに()(ひろ)めたれば、人々(ひとびと)みな(あや)しめり。
21イエス(ふね)にて(また)かなたに(わた)(たま)ひしに、(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)みもとに(あつま)る、イエス海邊(うみべ)(いま)せり。 22會堂(くわいだう)(つかさ)一人(ひとり)、ヤイロという(もの)きたり、イエスを()て、その足下(あしもと)()し、 23(せつ)(ねが)ひて()ふ『わが(いとけ)なき(むすめ)、いまはの(きは)なり、(きた)りて()をおき(たま)へ、さらば(すく)はれて()くべし』 24イエス(かれ)(とも)にゆき(たま)へば、(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)したがひつつ御許(みもと)押迫(おしせま)る。
25ここに(じふ)二年(にねん)血漏(ちらう)(わづら)ひたる(をんな)あり。 26(おほ)くの醫者(いしゃ)(おほ)(くる)しめられ、()てる(もの)をことごとく(つひや)したれど、(なに)(かひ)なく、(かへ)つて増々(ますます)()しくなりたり。 27イエスの(こと)をききて、群衆(ぐんじゅう)にまじり、(うしろ)(きた)りて、御衣(みころも)にさはる、 28『その(ころも)にだに(さは)らば(すく)はれん』と(みづか)()へり。 29かくて()(いづみ)ただちに(かわ)き、(やまひ)のいえたるを()(おぼ)えたり。 30イエス(ただ)ちに能力(ちから)(おのれ)より()でたるを(みづか)()り、群衆(ぐんじゅう)(なか)にて、振反(ふりかへ)()ひたまふ『(たれ)(われ)(ころも)(さは)りしぞ』 31弟子(でし)たち()ふ『群衆(ぐんじゅう)押迫(おしせま)るを()て、(たれ)(われ)(さは)りしぞと()(たま)ふか』 32イエスこの(こと)()しし(もの)()んとて見囘(みまは)(たま)ふ。 33(をんな)おそれ(おのの)き、(おの)()になりし(こと)()り、(きた)りて御前(みまへ)平伏(ひれふ)し、ありしままを()ぐ。 34イエス()(たま)ふ『(むすめ)よ、なんぢの信仰(しんかう)なんぢを(すく)へり、(やす)らかに()け、(やまひ)いえて(すこや)かになれ』
35かく(かた)(たま)ふほどに、會堂(くわいだう)(つかさ)(いへ)より人々(ひとびと)きたりて()ふ『なんぢの(むすめ)()()にたり、(いか)でなほ()(わづら)はすべき』 36イエス()()ぐる(ことば)(かたへ)より()きて、會堂(くわいだう)(つかさ)()ひたまふ『(おそ)るな、ただ(しん)ぜよ』 37かくてペテロ、ヤコブその兄弟(きゃうだい)ヨハネの(ほか)は、ともに()(こと)(たれ)にも(ゆる)(たま)はず。 38(かれ)會堂(くわいだう)(つかさ)(いへ)(きた)る。イエス(おほ)くの(ひと)の、(いた)()きつ(さけ)びつする(さわぎ)()39()りて()(たま)ふ『なんぞ(さわ)ぎかつ()くか、幼兒(をさなご)()にたるにあらず、()ねたるなり』 40人々(ひとびと)イエスを嘲笑(あざわら)ふ。イエス(かれ)()をみな(そと)(いだ)し、幼兒(をさなご)(ちち)(はは)(おのれ)(ともな)へる(もの)とを()きつれて、幼兒(をさなご)のをる(ところ)()り、 41幼兒(をさなご)()()りて『タリタ、クミ』と()ひたまふ。少女(せうじょ)よ、(われ)なんぢに()ふ、()きよ、との(こころ)なり。 42(ただ)ちに少女(せうじょ)たちて(あゆ)む、その(とし)十二(じふに)なりければなり。(かれ)(ただ)ちに(いた)(をどろ)きおどろけり。 43イエス()(こと)(たれ)にも()れぬやうにせよと、(かた)(かれ)らを(いまし)め、また食物(しょくもつ)(むすめ)(あた)ふることを(めい)(たま)ふ。

第六章

1かくて其處(そこ)をいで、(おの)(さと)(いた)(たま)ひしに、弟子(でし)たちも(したが)へり。 2安息(あんそく)(にち)になりて、會堂(くわいだう)にて(をし)(はじ)(たま)ひしに、()きたる(おほ)くのもの(をどろ)きて()ふ『この(ひと)(これ)()のことを何處(いづこ)より()しぞ、()(ひと)(さづ)けられたる智慧(ちゑ)(なに)ぞ、その()にて()すかくのごとき能力(ちから)あるわざは(なに)ぞ。 3()(ひと)木匠(たくみ)にして、マリヤの()、またヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの兄弟(きゃうだい)ならずや、()姉妹(しまい)此處(ここ)(われ)らと(とも)にをるに(あら)ずや』(つひ)(かれ)(つまづ)けり。 4イエス(かれ)らに()ひたまふ『預言者(よげんしゃ)は、おのが(さと)、おのが親族(しんぞく)、おのが(いへ)(ほか)にて(たふと)ばれざる(こと)なし』 5彼處(かしこ)にては、(なに)能力(ちから)ある(わざ)をも(おこな)(たま)ふこと(あた)はず、ただ少數(せうすう)()める(もの)に、()をおきて(いや)(たま)ひしのみ。 6(かれ)らの信仰(しんかう)なきを(あや)しみ(たま)へり。
かくて村々(むらむら)()(めぐ)りて(をし)(たま)ふ。 7また十二(じふに)弟子(でし)()し、二人(ふたり)づつ(つかは)しはじめ、(けが)れし(れい)(せい)する權威(けんゐ)(あた)へ、 8かつ(たび)のために、(つゑ)(ひと)つの(ほか)は、(なに)をも()たず、(かて)(ふくろ)(おび)(なか)(ぜに)をも()たず、 9ただ草鞋(わらぢ)ばかりをはきて、(ふた)つの下衣(したぎ)をも()ざることを(めい)(たま)へり。 10かくて()ひたまふ『何處(いづこ)にても(ひと)(いへ)()らば、その()()るまで其處(そこ)(とどま)れ。 11何地(いづち)にても(なんぢ)らを()けず、(なんぢ)らに()かずば、其處(そこ)()づるとき、(あかし)のために(あし)(うら)(ちり)(はら)へ』 12ここに弟子(でし)たち()()きて、悔改(くいあらた)むべきことを宣傅(のべつた)へ、 13(おほ)くの惡鬼(あくき)()ひいだし、(おほ)くの()める(もの)(あぶら)をぬりて(いや)せり。
14かくてイエスの()(あらは)れたれば、ヘロデ(わう)ききて()ふ『バプテスマのヨハネ死人(しにん)(うち)より(よみが)へりたり。この(ゆゑ)(これ)()能力(ちから)その(うち)(はたら)くなり』 15(ある)(ひと)は『エリヤなり』といひ、(ある)(ひと)は『預言者(よげんしゃ)、いにしへの預言者(よげんしゃ)のごとき(もの)なり』といふ。 16ヘロデ()きて()ふ『わが首斬(くびき)りしヨハネ、かれ(よみが)へりたるなり』 17ヘロデ(さき)にその(めと)りたる(おの)兄弟(きゃうだい)ピリポの(つま)ヘロデヤの(ため)に、みづから(ひと)(つかは)し、ヨハネを(とら)へて(ひとや)(つな)げり。 18ヨハネ、ヘロデに『その兄弟(きゃうだい)(つま)()るるは(よろ)しからず』と()へるに()る。 19ヘロデヤ、ヨハネを(うら)みて(ころ)さんと(おも)へど(あた)はず。 20それはヘロデ、ヨハネの()にして(せい)なる(ひと)たるを()りて、(これ)(おそ)れ、(これ)(まも)り、(かつ)つその(をしへ)をききて、(おほい)(なや)みつつも、なほ(よろこ)びて()きたる(ゆゑ)なり。 21(しか)るに(をり)よき()(きた)れり。ヘロデ(おの)誕生日(たんじゃうび)に、大臣(だいじん)將校(しゃうこう)・ガリラヤの貴人(きにん)たちを(まね)きて饗宴(ふるまひ)せしに、 22かのヘロデヤの(むすめ)いり(きた)りて、(まひ)をまひ、ヘロデと()(せき)(つらな)れる(もの)とを(よろこ)ばしむ。(わう)少女(せうじょ)()ふ『(なに)にても()しく(おも)ふものを(もと)めよ、(われ)あたへん』 23また(ちか)ひて()ふ『なんぢ(もと)めば、()(くに)(なかば)までも(あた)へん』 24(むすめ)いでて(はは)にいふ『(なに)(もと)むべきか』(はは)いふ『バプテスマのヨハネの(くび)を』 25(むすめ)ただちに(いそ)ぎて(わう)(もと)()りきたり、(もと)めて()ふ『ねがはくは、バプテスマのヨハネの(くび)(ぼん)()せて(すみや)かに(たま)はれ』 26(わう)いたく(うれ)ひたれど、その(ちかひ)(せき)()(もの)とに(たい)して(こば)むことを(この)まず、 27(ただ)ちに衞兵(ゑいへい)(つかは)し、(これ)にヨハネの(くび)()(きた)ることを(めい)ず、衞兵(ゑいへい)ゆきて、(ひとや)にてヨハネを首斬(くびき)り、 28その(くび)(ぼん)にのせ、()(きた)りて少女(せうじょ)(あた)ふ、少女(せうじょ)これを(はは)(あた)ふ。 29ヨハネの弟子(でし)たち()きて(きた)り、その屍體(しかばね)()りて(はか)(をさ)めたり。
30使徒(しと)たちイエスの(もと)(あつま)りて、その()ししこと、(をし)へし(こと)をことごとく()ぐ。 31イエス()(たま)ふ『なんぢら(ひと)()け、(さび)しき(ところ)に、いざ(きた)りて(しば)(いこ)へ』これは往來(ゆきき)(ひと)おほくして、(しょく)する(ひま)だになかりし(ゆゑ)なり。 32かくて(ひと)()け、(ふね)にて(さび)しき(ところ)にゆく。 33()()くを()て、(おほ)くの(ひと)それと()り、その(ところ)()して、町々(まちまち)より徒歩(かち)にてともに(はし)り、(かれ)()よりも(さき)()けり。 34イエス()でて(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)()、その()(もの)なき(ひつじ)(ごと)くなるを(いた)(あはれ)みて、(おほ)くの(こと)(をし)へはじめ(たま)ふ。 35(とき)すでに(おそ)くなりたれば、弟子(でし)たち御許(みもと)(きた)りていふ『ここは(さび)しき(ところ)、はや(とき)(おそ)し。 36人々(ひとびと)()らしめ、周圍(まはり)(さと)また(むら)()きて、(おの)がために食物(しょくもつ)()はせ(たま)へ』 37(こた)へて()(たま)ふ『なんぢら食物(しょくもつ)(あた)へよ』弟子(でし)たち()ふ『われら()きて()(ひゃく)デナリのパンを()ひ、これに(あた)へて(くら)はすべきか』 38イエス()(たま)ふ『パン(いく)つあるか、()きて()よ』(かれ)()ていふ『(いつ)つ、また(うを)(ふた)つあり』 39イエス(すべ)ての(ひと)組々(くみぐみ)となりて、(あを)(くさ)(うへ)()することを(めい)(たま)へば、 40(あるひ)(ひゃく)(にん)、あるひは()(じふ)(にん)(うね)のごとく(なら)びて()す。 41かくてイエス(いつ)つのパンと(ふた)つの(うを)とを()り、(てん)(あふ)ぎて(しく)し、パンをさき、弟子(でし)たちに(わた)して人々(ひとびと)(まへ)()かしめ、(ふた)つの(うを)をも(ひと)(ごと)()(たま)ふ。 42(すべ)ての(ひと)(くら)ひて()きたれば、 43パンの(あまり)(うを)(のこり)(あつ)めしに、十二(じふに)(かご)滿()ちたり。 44パンを(くら)ひたる(をとこ)()(せん)(にん)なりき。
45イエス(ただ)ちに、弟子(でし)たちを()ひて(ふね)()らせ、(みづか)群衆(ぐんじゅう)(かへ)()に、彼方(かなた)なるベツサイダに(さき)()かしむ。 46群衆(ぐんじゅう)(わか)れてのち、(いの)らんとて(やま)にゆき(たま)ふ。 47(ゆふべ)になりて、(ふね)(うみ)眞中(まなか)にあり、イエスはひとり(をか)(いま)す。 48(かぜ)(さから)ふに()りて、弟子(でし)たちの()(わづら)ふを()て、夜明(よあけ)四時(よじ)ごろ、(うみ)(うへ)(あゆ)み、その(もと)(いた)りて、()()ぎんとし(たま)ふ。 49弟子(でし)たち()(うみ)(うへ)(あゆ)(たま)ふを()變化(へんげ)(もの)ならんと(おも)ひて(さけ)ぶ。 50(みな)これを()(こころ)(さわ)ぎたるに()る。イエス(ただ)ちに(かれ)らに(かた)りて()(たま)ふ『(こころ)(やす)かれ、(われ)なり、(おそ)るな』 51かくて弟子(でし)たちの(もと)にゆき、(ふね)(のぼ)(たま)へば、(かぜ)やみたり。弟子(でし)たち(こころ)(うち)にて(いた)(をどろ)く、 52(かれ)らは(さき)のパンの(こと)をさとらず、(かへ)つて()(こころ)(にぶ)くなりしなり。
53(つひ)(わた)りてゲネサレの()()き、(ふね)がかりす。 54(ふね)より(あが)りしに、人々(ひとびと)ただちにイエスを(みと)めて、 55(あまね)くあたりを()せまはり、その(いま)すと()處々(ところどころ)に、(わづら)(もの)(とこ)のままつれ(きた)る。 56その(いた)りたまふ(ところ)には、(むら)にても、(まち)にても、(さと)にても、()める(もの)市場(いちば)におきて、御衣(みころも)(ふさ)にだに(さは)らしめ(たま)はんことを(ねが)ふ。(さは)りし(もの)は、みな(いや)されたり。

第七章

1パリサイ(びと)(ある)學者(がくしゃ)らと、エルサレムより(きた)りてイエスの(もと)(あつま)る。 2(しか)して、その弟子(でし)たちの(うち)に、(きよ)からぬ()(すなは)(あら)はぬ()にて食事(しょくじ)する(もの)のあるを()たり。 3パリサイ(びと)および(すべ)てのユダヤ(びと)は、(いにし)への(ひと)言傳(いひつたへ)(かた)()りて、(ねんご)ろに()(あら)はねば(くら)はず。 4また市場(いちば)より(かへ)りては、まず(みそ)がざれば(くら)はず。このほか酒杯(さかづき)(はち)(あかがね)(うつは)(すす)ぐなど、(おほ)くの(つたへ)()けて(かた)()りたり。 5パリサイ(びと)および學者(がくしゃ)らイエスに()ふ『なにゆゑ(なんぢ)弟子(でし)たちは、(いにし)への(ひと)言傳(いひつたへ)(したが)ひて(あゆ)まず、(きよ)からぬ()にて食事(しょくじ)するか』 6イエス()(たま)ふ『イザヤは(なんぢ)僞善者(ぎぜんしゃ)につきて()預言(よげん)せり。
「この(たみ)口唇(くちびる)にて(われ)(うやま)ふ、
されどその(こころ)(われ)(とほ)ざかる。
7ただ(いたづ)らに(われ)(をが)む、
(ひと)訓誡(いましめ)(をしへ)とし(をし)へて」
(しる)したり。 8なんぢらは(かみ)誡命(いましめ)(はな)れて、(ひと)言傳(いひつたへ)(かた)()る』 9また()ひたまふ『(なんぢ)()はおのれの言傳(いひつたへ)(まも)らんとて、()くも(かみ)誡命(いましめ)()つ。 10(すなは)ちモーセは「なんぢの(ちち)、なんぢの(はは)(うやま)へ」といひ「(ちち)また(はは)(ののし)(もの)は、(かなら)(ころ)さるべし」といへり。 11(しか)るに(なんぢ)らは「(ひと)もし(ちち)また(はは)にむかひ、()(なんぢ)(たい)して()(ところ)のものは、コルバン(すなは)供物(そなへもの)なりと()はば()し」と()ひて、 12そののち(ひと)をして、(ちち)また(はは)(つか)ふること()からしむ。 13かく(なんぢ)らの(つた)へたる言傳(いひつたへ)によりて、(かみ)(ことば)(むな)しうし、(また)おほく()(たぐひ)(こと)をなしをるなり』 14(さら)群衆(ぐんじゅう)()()せて()(たま)ふ『なんぢら(みな)われに()きて(さと)れ。 15(そと)より(ひと)()りて、(ひと)(けが)()るものなし、されど(ひと)より()づるものは、これ(ひと)(けが)すなり』 16[なし] 17イエス群衆(ぐんじゅう)(はな)れて(いへ)()(たま)ひしに、弟子(でし)たち()(たとへ)()ふ。 18(かれ)らに()(たま)ふ『なんぢらも()(さとり)なきか、(そと)より(ひと)()(もの)の、(ひと)(けが)しえぬを(さと)らぬか、 19これ(こころ)には()らず、(はら)()りて(かはや)におつるなり』かく(すべ)ての食物(しょくもつ)(きよ)しとし(たま)へり。 20また()ひたまふ『(ひと)より()づるものは、これ(ひと)(けが)すなり。 21それ(うち)より、(ひと)(こころ)より、()しき(おもひ)いづ、(すなは)淫行(いんかう)竊盜(ぬすみ)殺人(ひとごろし)22姦淫(かんいん)慳貪(むさぼり)邪曲(よこしま)詭計(たばかり)好色(かうしょく)嫉妬(ねたみ)誹謗(そしり)傲慢(がうまん)愚痴(ぐち)23すべて(これ)()()しき(こと)は、(うち)より()でて(ひと)(けが)すなり』
24イエス()ちて此處(ここ)()り、ツロの地方(ちはう)()き、(いへ)()りて(ひと)()られじとし(たま)ひたれど、(かく)るること(あた)はざりき。 25ここに(けが)れし(れい)()かれたる(いとけ)なき(むすめ)をもてる(をんな)、ただちにイエスの(こと)をきき、(きた)りて御足(みあし)(もと)平伏(ひれふ)す。 26この(をんな)はギリシヤ(びと)にて、スロ・フェニキヤの(うまれ)なり。その(むすめ)より惡鬼(あくき)()(いだ)(たま)はんことを()ふ。 27イエス()(たま)ふ『まづ子供(こども)()かしむべし、子供(こども)のパンをとりて小狗(こいぬ)()(あた)ふるは()からず』 28(をんな)こたへて()ふ『(しか)り、(しゅ)よ、食卓(しょくたく)(した)小狗(こいぬ)子供(こども)食屑(たべくず)(くら)ふなり』 29イエス()(たま)ふ『なんぢ()(ことば)によりて[(やす)んじ]()け、惡鬼(あくき)(すで)(むすめ)より()でたり』 30をんな(いへ)(かへ)りて()るに、()寢臺(ねだい)(うへ)()し、惡鬼(あくき)(すで)()でたり。
31イエスまたツロの地方(ちはう)()りて、シドンを()ぎ、デカポリスの地方(ちはう)()て、ガリラヤの(うみ)(きた)(たま)ふ。 32人々(ひとびと)耳聾(みみしひ)にして(もの)()ふこと(かた)(もの)()(きた)りて、(これ)()をおき(たま)はんことを(ねが)ふ。 33イエス群衆(ぐんじゅう)(なか)より、(かれ)をひとり()(いだ)し、その兩耳(りゃうみみ)(ゆび)をさし()れ、また(つばき)して()(した)(さは)り、 34(てん)(あふ)ぎて(たん)じ、その(ひと)(むか)ひて『エパタ』と()(たま)ふ、ひらけよとの(こころ)なり。 35かくてその(みみ)ひらけ、(した)(もつれ)ただちに()け、(ただ)しく(もの)いへり。 36イエス(たれ)にも()ぐなと人々(ひとびと)(いまし)めたまふ。されど(いまし)むるほど(かへ)つて愈々(いよいよ)()(ひろ)めたり。 37また(はなは)だしく打驚(うちをどろ)きて()ふ『かれの()しし(こと)(みな)よし、聾者(みみしひ)をも(きこ)えしめ、唖者(おふし)をも(もの)いはしむ』

第八章

1その(ころ)また(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)にて(くら)ふべき(もの)なかりしかば、イエス弟子(でし)たちを()して()(たま)ふ、 2『われ()群衆(ぐんじゅう)(あはれ)む、(すで)三日(みっか)われと(とも)にをりて、(くら)ふべき(もの)なし。 3()ゑしままにて()(いへ)(かへ)らしめば、(みち)にて(つか)()てん。()(なか)には(とほ)くより(きた)れる(もの)あり』 4弟子(でし)たち(こた)へて()ふ『この(さび)しき()にては、何處(いづこ)よりパンを()て、この人々(ひとびと)()かしむべき』 5イエス()(たま)ふ『パン(いく)つあるか』(こた)へて『(なな)つ』といふ。 6イエス群衆(ぐんじゅう)(めい)じて()()せしめ、(なな)つのパンを()り、(しゃ)して(これ)()き、弟子(でし)たちに(あた)へて群衆(ぐんじゅう)(まへ)におかしむ。弟子(でし)たち(すなは)ちその(まへ)におく。 7また(ちひさ)(うを)すこしばかりあり、(しく)して、(これ)をもその(まへ)におけと()(たま)ふ。 8人々(ひとびと)(くら)ひて()き、()きたる(あまり)(ひろ)ひしに、(なな)つの(かご)滿()ちたり。 9その(ひと)おほよそ四千(しせん)(にん)なりき。イエス(かれ)らを(かへ)し、 10(ただ)ちに弟子(でし)たちと(とも)(ふね)()りて、ダルマヌタの地方(ちはう)()(たま)へり。
11パリサイ(びと)いで(きた)りて、イエスと(ろん)じはじめ、(これ)(こころ)みて(てん)よりの(しるし)をもとむ。 12イエス(こころ)(ふか)(たん)じて()(たま)ふ『なにゆゑ(いま)()(しるし)(もと)むるか、まことに(なんぢ)らに()ぐ、(しるし)(いま)()()えて(あた)へられじ』 13かくて(かれ)らを(はな)れ、また(ふね)()りて彼方(かなた)()(たま)ふ。
14弟子(でし)たちパンを(たづさ)ふることを(わす)れ、(ふね)には唯一(ただひと)つの(ほか)パンなかりき。 15イエス(かれ)らを(いまし)めて()ひたまふ『(つつし)みて、パリサイ(びと)のパンだねと、ヘロデのパンだねとに(こころ)せよ』 16弟子(でし)たち(たがひ)に、これはパン()(ゆゑ)ならんと(かた)()ふ。 17イエス()りて()ひたまふ『(なに)ぞパン()(ゆゑ)ならんと(かた)()ふか、(いま)()らぬか、(さと)らぬか、(なんぢ)らの(こころ)なほ(にぶ)きか。 18()ありて()ぬか、(みみ)ありて()かぬか。(また)なんぢら(おも)()でぬか、 19(いつ)つのパンを()きて、()(せん)(にん)(あた)へし(とき)、その(あまり)幾筐(いくかご)ひろひしか』弟子(でし)たち()ふ『十二(じふに)20(なな)つのパンを()きて四千(しせん)(にん)(あた)へし(とき)、その(あまり)幾籃(いくかご)ひろひしか』弟子(でし)たち()ふ『(なな)つ』 21イエス()ひたまふ『(いま)(さと)らぬか』
22(かれ)(つひ)にベツサイダに(いた)る。人々(ひとびと)盲人(めしひ)をイエスに()(きた)りて、(さは)(たま)はんことを(ねが)ふ。 23イエス盲人(めしひ)()をとりて、(むら)(そと)()()き、その()(つばき)し、御手(みて)をあてて『なにか()ゆるか』と()(たま)へば、 24()()げて()ふ『(ひと)()る、それは()(ごと)(もの)(ある)くが()ゆ』 25また御手(みて)をその()にあて(たま)へば、視凝(みつ)めたるに、()えて(すべ)てのもの(あきら)かに()えたり。 26かくて『(むら)にも()るな』と()ひて、その(いへ)(かへ)(たま)へり。
27イエス()弟子(でし)たちとピリポ・カイザリヤの村々(むらむら)()でゆき、(みち)にて弟子(でし)たちに()ひて()ひたまふ『人々(ひとびと)(われ)(たれ)()ふか』 28(こた)へて()ふ『バプテスマのヨハネ、(ある)(ひと)はエリヤ、(ある)(ひと)預言者(よげんしゃ)一人(ひとり)29また()(たま)ふ『なんぢらは(われ)(たれ)()ふか』ペテロ(こた)へて()ふ『なんぢはキリストなり』 30イエス(おの)がことを(たれ)にも()ぐなと、(かれ)らを(いまし)(たま)ふ。 31かくて(ひと)()(かなら)(おほ)くの苦難(くるしみ)をうけ、長老(ちゃうらう)祭司長(さいしちゃう)學者(がくしゃ)らに()てられ、かつ(ころ)され、三日(みっか)(のち)(よみが)へるべき(こと)(をし)へはじめ、 32()(こと)をあらはに(かた)(たま)ふ。ここにペテロ、イエスを(かたへ)にひきて(いまし)()でたれば、 33イエス振反(ふりかへ)りて弟子(でし)たちを()、ペテロを(いまし)めて()(たま)ふ『サタンよ、わが(うしろ)退(しりぞ)け、(なんぢ)(かみ)のことを(おも)はず、(かへ)つて(ひと)のことを(おも)ふ』 34かくて群衆(ぐんじゅう)弟子(でし)たちと(とも)()()せて()ひたまふ『(ひと)もし(われ)(したが)(きた)らんと(おも)はば、(おのれ)をすて、(おの)十字架(じふじか)()ひて(われ)(したが)へ。 35(おの)生命(いのち)(すく)はんと(おも)(もの)は、これを(うしな)ひ、()(ため)また福音(ふくいん)(ため)(おの)生命(いのち)をうしなふ(もの)は、(これ)(すく)はん。 36(ひと)全世界(ぜんせかい)(まう)くとも、(おの)生命(いのち)(そん)せば、(なに)(えき)あらん、 37(ひと)その生命(いのち)(しろ)(なに)(あた)へんや。 38不義(ふぎ)なる(つみ)(ふか)(いま)()にて、(われ)または()(ことば)()づる(もの)をば、(ひと)()もまた、(ちち)榮光(えいくわう)をもて、(せい)なる御使(みつかひ)たちと(とも)(きた)らん(とき)()づべし』

第九章

1また()(たま)ふ『まことに(なんぢ)らに()ぐ、此處(ここ)()(もの)のうちに、(かみ)(くに)の、權能(ちから)をもて(きた)るを()るまでは、()(あぢ)はぬ(もの)どもあり』
2六日(むゆか)(のち)、イエスただペテロ、ヤコブ、ヨハネのみを()きつれ、(ひと)()けて(たか)(やま)(のぼ)りたまふ。かくて(かれ)らの(まへ)にて()(さま)かはり、 3()(ころも)かがやきて(はなは)(しろ)くなりぬ、()晒布者(ぬのさらし)()()ぬほど(しろ)し。 4エリヤ、モーセともに(かれ)らに(あらは)れて、イエスと(かた)りゐたり。 5ペテロ差出(さしい)でてイエスに()ふ『ラビ、(われ)らの此處(ここ)()るは()し。われら()つの(いほり)(つく)り、(ひと)つを(なんぢ)のため、(ひと)つをモーセのため、(ひと)つをエリヤのためにせん』 6(かれ)()いたく(おそ)れたれば、ペテロ(なに)()ふべきかを()らざりしなり。 7かくて(くも)おこり、(かれ)らを(おほ)ふ。(くも)より(こゑ)()づ『これは()(いつく)しむ()なり、(なんぢ)(これ)()け』 8弟子(でし)たち(いそ)見囘(みまは)すに、イエスと(おのれ)らとの(ほか)には、はや(たれ)()えざりき。 9(やま)をくだる(とき)、イエス(かれ)らに、(ひと)()の、死人(しにん)(うち)より(よみが)へるまでは、()しことを(たれ)にも(かた)るなと(いまし)(たま)ふ。 10(かれ)()(ことば)(こころ)にとめ『死人(しにん)(うち)より(よみが)へる』とは、如何(いか)なる(こと)ぞと(たがひ)(ろん)()ふ。 11かくてイエスに()ひて()ふ『學者(がくしゃ)たちは、(なに)(ゆゑ)エリヤまづ(きた)るべしと()ふか』 12イエス()(たま)ふ『()にエリヤ()(きた)りて、(よろづ)(こと)をあらたむ。さらば(ひと)()につき、(おほ)くの苦難(くるしみ)()け、かつ(なみ)せらるる(こと)(しる)されたるは(なに)ぞや。 13されど(われ)なんぢらに()ぐ、エリヤは(すで)(きた)れり。(しか)るに(かれ)()きて(しる)されたる(ごと)く、人々(ひとびと)(こころ)のままに(これ)(あしら)へり』
14(あひ)(とも)弟子(でし)たちの(もと)(きた)りて、(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)(これ)(めぐ)り、學者(がくしゃ)たちの(これ)(ろん)じゐたるを()(たま)ふ。 15群衆(ぐんじゅう)みなイエスを()るや(いな)や、いたく(をどろ)き、御許(みもと)(はし)()きて(れい)をなせり。 16イエス()(たま)ふ『なんぢら(なに)(かれ)らと(ろん)ずるか』 17群衆(ぐんじゅう)のうちの一人(ひとり)こたふ『()よ、(おふし)(れい)()かれたる()()御許(みもと)()(きた)れり。 18(れい)いづこにても(かれ)()けば、痙攣(ひきつ)(あわ)をふき、()をくひしばり、(しか)して()(おとろ)ふ。御弟子(みでし)たちに(これ)()(いだ)すことを()ひたれど(あた)はざりき』 19ここに(かれ)らに()(たま)ふ『ああ(しん)なき()なるかな、(われ)いつまで(なんぢ)らと(とも)にをらん、何時(いつ)まで(なんぢ)らを(しの)ばん。その()()(もと)()れきたれ』 20(すなは)()れきたる。(かれ)イエスを()しとき、(れい)ただちに(これ)痙攣(ひきつ)けたれば、()(たふ)れ、(あわ)をふきて(ころ)(まは)る。 21イエスその(ちち)()(たま)ふ『いつの(ころ)より()くなりしか』(ちち)いふ『をさなき(とき)よりなり。 22(れい)しばしば(かれ)()のなか(みづ)(なか)()()れて(ほろぼ)さんとせり。されど(なんぢ)なにか()()ば、(われ)らを(あはれ)みて(たす)(たま)へ』 23イエス()ひたまふ『()()ばと()ふか、(しん)ずる(もの)には、(すべ)ての(こと)なし()らるるなり』 24その()(ちち)ただちに(さけ)びて()ふ『われ(しん)ず、信仰(しんかう)なき(われ)(たす)(たま)へ』 25イエス群衆(ぐんじゅう)(はし)(あつま)るを()て、(けが)れし(れい)(いまし)めて()ひたまふ『(おふし)にて耳聾(みみしひ)なる(れい)よ、(われ)なんぢに(めい)ず、この()より()でよ、(かさ)ねて()るな』 26(れい)さけびて(はなは)だしく痙攣(ひきつ)けさせて()でしに、その()死人(しにん)(ごと)くなりたれば、(おほ)くの(もの)これを()にたりと()ふ。 27イエスその()()りて(おこ)(たま)へば()てり。 28イエス(いへ)()(たま)ひしとき、弟子(でし)たち(ひそか)()ふ『我等(われら)いかなれば()(いだ)()ざりしか』 29(こた)(たま)ふ『この(たぐひ)(いのり)()らざれば、如何(いか)にすとも()でざるなり』
30此處(ここ)()りてガリラヤを()ぐ。イエス(ひと)()(こと)()るを(ほっ)(たま)はず。 31これは弟子(でし)たちに(をしへ)をなし、かつ『(ひと)()人々(ひとびと)()にわたされ、人々(ひとびと)これを(ころ)し、(ころ)されて三日(みっか)ののち(よみが)へるべし』と()(たま)ふが(ゆゑ)なり。 32弟子(でし)たちはその(ことば)(さと)らず、また()(こと)(おそ)れたり。
33かくてカペナウムに(いた)る。イエス(いへ)()りて弟子(でし)たちに()(たま)ふ『なんぢら(みち)すがら(なに)(ろん)ぜしか』 34弟子(でし)たち默然(もくねん)たり、これは(みち)すがら、(たれ)(おほい)ならんと、(たがひ)(あらそ)ひたるに()る。 35イエス()して十二(じふに)弟子(でし)()び、(これ)()ひたまふ『(ひと)もし(かしら)たらんと(おも)はば、(すべ)ての(ひと)(しりへ)となり、(すべ)ての(ひと)役者(えきしゃ)となるべし』 36かくてイエス幼兒(をさなご)をとりて(かれ)らの(なか)におき、(これ)(いだ)きて()(たま)ふ、 37『おほよそ()()のために()かる幼兒(をさなご)一人(ひとり)()くる(もの)は、(われ)()くるなり。(われ)()くる(もの)は、(われ)()くるにあらず、(われ)(つかは)しし(もの)()くるなり』
38ヨハネ()ふ『()よ、(われ)らに(したが)はぬ(もの)の、御名(みな)によりて惡鬼(あくき)()(いだ)すを()しが、(われ)らに(したが)はぬ(ゆゑ)に、(これ)(とど)めたり』 39イエス()ひたまふ『(とど)むな、()()のために能力(ちから)ある(わざ)をおこなひ、(にはか)(われ)(そし)()(もの)なし。 40(われ)らに(さから)はぬ(もの)は、(われ)らに()(もの)なり。 41キリストの(もの)たるによりて、(なんぢ)らに一杯(いっぱい)(みづ)()まする(もの)は、(われ)まことに(なんぢ)らに()ぐ、(かなら)ずその(むくい)(うしな)はざるべし。 42また(われ)(しん)ずる()(ちひさ)(もの)一人(ひとり)(つまづ)かする(もの)は、(むし)(おほい)なる碾臼(ひきうす)(くび)()けられて、(うみ)()()れられんかた(まさ)れり。 43もし(なんぢ)()なんぢを(つまづ)かせば、(これ)()()れ、不具(かたは)にて生命(いのち)()るは、兩手(りゃうて)ありてゲヘナの()えぬ()()くよりも(まさ)るなり。 44[なし] 45もし(なんぢ)(あし)なんぢを(つまづ)かせば、(これ)()()れ、蹇跛(あしなへ)にて生命(いのち)()るは、兩足(りゃうあし)ありてゲヘナに()()れらるるよりも(まさ)るなり。 46[なし] 47もし(なんぢ)()なんぢを(つまづ)かせば、(これ)()(いだ)せ、片眼(かため)にて(かみ)(くに)()るは、兩眼(りゃうめ)ありてゲヘナに()()れらるるよりも(まさ)るなり。 48彼處(かしこ)にては、その(うじ)つきず、()()えぬなり」 49それ(ひと)はみな()をもて(しほ)つけらるべし。 50(しほ)()きものなり、されど(しほ)もし()(しほ)()(うしな)はば、(なに)をもて(これ)(あぢ)つけん。(なんぢ)(こころ)(うち)(しほ)(たも)ち、かつ(たがひ)(やはら)ぐべし』

第十章

1イエス此處(ここ)をたちて、ユダヤの地方(ちはう)およびヨルダンの彼方(かなた)(きた)(たま)ひしに、群衆(ぐんじゅう)またも御許(みもと)(つど)ひたれば、(つね)のごとく(をし)(たま)ふ。 2(とき)にパリサイ(びと)(きた)(こころ)みて()ふ『(ひと)その(つま)(いだ)すはよきか』 3(こた)へて()(たま)ふ『モーセは(なんぢ)らに(なに)(めい)ぜしか』 4(かれ)()ふ『モーセは離縁状(りえんじゃう)()きて(いだ)すことを(ゆる)せり』 5イエス()(たま)ふ『(なんぢ)らの(こころ)つれなきによりて、()誡命(いましめ)(しる)ししなり。 6されど開闢(かいびゃく)(はじめ)より「(ひと)(をとこ)(をんな)とに(つく)(たま)へり」 7「かかる(ゆゑ)(ひと)はその(ちち)(はは)(はな)れて、 8二人(ふたり)のもの一體(いったい)となるべし」さればはや二人(ふたり)にはあらず、一體(いったい)なり。 9この(ゆゑ)(かみ)(あは)(たま)ふものは、(ひと)これを(はな)すべからず』 10(いへ)()りて弟子(でし)たち(また)この(こと)()ふ。 11イエス()(たま)ふ『おほよそ()(つま)(いだ)して(ほか)(めと)(もの)は、その(つま)(たい)して姦淫(かんいん)(おこな)ふなり。 12また(つま)もし()(をっと)()てて(ほか)(とつ)がば、姦淫(かんいん)(おこな)ふなり』
13イエスの(さは)(たま)はんことを(のぞ)みて、人々(ひとびと)幼兒(をさなご)らを()(きた)りしに、弟子(でし)たち(いまし)めたれば、 14イエス(これ)()、いきどほりて()ひたまふ『幼兒(をさなご)らの(われ)(きた)るを(ゆる)せ、(とど)むな、(かみ)(くに)()くのごとき(もの)(くに)なり。 15まことに(なんぢ)らに()ぐ、(おほよ)幼兒(をさなご)(ごと)くに(かみ)(くに)をうくる(もの)ならずば、(これ)()ること(あた)はず』 16かくて幼兒(をさなご)(いだ)き、()をその(うへ)におきて(しく)(たま)へり。
17イエス(みち)()(たま)ひしに、一人(ひとり)はしり(きた)り、(ひざま)づきて()ふ『()()よ、永遠(とこしへ)生命(いのち)()ぐためには、(われ)なにを()すべきか』 18イエス()(たま)ふ『なにゆゑ(われ)()しと()ふか、(かみ)ひとりの(ほか)()(もの)なし。 19誡命(いましめ)(なんぢ)()るところなり「(ころ)すなかれ」「姦淫(かんいん)するなかれ」「(ぬす)むなかれ」「僞證(ぎしょう)()つるなかれ」「(あざむ)()るなかれ」「(なんぢ)(ちち)(はは)とを(うやま)へ」』 20(かれ)いふ『()よ、われ(おさな)(とき)より(みな)これを(まも)れり』 21イエス(かれ)()をとめ、(いつく)しみて()(たま)ふ『なんぢ()(ひと)つを()く、()きて(なんぢ)()てる(もの)をことごとく()りて、(まづ)しき(もの)(ほどこ)せ、さらば財寶(たから)(てん)()ん。(かつ)きたりて(われ)(したが)へ』 22この(ことば)によりて、(かれ)(うれひ)(もよほ)し、(かな)しみつつ()りぬ、(おほい)なる資産(しさん)をもてる(ゆゑ)なり。
23イエス見囘(みまは)して弟子(でし)たちに()ひたまふ『(とみ)ある(もの)(かみ)(くに)()るは如何(いか)(かた)いかな』 24弟子(でし)たち()御言(みことば)(をどろ)く。イエスまた(こた)へて()(たま)ふ『()たちよ、(かみ)(くに)()るは如何(いか)(かた)いかな、 25()める(もの)(かみ)(くに)()るよりは、駱駝(らくだ)(はり)(あな)(とほ)るかた(かへ)つて(やす)し』 26弟子(でし)たち(いた)(をどろ)きて(たがひ)()ふ『さらば(たれ)(すく)はるる(こと)()ん』 27イエス(かれ)らに()()めて()ひたまふ『(ひと)には(あた)はねど、(かみ)には(しか)らず、()(かみ)(すべ)ての(こと)をなし()るなり』 28ペテロ、イエスに(むか)ひて『(われ)らは一切(いっさい)をすてて(なんぢ)(したが)ひたり』と()()でたれば、 29イエス()(たま)ふ『まことに(なんぢ)らに()ぐ、()がため、福音(ふくいん)のために、(あるひ)兄弟(きゃうだい)、あるひは姉妹(しまい)(あるひ)(ちち)(あるひ)(はは)(あるひ)()(あるひ)田畑(たはた)をすつる(もの)は、 30(たれ)にても(いま)(いま)(とき)(ひゃく)(ばい)()けぬはなし。(すなは)(いへ)兄弟(きゃうだい)姉妹(しまい)(はは)()田畑(たはた)迫害(はくがい)(とも)()け、また(のち)()にては、永遠(とこしへ)生命(いのち)()けぬはなし。 31されど(おほ)くの(さき)なる(もの)(あと)に、(あと)なる(もの)(さき)になるべし』
32エルサレムに(のぼ)(みち)にて、イエス(さき)だち()(たま)ひしかば、弟子(でし)たち(をどろ)き、(したが)()(もの)ども(おそ)れたり。イエス(ふたた)十二(じふに)弟子(でし)(ちか)づけて、(おの)()(おこ)らんとする(こと)どもを(かた)()(たま)33()よ、(われ)らエルサレムに(あが)る。(ひと)()祭司長(さいしちゃう)學者(がくしゃ)らに(わた)されん。(かれ)()(さだ)めて、異邦人(いはうじん)(わた)さん。 34異邦人(いはうじん)嘲弄(てうろう)し、(つばき)し、(むち)うち、(つひ)(ころ)さん、かくて(かれ)三日(みっか)(のち)(よみが)へるべし』
35ここにゼベダイの()ヤコブ、ヨハネ御許(みもと)(きた)りて()ふ『()よ、(ねが)はくは(われ)らが(なに)にても(もと)むる(ところ)()したまへ』 36イエス()(たま)ふ『わが(なんぢ)らに(なに)()さんことを(のぞ)むか』 37(かれ)()ふ『なんぢの榮光(えいくわう)(うち)にて、一人(ひとり)をその(みぎ)に、一人(ひとり)をその(ひだり)()せしめ(たま)へ』 38イエス()(たま)ふ『なんぢらは(もと)むる(ところ)()らず、(なんぢ)()わが()酒杯(さかづき)()み、()()くるバプテスマを()()るか』 39(かれ)()いふ『()るなり』イエス()(たま)ふ『なんぢら()()酒杯(さかづき)()み、また()()くるバプテスマを()くべし。 40されど()(みぎ)(ひだり)()することは、(われ)(あた)ふべきものならず、ただ(そな)へられたる(ひと)こそ(あた)へらるるなれ』 41(じふ)(にん)弟子(でし)これを()き、ヤコブとヨハネとの(こと)により(いきど)ほり()でたれば、 42イエス(かれ)らを()びて()ひたまふ『異邦人(いはうじん)(きみ)(みと)めらるる(もの)の、その(たみ)(つかさ)どり、(おほい)なる(もの)の、(たみ)(うへ)(けん)()ることは、(なんぢ)らの()(ところ)なり。 43されど(なんぢ)らの(うち)にては(しか)らず、(かへ)つて(おほい)ならんと(おも)(もの)は、(なんぢ)らの役者(えきしゃ)となり、 44(かしら)たらんと(おも)(もの)は、(すべ)ての(もの)(しもべ)となるべし。 45(ひと)()(きた)れるも、(つか)へらるる(ため)にあらず、(かへ)つて(つか)ふることをなし、(また)おほくの(ひと)贖償(あがなひ)として(おの)生命(いのち)(あた)へん(ため)なり』
46かくて(かれ)らエリコに(いた)る。イエスその弟子(でし)たち(およ)(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)(とも)に、エリコを()でたまふ(とき)、テマイの()バルテマイといふ盲目(めしひ)乞食(こつじき)(みち)(かたへ)()しをりしが、 47ナザレのイエスなりと()き、(さけ)(いだ)して()ふ『ダビデの()イエスよ、(われ)(あはれ)みたまへ』 48(おほ)くの(ひと)かれを(いまし)めて(もだ)さしめんとしたれど、ますます(さけ)びて『ダビデの()よ、(われ)(あはれ)みたまへ』と()ふ。 49イエス()(とどま)りて『かれを()べ』と()(たま)へば、人々(ひとびと)盲人(めしひ)()びて()ふ『(こころ)(やす)かれ、()て、なんぢを()びたまふ』 50盲人(めしひ)うはぎを()()て、(をど)(あが)りて、イエスの(もと)(きた)りしに、 51イエス(こた)へて()(たま)ふ『わが(なんぢ)(なに)()さんことを(のぞ)むか』盲人(めしひ)いふ『わが()よ、()えんことなり』 52イエス(かれ)に『ゆけ、(なんぢ)信仰(しんかう)なんぢを(すく)へり』と()(たま)へば、(ただ)ちに()ることを()、イエスに(したが)ひて(みち)()けり。

第十一章

1(かれ)らエルサレムに(ちか)づき、オリブ(やま)(ふもと)なるベテパゲ(およ)びベタニヤに(いた)りし(とき)、イエス二人(ふたり)弟子(でし)(つかは)さんとして()(たま)ふ、 2『むかひの(むら)にゆけ、其處(そこ)()らば、やがて(ひと)(いま)()りたることなき驢馬(ろば)()(つな)ぎあるを()ん、それを()きて()(きた)れ。 3(たれ)かもし(なんぢ)らに「なにゆゑ(しか)するか」と()はば「(しゅ)(よう)なり、(かれ)ただちに(かへ)さん」といへ』 4弟子(でし)たち()きて、(もん)(そと)(みち)驢馬(ろば)()(つな)ぎあるを()()きたれば、 5其處(そこ)()人々(ひとびと)のうちの(ある)(もの)『なんぢら驢馬(ろば)()()きて(なに)とするか』と()ふ。 6弟子(でし)たちイエスの()(たま)ひし(ごと)()ひしに、(かれ)(ゆる)せり。 7かくて弟子(でし)たち驢馬(ろば)()をイエスの(もと)()ききたり、(おの)(ころも)をその(うへ)()きたれば、イエス(これ)()(たま)ふ。 8(おほ)くの(ひと)(おの)(ころも)を、(ある)(ひと)()より()()りたる()(えだ)(みち)()く。 9かつ(まへ)()(あと)(したが)(もの)ども(よば)はりて()ふ『「ホサナ、()むべきかな、(しゅ)御名(みな)によりて(きた)(もの)10()むべきかな、(いま)(きた)(われ)らの(ちち)ダビデの(くに)。「いと(たか)(ところ)にてホサナ」』 11(つひ)にエルサレムに(いた)りて(みや)()り、(すべ)ての(もの)見囘(みまは)し、(とき)はや(くれ)(およ)びたれば、十二(じふに)弟子(でし)(とも)にベタニヤに()()きたまふ。
12あくる()かれらベタニヤより()(きた)りし(とき)、イエス()(たま)ふ。 13(はるか)()ある無花果(いちぢく)()()て、()をや()んと()のもとに(いた)(たま)ひしに、()のほかに(なに)をも見出(みいだ)(たま)はず、(これ)無花果(いちぢく)(とき)ならぬに()る。 14イエスその()(むか)ひて()ひたまふ『(いま)より(のち)いつまでも、(ひと)なんぢの()(くら)はざれ』弟子(でし)たち(これ)()けり。
15(かれ)らエルサレムに(いた)る。イエス(みや)()り、その(うち)にて賣買(うりかひ)する(もの)どもを()(いだ)し、兩替(りゃうがへ)する(もの)(だい)鴿(はと)()るものの腰掛(こしかけ)(たふ)し、 16また器物(うつは)()ちて(みや)(うち)()ぐることを(ゆる)(たま)はず。 17かつ(をし)へて()(たま)ふ『「わが(いへ)は、もろもろの國人(くにびと)(いのり)(いへ)(とな)へらるべし」と(しる)されたるにあらずや、(しか)るに(なんぢ)らは(これ)を「強盜(がうたう)()」となせり』 18祭司長(さいしちゃう)學者(がくしゃ)(これ)()き、如何(いか)にしてかイエスを(ほろぼ)さんと(はか)る、それは群衆(ぐんじゅう)みな()(をしへ)(をどろ)きたれば、(かれ)(おそ)れしなり。
19(ゆふべ)になる(ごと)に、イエス弟子(でし)たちと(とも)(みやこ)()でゆき(たま)ふ。
20(かれ)(あさ)(はや)(みち)をすぎしに、無花果(いちぢく)()()より()れたるを()る。 21ペテロ(おも)(いだ)してイエスに()ふ『ラビ、()(たま)へ、(のろひ)(たま)ひし無花果(いちぢく)()()れたり』 22イエス(こた)へて()(たま)ふ『(かみ)(しん)ぜよ。 23まことに(なんぢ)らに()ぐ、(ひと)もし()(やま)に「(うつ)りて(うみ)()れ」と()ふとも、()()ふところ(かなら)()るべしと(しん)じて、(こころ)(うたが)はずば、その(ごと)()るべし。 24この(ゆゑ)(なんぢ)らに()ぐ、(すべ)(いの)りて(ねが)(こと)は、すでに()たりと(しん)ぜよ、さらば()べし。 25また()ちて(いの)るとき、(ひと)(うら)(こと)あらば(ゆる)せ、これは(てん)(いま)(なんぢ)らの(ちち)の、(なんぢ)らの過失(あやまち)(ゆる)(たま)はん(ため)なり』 26[なし]
27かれら(また)エルサレムに(いた)る。イエス(みや)(うち)(あゆ)(たま)ふとき、祭司長(さいしちゃう)學者(がくしゃ)長老(ちゃうらう)たち御許(みもと)(きた)りて、 28(なに)權威(けんゐ)をもて(これ)()(こと)をなすか、(たれ)(これ)()(こと)()すべき權威(けんゐ)(さづ)けしか』と()ふ。 29イエス()(たま)ふ『われ一言(ひとこと)なんぢらに()はん、(こた)へよ、さらば(われ)(なに)權威(けんゐ)をもて、(これ)()(こと)()すかを()げん。 30ヨハネのバプテスマは、(てん)よりか、(ひと)よりか、(われ)(こた)へよ』 31(かれ)(たがひ)(ろん)じて()ふ『もし(てん)よりと()はば「(なに)(ゆゑ)かれを(しん)ぜざりし」と()はん。 32されど(ひと)よりと()はんか……』(かれ)群衆(ぐんじゅう)(おそ)れたり、(ひと)みなヨハネを(じつ)預言者(よげんしゃ)(みと)めたればなり。 33(つひ)にイエスに(こた)へて『()らず』と()ふ。イエス()(たま)ふ『われも(なに)權威(けんゐ)をもて(これ)()(こと)()すか、(なんぢ)らに()げじ』

第十二章

1イエス(たとへ)をもて(かれ)らに(かた)()(たま)ふ『ある(ひと)葡萄園(ぶだうぞの)(つく)り、(まがき)(めぐ)らし、酒槽(さかぶね)(あな)()り、(やぐら)をたて、農夫(のうふ)どもに()して、(とほ)旅立(たびだち)せり。 2(とき)いたりて農夫(のうふ)より葡萄園(ぶだうぞの)所得(しょとく)受取(うけと)らんとて、(しもべ)をその(もと)(つかは)ししに、 3(かれ)(これ)(とら)へて()ちたたき、空手(むなで)にて(かへ)らしめたり。 4(また)ほかの(しもべ)(つかは)ししに、その(かうべ)(きず)つけ、かつ(はづか)しめたり。 5また(ほか)(もの)(つかは)ししに、(これ)(ころ)したり。(また)ほかの(おほ)くの(しもべ)をも、(あるひ)()(あるひ)(ころ)したり。 6なほ一人(ひとり)あり、(すなは)()(いつく)しむ()なり「わが()(うやま)ふならん」と()ひて、最後(いやはて)(これ)(つかは)ししに、 7かの農夫(のうふ)ども(たがひ)()ふ「これは世嗣(よつぎ)なり、いざ(これ)(ころ)さん、さらばその嗣業(しげふ)は、(われ)らのものとなるべし」 8(すなは)(とら)へて(これ)(ころ)し、葡萄園(ぶだうぞの)(そと)()()てたり。 9さらば葡萄園(ぶだうぞの)(ぬし)、なにを()さんか、(きた)りて農夫(のうふ)どもを(ほろぼ)し、葡萄園(ぶだうぞの)(ほか)(もの)どもに(あた)ふべし。 10(なんぢ)聖書(せいしょ)
造家者(いへつくり)らの()てたる(いし)は、
これぞ(すみ)首石(おやいし)となれる。
11これ(しゅ)によりて()れるにて、
(われ)らの()には(くす)しきなり」
とある()をすら()まぬか』 12ここに(かれ)()イエスを(とら)へんと(おも)ひたれど、群衆(ぐんじゅう)(おそ)れたり、この(たとへ)(おのれ)らを()して()(たま)へるを(さと)りしに()る。(つひ)にイエスを(はな)れて()()けり。
13かくて(かれ)らイエスの言尾(ことばじり)をとらへて陷入(おとしい)れん(ため)に、パリサイ(びと)とヘロデ(たう)との(うち)より、數人(すにん)御許(みもと)(つかは)す。 14その(もの)ども(きた)りて()ふ『()よ、(われ)らは()る、(なんぢ)(まこと)にして、(たれ)をも(はばか)りたまふ(こと)なし、(ひと)外貌(うはべ)()ず、(まこと)をもて(かみ)(みち)(をし)(たま)へばなり。(われ)(みつぎ)をカイザルに(をさ)むるは、()きか、()しきか、(をさ)めんか、(をさ)めざらんか』 15イエス()詐僞(いつはり)なるを()りて『なんぞ(われ)(こころ)むるか、デナリを()(きた)りて(われ)()せよ』と()(たま)へば、 16(かれ)()(きた)る。イエス()(たま)ふ『これは(たれ)(かたち)、たれの(しるし)なるか』『カイザルのなり』と(こた)ふ。 17イエス()(たま)ふ『カイザルの(もの)はカイザルに、(かみ)(もの)(かみ)(をさ)めよ』(かれ)らイエスに()きて(はなは)(あや)しめり。
18また復活(よみがへり)なしと()ふサドカイ(びと)ら、イエスに(きた)()ひて()19()よ、モーセは、(ひと)兄弟(きゃうだい)もし()なく(つま)(のこ)して()なば、その兄弟(きゃうだい)かれの(つま)(めと)りて、兄弟(きゃうだい)のため嗣子(よつぎ)()ぐべしと、(われ)らに()(のこ)したり。 20ここに七人(しちにん)兄弟(きゃうだい)ありて、(あに)(つま)(めと)り、嗣子(よつぎ)なくして()に、 21第二(だいに)(もの)その(をんな)(めと)り、また嗣子(よつぎ)なくして()に、第三(だいさん)(もの)もまた(しか)なし、 22七人(しちにん)とも嗣子(よつぎ)なくして()に、(つひ)には()(をんな)()にたり。 23復活(よみがへり)のとき(かれ)らみな(よみが)へらんに、この(をんな)(たれ)(つま)たるべきか、七人(しちにん)これを(つま)としたればなり』 24イエス()(たま)ふ『なんぢらの(あやま)れるは、聖書(せいしょ)をも(かみ)能力(ちから)をも()らぬ(ゆゑ)ならずや。 25(ひと)死人(しにん)(うち)より(よみが)へる(とき)は、(めと)らず、(とつ)がず、(てん)()御使(みつかひ)たちの(ごと)くなるなり。 26()にたる(もの)(よみが)へる(こと)()きては、モーセの(ふみ)(なか)なる(しば)(くだり)に、(かみ)モーセに「われはアブラハムの(かみ)、イサクの(かみ)、ヤコブの(かみ)なり」と()(たま)ひし(こと)あるを、(いま)()まぬか。 27(かみ)()にたる(もの)(かみ)にあらず、()ける(もの)(かみ)なり。なんぢら(おほい)(あやま)れり』
28學者(がくしゃ)一人(ひとり)、かれらの(ろん)じをるを()き、イエスの()(こた)(たま)へるを()り、(すす)()でて()ふ『すべての誡命(いましめ)のうち、(なに)第一(だいいち)なる』 29イエス(こた)へたまふ『第一(だいいち)(これ)なり「イスラエルよ()け、(しゅ)なる(われ)らの(かみ)唯一(ゆゐいつ)(しゅ)なり。 30なんぢ(こころ)(つく)し、精神(せいしん)(つく)し、(おもひ)(つく)し、(ちから)(つく)して、(しゅ)なる(なんぢ)(かみ)(あい)すべし」 31第二(だいに)(これ)なり「おのれの(ごと)(なんぢ)(となり)(あい)すべし」()(ふた)つより(おほい)なる誡命(いましめ)はなし』 32學者(がくしゃ)いふ『()きかな()よ「(かみ)唯一(ゆゐいつ)にして(ほか)(かみ)なし」と()(たま)へるは(まこと)なり。 33「こころを(つく)し、知慧(ちゑ)(つく)し、(ちから)(つく)して(かみ)(あい)し、また(おのれ)のごとく(となり)(あい)する」は、もろもろの燔祭(はんさい)および犧牲(いけにへ)(まさ)るなり』 34イエスその(さと)(こた)へしを()()(たま)ふ『なんぢ(かみ)(くに)(とほ)からず』()(のち)たれも()へてイエスに()(もの)なかりき。 35イエス(みや)にて(をし)ふるとき、(こた)へて()(たま)ふ『なにゆゑ學者(がくしゃ)らはキリストをダビデの()()ふか。 36ダビデ(せい)(れい)(かん)じて(みづか)らいへり
(しゅ)わが(しゅ)()(たま)ふ、
(われ)なんぢの(てき)(なんぢ)(あし)(した)()くまでは、
()(みぎ)()せよ」
と。 37ダビデ(みづか)(かれ)(しゅ)()ふ、されば(いか)でその()ならんや』(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)(よろこ)びてイエスに()きたり。
38イエスその(をしへ)のうちに()ひたまふ『學者(がくしゃ)らに(こころ)せよ、(かれ)らは(なが)(ころも)()(あゆ)むこと、市場(いちば)にての敬禮(けいれい)39會堂(くわいだう)上座(じゃうざ)饗宴(ふるまひ)上席(じゃうせき)(この)み、 40また寡婦(やもめ)らの(いへ)()み、外見(みえ)をつくりて(なが)(いのり)をなす。その()くる審判(さばき)(さら)(きび)しからん』
41イエス賽錢函(さいせんばこ)(むか)ひて()し、群衆(ぐんじゅう)(ぜに)賽錢函(さいせんばこ)()()るるを()(たま)ふ。()める(おほ)くの(もの)は、(おほ)()()れしが、 42一人(ひとり)(まづ)しき寡婦(やもめ)きたりて、レプタ(ふた)つを()()れたり、(すなは)()(りん)ほどなり。 43イエス弟子(でし)たちを()()せて()(たま)ふ『まことに(なんぢ)らに()ぐ、この(まづ)しき寡婦(やもめ)は、賽錢函(さいせんばこ)()()るる(すべ)ての(ひと)よりも(おほ)()()れたり。 44(すべ)ての(もの)は、その(ゆたか)なる(うち)よりなげ()れ、この寡婦(やもめ)()(とも)しき(なか)より、(すべ)ての所有(もちもの)(すなは)(おの)生命(いのち)(しろ)をことごとく()()れたればなり』

第十三章

1イエス(みや)()(たま)ふとき、弟子(でし)一人(ひとり)いふ『()よ、()(たま)へ、これらの(いし)、これらの建造物(たてもの)、いかに(さかん)ならずや』 2イエス()(たま)ふ『なんぢ(これ)()(おほい)なる建造物(たてもの)()るか、(ひと)つの(いし)(くづ)されずしては(いし)(うへ)(のこ)らじ』
3オリブ(やま)にて(みや)(かた)(むか)ひて()(たま)へるに、ペテロ、ヤコブ、ヨハネ、アンデレ(ひそか)()4『われらに()(たま)へ、これらの(こと)何時(いつ)あるか、(また)すべて(これ)()(こと)()()げられんとする(とき)は、如何(いか)なる(しるし)あるか』 5イエス(かた)()(たま)ふ『なんぢら(ひと)(まどは)されぬやうに(こころ)せよ。 6(おほ)くの(もの)わが()(をか)(きた)り「われは(それ)なり」と()ひて(おほ)くの(ひと)(まどは)さん。 7戰爭(いくさ)戰爭(いくさ)(うはさ)とを()くとき(おそ)るな、かかる(こと)はあるべきなり、されど(いま)(つひ)にはあらず。 8(すなは)ち「(たみ)(たみ)に、(くに)(くに)(さから)ひて()たん」また處々(ところどころ)地震(ぢしん)あり、饑饉(ききん)あらん、これらは(うみ)苦難(くるしみ)(はじめ)なり。
9(なんぢ)()みづから(こころ)せよ、人々(ひとびと)なんぢらを衆議所(しゅうぎしょ)(わた)さん。なんぢら會堂(くわいだう)()かれて()たれ、(かつ)わが(ゆゑ)によりて、(つかさ)たち(およ)(わう)たちの(まへ)()てられん、これは(あかし)をなさん(ため)なり。 10かくて福音(ふくいん)()づもろもろの國人(くにびと)宣傳(のべつた)へらるべし。 11人々(ひとびと)なんぢらを()きて(わた)さんとき、(なに)()はんと(あらか)じめ(おも)(わづら)ふな、(ただ)そのとき(さづ)けらるることを()へ、これ()(もの)(なんぢ)()にあらず、(せい)(れい)なり。 12兄弟(きゃうだい)兄弟(きゃうだい)を、(ちち)()()にわたし、()らは(おや)たちに(さから)()ちて()なしめん。 13(また)なんぢら()()(ゆゑ)(すべ)ての(ひと)(にく)まれん、されど(をはり)まで()(しの)(もの)(すく)はるべし。
14(あら)(にく)むべき(もの)」の()つべからざる(ところ)()つを()ば(()むもの(さと)れ)その(とき)ユダヤにをる(もの)どもは、(やま)(のが)れよ。 15()(うへ)にをる(もの)は、(うち)(くだ)るな。また(いへ)(もの)()(いだ)さんとて(うち)()るな。 16(はた)にをる(もの)上衣(うはぎ)()らんとて(かへ)るな。 17()()には(みごも)りたる(をんな)と、(ちち)()まする(をんな)とは禍害(わざはひ)なるかな。 18この(こと)(ふゆ)おこらぬやうに(いの)れ、 19その()患難(なやみ)()なればなり。(かみ)萬物(ばんぶつ)(つく)(たま)ひし開闢(かいびゃく)より(いま)(いた)るまで、かかる患難(なやみ)はなく、また(のち)にもなからん。 20(しゅ)その()(すくな)くし(たま)はずば、(すく)はるる(もの)一人(ひとり)だになからん。されど()(えら)(たま)ひし選民(せんみん)(ため)に、その()(すくな)くし(たま)へり。 21()(とき)なんぢらに「()よ、キリスト此處(ここ)にあり」「()よ、彼處(かしこ)にあり」と()(もの)ありとも(しん)ずな。 22(にせ)キリスト・(にせ)預言者(よげんしゃ)(おこ)りて、(しるし)不思議(ふしぎ)とを(おこな)ひ、()()べくは、選民(せんみん)をも(まどは)さんとするなり。 23(なんぢ)らは(こころ)せよ、あらかじめ(これ)(みな)なんぢらに()げおくなり。
24()(とき)、その患難(なやみ)ののち、()(くら)く、(つき)(ひかり)(はな)たず。 25(ほし)(そら)より()ち、(てん)にある萬象(ばんしゃう)ふるひ(うご)かん。 26()のとき人々(ひとびと)(ひと)()(おほい)なる能力(ちから)榮光(えいくわう)とをもて、(くも)()(きた)るを()ん。 27その(とき)かれは使者(つかひ)たちを(つかは)して、()(はて)より(てん)(はて)まで、四方(しはう)より()選民(せんみん)をあつめん。
28無花果(いちぢく)()よりの(たとへ)(まな)べ、その(えだ)すでに(やはら)かくなりて()()ぐめば、(なつ)(ちか)きを()る。 29かくの(ごと)(これ)()のことの(おこ)るを()ば、(ひと)()すでに(ちか)づきて門邊(かどべ)にいたるを()れ。 30まことに(なんぢ)らに()ぐ、これらの(こと)ことごとく()るまで、(いま)()()()くことなし。 31(てん)()()ぎゆかん、されど()(ことば)()()くことなし。 32その()その(とき)()(もの)なし。(てん)にある使者(つかひ)たちも()らず、()()らず、ただ(ちち)のみ()(たま)ふ。 33(こころ)して()(さま)しをれ、(なんぢ)()その(とき)何時(いつ)なるかを()らぬ(ゆゑ)なり。 34(れい)へば(いへ)()づる(とき)、その(しもべ)どもに(けん)(ゆだ)ねて、各自(おのおの)(つとめ)(さだ)め、(さら)門守(かどもり)に、()(さま)しをれと(めい)()きて、(とほ)旅立(たびだち)したる(ひと)のごとし。 35この(ゆゑ)()(さま)しをれ、(いへ)主人(あるじ)(かへ)るは、(ゆふべ)か、夜半(よなか)か、(にはとり)()くころか、夜明(よあけ)か、いづれの(とき)なるかを()らねばなり。 36(おそ)らくは(にはか)(かへ)りて、(なんぢ)らの(ねむ)れるを()ん。 37わが(なんぢ)らに()ぐるは、(すべ)ての(ひと)()ぐるなり。()(さま)しをれ』

第十四章

1さて過越(すぎこし)除酵(じょかう)との(まつり)二日(ふつか)(まへ)となりぬ。祭司長(さいしちゃう)學者(がくしゃ)詭計(たばかり)をもてイエスを(とら)へ、かつ(ころ)さんと(くはだ)てて()2(まつり)(あひだ)()すべからず、(おそ)らくは(たみ)(らん)あるべし』
3イエス、ベタニヤに(いま)して、癩病人(らいびゃうにん)シモンの(いへ)にて食事(しょくじ)(せき)につき居給(ゐたま)ふとき、(ある)(をんな)(あたひ)(たか)(まじり)なきナルドの(にほひ)(あぶら)()りたる石膏(せきかう)(つぼ)()(きた)り、その(つぼ)(こぼ)ちてイエスの(かうべ)(そそ)ぎたり。 4ある人々(ひとびと)(いきど)ほりて(たがひ)()ふ『なに(ゆゑ)かく(みだり)(あぶら)(つひや)すか、 5この(あぶら)(さん)(ひゃく)デナリ(あまり)()りて、(まづ)しき(もの)(ほどこ)すことを()たりしものを』(しか)して(いた)(をんな)(とが)む。 6イエス()(たま)ふ『その()すに(まか)せよ、(なに)ぞこの(をんな)(なやま)すか、(われ)()(こと)をなせり。 7(まづ)しき(もの)(つね)(なんぢ)らと(とも)にをれば、何時(いつ)にても(こころ)のままに(たす)()べし、されど(われ)(つね)(なんぢ)らと(とも)にをらず。 8()(をんな)は、なし()(かぎり)をなして、()(からだ)(にほひ)(あぶら)をそそぎ、あらかじめ(はうむ)りの(そなへ)をなせり。 9まことに(なんぢ)らに()ぐ、全世界(ぜんせかい)いづこにても、福音(ふくいん)宣傅(のべつた)へらるる(ところ)には、この(をんな)()しし(こと)記念(きねん)として(かた)らるべし』
10ここに十二(じふに)弟子(でし)一人(ひとり)なるイスカリオテのユダ、イエスを()らんとて祭司長(さいしちゃう)(もと)にゆく。 11(かれ)()これを()きて(よろこ)び、(ぎん)(あた)へんと(やく)したれば、ユダ如何(いか)にしてか(をり)()くイエスを(わた)さんと(はか)る。
12除酵祭(じょかうさい)(はじめ)()(すなは)過越(すぎこし)羔羊(こひつじ)(ほふ)るべき()弟子(でし)たちイエスに()ふ『過越(すぎこし)(しょく)をなし(たま)ふために、(われ)らが何處(いづこ)()きて(そな)ふることを(のぞ)(たま)ふか』 13イエス二人(ふたり)弟子(でし)(つかは)さんとして()ひたまふ『(みやこ)()け、()らば(みづ)をいれたる(かめ)()(ひと)、なんぢらに()ふべし。(これ)(したが)()き、 14その()(ところ)家主(いへあるじ)に「()いふ、われ弟子(でし)らと(とも)過越(すぎこし)(しょく)をなすべき座敷(ざしき)何處(いづこ)なるか」と()へ。 15さらば調(ととの)(そな)へたる(おほい)なる二階(にかい)座敷(ざしき)()すべし。其處(そこ)(われ)らのために(そな)へよ』 16弟子(でし)たち()()きて(みやこ)()り、イエスの()(たま)ひし(ごと)くなるを()て、過越(すぎこし)設備(そなへ)をなせり。
17()()れてイエス十二(じふに)弟子(でし)とともに()き、 18みな(せき)()きて(しょく)するとき()(たま)ふ『まことに(なんぢ)らに()ぐ、(われ)(とも)(しょく)する(なんぢ)らの(うち)一人(ひとり)、われを()らん』 19弟子(でし)たち(うれ)ひて一人(ひとり)一人(ひとり)『われなるか』と()()でしに、 20イエス()ひたまふ『十二(じふに)のうちの一人(ひとり)にて、(われ)(とも)にパンを(はち)(ひた)(もの)(それ)なり。 21()(ひと)()(おのれ)()きて(しる)されたる(ごと)()くなり。されど(ひと)()()(もの)禍害(わざはひ)なるかな、その(ひと)(うま)れざりし(かた)よかりしものを』
22(かれ)(しょく)しをる(とき)、イエス、パンを()り、(しく)してさき、弟子(でし)たちに(あた)へて()ひたまふ『()れ、これは()(からだ)なり』 23また酒杯(さかづき)()り、(しゃ)して(かれ)らに(あた)(たま)へば、(みな)この酒杯(さかづき)より()めり。 24また()(たま)ふ『これは契約(けいやく)()()、おほくの(ひと)(ため)(なが)(ところ)のものなり。 25まことに(なんぢ)らに()ぐ、(かみ)(くに)にて(あたら)しきものを()()までは、われ葡萄(ぶだう)()より()るものを()まじ』
26かれら讃美(さんび)をうたひて(のち)、オリブ(やま)()でゆく。
27イエス弟子(でし)たちに()(たま)ふ『なんぢら(みな)(つまづ)かん、それは「われ牧羊者(ひつじかい)()たん、さらば(ひつじ)()るべし」と(しる)されたるなり。 28されど(われ)よみがへりて(のち)、なんぢらに(さき)だちてガリラヤに()かん』 29(とき)にペテロ、イエスに()ふ『假令(たとひ)みな(つまづ)くとも、(われ)(しか)らじ』 30イエス()(たま)ふ『まことに(なんぢ)()ぐ、今日(けふ)この()(にはとり)ふたたび()(まへ)に、なんぢ()たび(われ)(いな)むべし』 31ペテロ(ちから)をこめて()ふ『われ(なんぢ)とともに()ぬべき(こと)ありとも、(なんぢ)(いな)まず』弟子(でし)たち(みな)かく()へり。
32(かれ)らゲツセマネと()づくる(ところ)(いた)りし(とき)、イエス弟子(でし)たちに()(たま)ふ『わが(いの)(あひだ)、ここに()せよ』 33かくてペテロ、ヤコブ、ヨハネを(ともな)ひゆき、(いた)(をどろ)き、かつ(かな)しみ()でて()(たま)34『わが(こころ)いたく(うれ)ひて()ぬばかりなり、(なんぢ)此處(ここ)(とどま)りて()(さま)しをれ』 35(すこ)(すす)みゆきて、()平伏(ひれふ)し、()しも()べくば()(とき)(おのれ)より()()かんことを(いの)りて()(たま)36『アバ(ちち)よ、(ちち)には(あた)はぬ(こと)なし、()酒杯(さかづき)(われ)より()()(たま)へ。されど()(こころ)のままを()さんとにあらず、御意(みこころ)のままを()(たま)へ』 37(きた)りて、その(ねむ)れるを()、ペテロに()(たま)ふ『シモンよ、なんぢ(ねむ)るか、(いち)(とき)()(さま)しをること(あた)はぬか。 38なんぢら誘惑(まどはし)(おちい)らぬやう、()(さま)しかつ(いの)れ。()(こころ)(ねつ)すれども肉體(にくたい)よわきなり』 39(ふたた)びゆき、(おな)(ことば)にて(いの)(たま)ふ。 40また(きた)りて(かれ)らの(ねむ)れるを()たまふ、(これ)その()いたく(つか)れたるなり、(かれ)(なに)(こた)ふべきかを()らざりき。 41三度(みたび)(きた)りて()ひたまふ『(いま)(ねむ)りて(やす)め、()れり、(とき)きたれり、()よ、(ひと)()罪人(つみびと)らの()(わた)さるるなり。 42()て、われらは()くべし。()よ、(われ)()(もの)ちかづけり』
43なほ(かた)りゐ(たま)ふほどに、十二(じふに)弟子(でし)一人(ひとり)なるユダ、やがて(ちか)づき(きた)る、祭司長(さいしちゃう)學者(がくしゃ)長老(ちゃうらう)らより(つかは)されたる群衆(ぐんじゅう)(つるぎ)(ぼう)とを()ちて(これ)(ともな)ふ。 44イエスを()るもの、あらかじめ合圖(あひづ)(しめ)して()ふ『わが接吻(くちつけ)する(もの)はそれなり、(これ)(とら)へて(しか)()きゆけ』 45かくて(きた)りて(ただ)ちに御許(みもと)()き『ラビ』と()ひて接吻(くちつけ)したれば、 46人々(ひとびと)イエスに()をかけて(とら)ふ。 47(かたは)らに()(もの)のひとり、(つるぎ)()き、(だい)祭司(さいし)(しもべ)()ちて、(みみ)()(おと)せり。 48イエス人々(ひとびと)(むか)ひて()(たま)ふ『なんぢら強盜(がうたう)にむかふ(ごと)く、(つるぎ)(ぼう)とを()ち、(われ)(とら)へんとて()(きた)るか。 49(われ)日々(ひび)なんぢらと(とも)(みや)にありて(をし)へたりしに、(われ)(とら)へざりき、されど(これ)聖書(せいしょ)(ことば)成就(じゃうじゅ)せん(ため)なり』 50()のとき弟子(でし)みなイエスを()てて()()る。
51ある若者(わかもの)素肌(すはだ)亞麻(あま)(ぬの)(まと)ひて、イエスに(したが)ひたりしに、人々(ひとびと)これを(とら)へければ、 52亞麻(あま)(ぬの)()(はだか)にて()()れり。
53人々(ひとびと)イエスを(だい)祭司(さいし)(もと)()()きたれば、祭司長(さいしちゃう)長老(ちゃうらう)學者(がくしゃ)(みな)あつまる。 54ペテロ(とほ)(はな)れてイエスに(したが)ひ、(だい)祭司(さいし)中庭(なかには)まで()り、下役(したやく)どもと(とも)()して()(あたた)まりゐたり。 55さて祭司長(さいしちゃう)(およ)(ぜん)議會(ぎくわい)、イエスを()(さだ)めんとて、證據(しょうこ)(もと)むれども()ず。 56それはイエスに(たい)して僞證(ぎしょう)する(もの)(おほ)くあれども、()證據(しょうこ)あはざりしなり。 57(つひ)(ある)(もの)ども()ちて僞證(ぎしょう)して()58『われら()(ひと)の「われは()にて(つく)りたる()(みや)(こぼ)ち、()にて(つく)らぬ(ほか)(みや)三日(みっか)にて()つべし」と()へるを()けり』 59()れど(なほ)この證據(しょうこ)もあはざりき。 60ここに(だい)祭司(さいし)(なか)()ちイエスに()ひて()ふ『なんぢ(なに)をも(こた)へぬか、()人々(ひとびと)()つる證據(しょうこ)如何(いか)に』 61されどイエス(もく)して(なに)をも(こた)(たま)はず。(だい)祭司(さいし)ふたたび()ひて()ふ『なんぢは()むべきものの()キリストなるか』 62イエス()(たま)ふ『われは(それ)なり、(なんぢ)ら、(ひと)()全能者(ぜんのうしゃ)(みぎ)()し、(てん)(くも)(うち)にありて(きた)るを()ん』 63()のとき(だい)祭司(さいし)おのが(ころも)()きて()ふ『なんぞ(ほか)證人(しょうにん)(もと)めん。 64なんぢら()瀆言(けがしごと)()けり、如何(いか)(おも)ふか』かれら(こぞ)りてイエスを()(あた)るべきものと(さだ)む。 65(しか)して(ある)(もの)どもはイエスに(つばき)し、(また)その(かほ)(おほ)ひ、(こぶし)にて()ちなど爲始(しはじ)めて()ふ『預言(よげん)せよ』下役(したやく)どもイエスを()け、手掌(てのひら)にてうてり。
66ペテロ(した)にて中庭(なかには)にをりしに、(だい)祭司(さいし)婢女(はしため)一人(ひとり)きたりて、 67ペテロの()(あたた)まりをるを()、これに()()めて『(なんぢ)もかのナザレ(びと)イエスと(とも)()たり』と()ふ。 68ペテロ(うけが)はずして『われは(なんぢ)()ふことを()らず、(また)その(こころ)をも(さと)らず』と()ひて(には)(ぐち)()でたり。 69婢女(はしため)かれを()て、また(かたは)らに()(もの)どもに『この(ひと)はかの黨與(ともがら)なり』と()()でしに、 70ペテロ(かさ)ねて(うけが)はず、(しばら)くしてまた(かたは)らに()(もの)どもペテロに()ふ『なんぢは(たしか)にかの黨與(ともがら)なり、(なんぢ)もガリラヤ(ひと)なり』 71()(とき)ペテロ(うけ)ひかつ(ちか)ひて『われは(なんぢ)らの()()(ひと)()らず』と()()づ。 72その(をり)しも、また(にはとり)なきぬ。ペテロ『にはとり二度(ふたたび)なく(まへ)に、なんぢ三度(みたび)われを(いな)まん』とイエスの()(たま)ひし御言(みことば)(おも)ひいだし、(おも)(かへ)して()きたり。

第十五章

1()(あく)るや(ただ)ちに、祭司長(さいしちゃう)長老(ちゃうらう)學者(がくしゃ)ら、(すなは)(ぜん)議會(ぎくわい)ともに(あひ)(はか)りて、イエスを(しば)り、()きゆきてピラトに(わた)す。 2ピラト、イエスに()ひて()ふ『なんぢはユダヤ(びと)(わう)なるか』(こた)へて()(たま)ふ『なんぢの()ふが(ごと)し』 3祭司長(さいしちゃう)らさまざまに(うった)ふれば、 4ピラトまた()ひて()ふ『なにも(こた)へぬか、()よ、如何(いか)(おほ)くの(こと)をもて(うった)ふるか』 5されどピラトの(あや)しむばかり、イエス(さら)(なに)をも(こた)(たま)はず。
6さて(まつり)(とき)には、ピラト(たみ)(ねがひ)(まか)せて、囚人(めしうど)ひとりを(ゆる)(れい)なるが、 7ここに一揆(いっき)(おこ)し、(ひと)(ころ)して(つな)がれをる(もの)(うち)に、バラバといふ(もの)あり。 8群衆(ぐんじゅう)すすみ(きた)りて、(れい)(ごと)くせんことを(ねが)()でたれば、 9ピラト(こた)へて()ふ『ユダヤ(びと)(わう)(ゆる)さんことを(ねが)ふか』 10これピラト、祭司長(さいしちゃう)らのイエスを(わた)ししは、(ねたみ)()ると()(ゆゑ)なり。 11されど祭司長(さいしちゃう)群衆(ぐんじゅう)(そその)かし、(かへ)つてバラバを(ゆる)さんことを(ねが)はしむ。 12ピラトまた(こた)へて()ふ『さらば(なんぢ)らがユダヤ(びと)(わう)(とな)ふる(もの)をわれ如何(いか)にすべきか』 13人々(ひとびと)また(さけ)びて()ふ『十字架(じふじか)につけよ』 14ピラト()ふ『そも(かれ)(なに)惡事(あくじ)()したるか』かれら(はげ)しく(さけ)びて『十字架(じふじか)につけよ』と()ふ。 15ピラト群衆(ぐんじゅう)(のぞみ)滿(みた)さんとて、バラバを(ゆる)し、イエスを(むち)うちたるのち、十字架(じふじか)につくる(ため)にわたせり。
16兵卒(へいそつ)どもイエスを官邸(くわんてい)中庭(なかには)()れゆき、(ぜん)(たい)()(あつ)めて、 17(かれ)紫色(むらさき)(ころも)()せ、(いばら)冠冕(かんむり)()みて(かむ)らせ、 18『ユダヤ(びと)(わう)(やす)かれ』と(れい)をなし(はじ)め、 19また(あし)にて()(かうべ)をたたき、(つばき)し、(ひざま)づきて(はい)せり。 20かく嘲弄(てうろう)してのち、紫色(むらさき)(ころも)()ぎ、(もと)(ころも)()せ、十字架(じふじか)につけんとて()(いだ)せり。 21(とき)にアレキサンデルとルポスとの(ちち)シモンといふクレネ(びと)田舍(ゐなか)より(きた)りて(とほ)りかかりしに、()ひてイエスの十字架(じふじか)()はせ、 22イエスをゴルゴダ、()けば髑髏(されかうべ)といふ(ところ)()()けり。 23かくて沒藥(もつやく)()ぜたる葡萄酒(ぶだうしゅ)(あた)へたれど、()(たま)はず。 24(かれ)らイエスを十字架(じふじか)につけ、(しか)して(たれ)(なに)()るべきと、(くじ)()きて()(ころも)(わか)つ、 25イエスを十字架(じふじか)につけしは、(あさ)九時(くじ)(ころ)なりき。 26その罪標(すてふだ)には『ユダヤ(びと)(わう)』と(ふみ)せり。 27イエスと(とも)に、二人(ふたり)強盜(がうたう)十字架(じふじか)につけ、一人(ひとり)をその(みぎ)に、一人(ひとり)をその(ひだり)()く。 28[なし] 29往來(ゆきき)(もの)どもイエスを(そし)り、(かうべ)()りて()ふ『ああ、(みや)(こぼ)ちて三日(みっか)のうちに()つる(もの)よ、 30十字架(じふじか)より()りて(おのれ)(すく)へ』 31祭司長(さいしちゃう)らも(また)(おな)じく、學者(がくしゃ)らと(とも)嘲弄(てうろう)して(たがひ)()ふ『(ひと)(すく)ひて、(おのれ)(すく)ふこと(あた)はず、 32イスラエルの(わう)キリスト、いま十字架(じふじか)より()りよかし、さらば(われ)()(しん)ぜん』(とも)十字架(じふじか)につけられたる(もの)どもも、イエスを(ののし)りたり。
33(ひる)十二(じふに)()に、()のうへ(あまね)(くら)くなりて、三時(さんじ)(およ)ぶ。 34三時(さんじ)にイエス大聲(おほごゑ)に『エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ』と(よば)はり(たま)ふ。(これ)()けば、わが(かみ)、わが(かみ)、なんぞ(われ)()()(たま)ひし、との(こころ)なり。 35(かたは)らに()(もの)のうち(ある)人々(ひとびと)これを()きて()ふ『()よ、エリヤを()ぶなり』 36一人(ひとり)はしり()きて、海綿(うみわた)()葡萄酒(ぶだうしゅ)(ふく)ませて(あし)につけ、イエスに()ましめて()ふ『()て、エリヤ(きた)りて、(かれ)(おろ)すや(いな)や、(われ)(これ)()ん』 37イエス大聲(おほごゑ)(いだ)して(いき)()(たま)ふ。 38聖所(せいじょ)(まく)(うへ)より(した)まで()けて(ふた)つとなりたり。 39イエスに(むか)ひて()てる百卒長(ひゃくそつちゃう)、かかる(さま)にて(いき)()(たま)ひしを()()ふ『()にこの(ひと)(かみ)()なりき』 40また(はるか)(のぞ)()たる(をんな)たちあり、その(なか)にはマグダラのマリヤ、(せう)ヤコブとヨセとの(はは)マリヤ、(およ)びサロメなども()たり。 41(かれ)らはイエスのガリラヤに居給(ゐたま)ひしとき、(したが)(つか)へし(もの)どもなり。()(ほか)イエスと(とも)にエルサレムに(のぼ)りし(おほ)くの(をんな)もありき。
42()(すで)()れて、準備(そなへ)()すなはち安息(あんそく)(にち)(まへ)()となりたれば、 43(たふと)議員(ぎゐん)にして、(かみ)(くに)()(のぞ)める、アリマタヤのヨセフ(きた)りて、(はばか)らずピラトの(もと)()き、イエスの屍體(しかばね)()ふ。 44ピラト、イエスは()()にしかと(いぶか)り、百卒長(ひゃくそつちゃう)()びて、その()にしより(とき)()しや(いな)やを()ひ、 45(すで)()にたる(こと)百卒長(ひゃくそつちゃう)より()()りて、屍體(しかばね)をヨセフに(あた)ふ。 46ヨセフ亞麻(あま)(ぬの)()ひ、イエスを取下(とりおろ)して(これ)(つつ)み、(いは)()りたる(はか)(をさ)め、(はか)入口(いりくち)(いし)(まろば)()く。 47マグダラのマリヤとヨセの(はは)マリヤと、イエスを(をさ)めし(ところ)()ゐたり。

第十六章

1安息(あんそく)(にち)(をは)りし(とき)、マグダラのマリヤ、ヤコブの(はは)マリヤ(およ)びサロメ、()きてイエスに()らんとて香料(かうれう)()ひ、 2一週(ひとまはり)(はじめ)()()()でたる(ころ)いと(はや)(はか)にゆく。 3(たれ)(われ)らの(ため)(はか)入口(いりくち)より(いし)(まろば)すべきと(かた)()ひしに、 4()()ぐれば、(いし)(すで)(まろば)しあるを()る。この(いし)(はなは)(おほい)なりき。 5(はか)()り、(みぎ)(かた)(しろ)(ころも)()たる若者(わかもの)()するを()(いた)(をどろ)く。 6若者(わかもの)いふ『おどろくな、(なんぢ)らは十字架(じふじか)につけられ(たま)ひしナザレのイエスを(たづ)ぬれど、(すで)(よみが)へりて、此處(ここ)(いま)さず。()よ、(をさ)めし(ところ)此處(ここ)なり。 7されど()きて弟子(でし)たちとペテロとに()げよ「(なんぢ)らに(さき)だちてガリラヤに()(たま)ふ、彼處(かしこ)にて(まみ)ゆるを()ん、(かつ)(なんぢ)らに()(たま)ひしが(ごと)し」』 8(をんな)たち(いた)(をどろ)きをののき、(はか)より()()でしが、(おそ)れたれば一言(ひとこと)をも(ひと)(かた)らざりき。
9一週(ひとまはり)(はじめ)()拂曉(あかつき)、イエス(よみが)へりて()づマグダラのマリヤに(あらは)れたまふ、(さき)にイエスが(なな)つの惡鬼(あくき)()ひいだし(たま)ひし(をんな)なり。 10マリヤ()きて、イエスと(とも)にありし人々(ひとびと)の、()(かな)しみ()るときに(これ)()ぐ。 11(かれ)らイエスの()(たま)へる(こと)と、マリヤに()(たま)ひし(こと)とを()けども(しん)ぜざりき。
12()(のち)その(うち)二人(ふたり)田舍(ゐなか)()(みち)(あゆ)むほどに、イエス(こと)なりたる姿(すがた)にて(あらは)(たま)ふ。 13()二人(ふたり)ゆきて、(ほか)弟子(でし)たちに(これ)()げたれど、なほ(しん)ぜざりき。
14()ののち(じふ)(いち)弟子(でし)(しょく)しをる(とき)に、イエス(あらは)れて、(おの)(よみが)へりたるを()(もの)どもの(ことば)(しん)ぜざりしにより、()信仰(しんかう)なきと、()(こころ)頑固(かたくな)なるとを()(たま)ふ。 15かくて(かれ)らに()ひたまふ『全世界(ぜんせかい)(めぐ)りて(すべ)ての(つく)られしものに福音(ふくいん)宣傳(のべつた)へよ。 16(しん)じてバプテスマを()くる(もの)(すく)はるべし、()れど(しん)ぜぬ(もの)(つみ)(さだ)めらるべし。 17(しん)ずる(もの)には(これ)()(しるし)ともなはん。(すなは)()()によりて惡鬼(あくき)()ひいだし、(あたら)しき(ことば)をかたり、 18(へび)(にぎ)るとも、(どく)()むとも、(がい)()けず、()める(もの)()をつけなば()えん』
19(かた)()へてのち、(しゅ)イエスは(てん)()げられ、(かみ)(みぎ)()(たま)ふ。 20弟子(でし)たち()でて、あまねく福音(ふくいん)宣傳(のべつた)へ、(しゅ)(また)ともに(はたら)き、(ともな)ふところの(しるし)をもて、御言(みことば)(かた)うし(たま)へり〕